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【医療機器開発プロセス】 序章②:医療機器って何?

割引あり

 医療機器開発プロセスの全体像でお話ししたように、医療機器の開発プロセスは一般の機器に比べて、複雑でコストのかかるものです。

 自分の作ろうとしている機器が医療機器にあたるのかどうかで、開発プロセスが大きく変わってきます。

 メーカとしても、開発品を医療機器にするかしないかは戦略上、大きな分かれ目ともいえるでしょう。

 今回は、どのようなものが医療機器になるのか、医療機器として開発することはどのようなメリットとデメリットがあるのか、についてお話しします。

医療機器って何?

医療機器って何?って聞かれたときに、皆さんはどう答えるでしょうか?

「医者が使う機械です。」
「病気を治すために使う機械です。」

様々な答えがあると思いますが、実はこれ、正確に答えるのは意外と難しいのです。

医療機器の中には医者ではなく、患者さんが自分で使うものもあります。例えば、家庭用の血圧計や肩こりなどに使う電気治療器やマッサージ機などです。血圧計などは、病気の方だけでなく、健康な人も使います。

では医療機器の定義とは何なのでしょうか?

法律上の医療機器の定義

医療機器に関する重要な法律である「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法と略します)の中では、以下のように定義されています。

人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、
又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと
が目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、
政令で定めるものをいう。

ちょっとややこしい表現ですが、言い換えると
人や動物を対象として、
「病気の診断、治療、予防を目的として使用するもの」、もしくは、
「身体の構造や機能に影響を与えるもの」
ということになります。

医療機器の定義①:身体の構造や機能に影響を与えるものとは?

「身体の構造や機能に影響を与えるもの」の例としては、心臓のペースメーカや人工関節など、体内に入れて身体の構造や機能を補完しているものは分かりやすいでしょう。それ以外にも、コンタクトレンズやメガネも視力という人間の機能を補完するという意味で医療機器になっています。

こういったものは、機能や構造に影響を与えるという意味で、使い方を間違えたり、適切な仕様になっていなかったりすると、体の機能や構造に悪影響を与える可能性もあるため、医療機器として適切に管理しましょうという意味合いがあるのだと思います。


医療機器の定義②:病気の診断、治療、予防を目的として使用するものとは?

「病気の診断、治療、予防を目的として使用するもの」というのは、その医療機器の使用目的が、病気の診断、治療、予防を意図しているか、ということです。

病気の診断、治療、予防というのは、誤った方法で行われると病状や健康状態に悪影響を与える可能性があるため、適切な機器を使って行いましょう、という意味合いなのだと思います。

一つ気を付けたいのは、ほぼ同じ仕様の製品でも、使用目的の設定の仕方で、医療機器にも非医療機器にもなりえるということです。

例えば、血液成分検査装置などは、同じような仕様でも、病院の患者さんの診断用に使われるものは医療機器になっており、研究機関などで研究用途に使用されるものは、非医療機器になっています。

但し、体の構造や機能に影響を与えるものは、前記の理屈で診断、治療、予防を目的としているかどうかに関わらず、医療機器になります。

意図しているかどうかなんて、どうやってわかるの?と思われる方もいるかもしれません。実際には、メーカの広告や病院での保険(診療報酬)の取り方によって、制限がかかっています。

医療機器でない機器について、メーカは、病気の診断、治療、予防を謳う、あるいは連想させる広告や伝え方をしてはいけないことになっています。医療機器であっても、薬事申請で認められた使用目的以外を謳うことはできません。

また、病院では、適切な医療機器を用いて病気の診断、治療、予防を行わないと、診療報酬は降りません。例えば安いからといって、研究用途の血液成分検査装置で分析したデータを診断に使用したりすると、保険(診療報酬)が降りません。(尤も、それ以上にコンプライアンス的に問題がありますが)

医療機器の定義③:政令で定めるものとは?

ちなみに定義の最後に、「政令で定めるもの」とあります。これは、こういうものが医療機器です、というリストがあるということです。
医薬品医療機器等法施行令 別表第一がそれにあたります。

81395_20200515155230-1.pdf (pref.kagoshima.jp)

医療機器を目指す?目指さない?

医療機器の開発プロセスは一般の機器に比べて、複雑でコストのかかるものです。もし、自分が作ろうとしているものが、ちょっとした工夫で医療機器にならないのであれば、そっちの方がいいのでは?と思う方もいるかもしれません。

開発側から見た医療機器を目指すメリットとデメリットを以下にまとめました(私見です)。

医療機器の品質管理体制や薬事承認取得のための規制は、一般機器の企業にとって大きな参入ハードルになります。したがって、先に参入している医療機器メーカにとっては、競合が増えにくい環境になるメリットがあります。

一方で、医療機器の品質管理体制や薬事承認に対応するためには、一般の機器よりコストがかかります

医療機器で薬事承認を取得することで、予防・診断・治療といった患者や医師にとって価値の高い使用目的や提供価値をアピールして販売できるようになります。医療機器にしないと、仮に予防・診断・治療に繋がる価値を提供したいと思っていても、直接それをアピールすることはできません。

一方で、医療機器として承認を得るために、価値を証明する試験(動物試験や臨床試験)などが必要になることもあり、時間と費用が掛かることがデメリットです。

医療機器として認可を受けると、日本の場合は、その医療機器を用いた医療は基本的には保険診療となることが多いです。保険下で使えるようになることで、患者さんの自己負担額が減り、その医療機器も使われやすくなります。

また、日本では、原則、混合診療が認められていませんので、保険診療で無い医療と保険診療を一緒に行うと、その時行った医療全てに保険が効かなくなります。その意味でも、医療機器として保険をとることが、医療機器に対する患者や医師のアクセスを容易にします

一方で、価格は国や保険者が決める診療報酬に大きく影響を受けるため、メーカ側の価格の自由度が制限されてしまいます。国や保険者にとって医療費抑制などの価値がないと思われてしまうと、低い診療報酬価格になり、メーカに儲けが出ないということもあり得ます。

メーカが開発品を医療機器にするかしないかを選択できる場合には、上記のようなメリット・デメリットを踏まえたうえで、ビジネス戦略や開発戦略を考えていくことが重要です。

まとめ

医療機器の開発プロセスは一般の機器に比べて、複雑でコストがかかるので、メーカとしても、開発品を医療機器にするかしないかは戦略上、大きな分かれ目ともいえます。

そのため、どのようなものが医療機器になるのか、医療機器として開発することはどのようなメリットとデメリットがあるのか、をしっかり認識したうえで、開発戦略を立てていくことが重要です。

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