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【映画感想】ルイス・ウェイン 生涯愛した妻と猫

 猫の絵で一躍有名となった画家、ルイス・ウェインのお話である。

 ウェインは生まれながらの先天奇形(口蓋裂)、海難事故のトラウマがあり、変わり者として生きてきていた。これらを受け入れ、「世界は美しい」ことを教えてくれた妻は、末期の乳がんで若くして病死する。妻が残した、「絶望の中であっても世界は美しい。世界を視て、そして伝えて」という言葉を希望に、病床の妻を励ますために描き始めた愛猫の絵を、喪失感を埋めるように描き続けた。ウェインは、支えとなっていた愛猫の死、統合失調症の発病、精神病院への入院中もなお、猫の絵を描き続けた。精神病院での「私は(妻の教えを)失敗してしまった」というウェインの言葉からもわかる通り、絶望の中でも生き、このように絵を描き続けてきたのは亡き妻の死の間際の言葉を守るためであったのだ。

 この映画を見て、すでに大変な人生を送っている人に追い打ちをかけるような辛い出来事が重なることへの不条理さを感じた。しかし、絶望の中で苦しみながらも、なんとか世界の美しさを捉えようと絵を描き続けた姿勢が、亡き妻と猫への深い愛情を原動力としていることに、こんなにも純粋に深く愛することができるのかと感動した。

 ウェインは統合失調症を発症する中で、電気と猫を結びつけている。猫が電気を発しているのだという。映画の中では、ウェインのいう電気とは「愛」のことではないかと説明されている。自分の見えている世界について一般的には説明がつかないことを、電気など大きな力が働いていると解釈することで、自分の世界の形を保つことができるのだろうか。守りたい世界の整合性を保つために妄想(といわれる考えが)必要になるのだろう。映画の中では、ラジオの周波を合わせると亡き妻の声が聞こえてくる様子があった。大きな喪失感を抱えながらも尚生きていくために、ウェインは妄想を必要としていたのだと思う。妄想はその人の世界にとってなくては成り立たないものであり、妄想を否定するのではなく、原因となる感情を癒していくことで、結果的に薄まっていくものであるべきではないかと感じた。妄想があるからこそ、その人の世界はなんとかその人に受け入れられる形として成り立っていることもあるのだということを忘れてはならない。

ウェインの妻は、「あなたの頭の中で、何を考えているのか知りたい」と言っていた。私も、精神疾患を抱える方々が、その研ぎ澄まされた感受性で、世界をどのように捉え、自分の世界として再構築しているのか、とても興味深く感じている。
今回、過去のトラウマと統合失調症の発症が関係しているのかどうか気になったので調べてみようと思う。
終わり!


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