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オリンピックの青いおじさん

いよいよ始まったパリオリンピック。
私はフランス映画が好きでパリの街並みを見るのも好きなので、今回の開会式は楽しみにしていた。
そこで、今年の開会式にはどんな著名人が出るのか個人的に予想をしようと思ったのだが、ヌーヴェルヴァーグから知識をアップデートできていなかった私にはアラン・ドロン以外に思いつかなかった……
のだが、いた!
そう、あの『シンク・オア・スイム 』のキャストだ!
マチュー・アマルリックあたりがちらっとどこかに出たりするかな……でもまさかのフィリップ・カトリーヌとかね、いやないない、などと前日に考えていた。
そして27日午前2時半、いよいよ開会式が始まった。
2時間くらいなら頑張って起きて見るか、と思っていたのだがなんと6時半頃までやるらしい。
こりゃ無理だ、と15分ほど見てから録画して寝ることに。

結果、ところどころ物議をかもす内容があったのだが、私が気に入ったのは聖火を持った謎の人物が気球に乗って空を飛んでいくところだ。
スクリーンにリュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』が映ったかと思えば、スクリーンが破れて列車が飛び出てくる。
そのあと例の人物は気球に乗るのだが、どんどん上空へ飛んでいってついに宇宙まで出ると見覚えのある月が。
ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』の月だ。ロケットに見立てたフィルムケースが顔面にめり込んだあの月は、ポップになってより親しみやすい顔になっていた。
映画の勉強しててよかった〜〜! こういう部分に気がつくとすごくおもしろい。

さて、本題であるが私は前日のフラグを見事に回収してしまったのだ。
「多様性」がテーマの演目では、そのテーマのとおりさまざまな人々が登場し、ファッションショーのような細長いステージ上で踊ったり、いかに人間が個として同じものは存在しないのだと表現していた。
そしてステージには全身を青く塗ってさらにはラメでキラキラしているおじさんが。
え?! もう一度目をこらして画面を見る。
「フィリップ・カトリーヌじゃん!!」
ここが家族でいちばんの盛り上がりポイントだった。
そう、彼は『シンク・オア・スイム 』でさえない中年のティエリー役を演じていて、この映画は家族で観たので画面に写った瞬間リビングが沸いたのだ。
ただまあ知っている人が出た喜びに対して圧倒的なパフォーマンスの衝撃がすごかった……
これ大丈夫なやつですか? 全部とはいわないけど出てないよね? 一応世界的な式典だし自由と多様性を謳うとしても出てないよね……?
私がこれほどまでに気にするのにはちゃんと理由がある。
『シンク・オア・スイム 』を観てからキャストについて調べたら、フィリップ・カトリーヌがアーティスト活動もしていることを知った私はYouTubeでミュージックビデオを観てApple Musicでアルバムもダウンロードした。
『Here comes Katerine!』はユニークな楽曲ばかりで音楽の自由性について考えさせられる作品だった。
フレンチアルファベットを歌うだけ、もう働きたくないバナナ食べるからほっといてほしい曲、口ひげを返してほしい曲、などなど……
異端児といわれるゆえんがこのアルバムからも汲みとることができる。
そこでだ。働きたくないと歌う『Banana』のミュージックビデオでは、非常に遠目ではあるが、彼はスッポンポン(ほんとに裸)で海岸を走るシーンがある。
これだ、これなんだよ……この前科(言い方)のおかげで私は世界を舞台にまたやらかすのかと内心心配していたのだ。
喜び半分、心配も半分、なんだこの感情、親か?
そんなわけでフィリップ・カトリーヌのお股に注目してしまったのだが、まああれは顔の塗料と同じ色の全身タイツだと信じることにした。

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