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解山(げざん)【滲み】1100字


登る山を間違えた。
待ち合わせ場所に誰もいない。


わたしが登るは、
権現山。山梨の。


みんながワイワイ楽しく登るは、
権現山。神奈川の。


晴れは雲全てを断ち、
稜線の緑は密度の高い暗黒。



ひとりでの登山は、

意外にも足取り軽く、

上へ上へ集中していた。

後ろも振り返らなかった。

なんだか負けそうで。

 

1時間ぐらいで頂上に着いた。

汗をかいた。

ボトルの水も残りわずか。

頂上には「権現山」と書かれた柱が
あるだけで殺風景。


 


周りにいくつか山がある。

神奈川はどっちだろうか。

どーだ、わたしの方が早かっただろう。

 


「いや、下山して温泉入って蕎麦食うまでが、
低山登山のゴールですよ。」

いつの間にか隣にいた
半透明のひげモジャの男が言った。

半透明だが鮮やかな柿色の
シェルジャケットのおかげでよく目立つ。

 

「どうして半透明で?」

わたしが首を傾げると、その柿の男は、

長いヒゲを少し震わせて、
さっさと下山し始めた。

ついていく。

 

 
「マリオカートでも良い成績出ると
キャラが半透明になるでしょ」

トレイルランかと思うほどの早いスピードで、

ふわふわと軽快に下山していく柿の男に、

ついていくだけでも大変だった。

足を捻挫するかとヒヤヒヤしながらも、

なぜわたしはこの男について行かないと

いけないのか、不思議に思っていた。

 

 

「それいつのマリオカートですか?」

木の根っこが縦横無尽に這っている

山道に注意しながら質問したが、

柿の男からの返答は無かった。



滲み_解山(げざん)



登る時は陽がよく当たり、

暖かく、気分が良かったが、

こちら側は暗く、ジメジメしていて、

スピードもあり、なんだか、

何かから逃げているような錯覚を覚えた。

 

 

「もうすぐ温泉がありますよ。小さいですが。」

柿の男はこちらを振り返らずに喋る。

「へー、良いですね。楽しみです。」

地面に広がる木の根に

目をやりながら返事をした。

 

 
後ろの方にも気配を感じた。

わたしの後ろで下山をしている人がいる。

たぶん。振り返れないからわからないが、

3~4人の気配を感じる。

 

 
柿色の男は、

薄いベージュぐらいの色になってきていた。

「次の目印になる時は、登るスピードを
もっと早くした方がいい。追いつかれる。」

大きなヒゲがこちらを見てアドバイスした。



温泉の入り口で、もうほとんど薄い
柿の男に、最後の質問をした。

「何回ぐらい登られたんですか?」

「権現山という名前の山は、
日本に90座ぐらいあるからなー。」

と言って消えた。


わざわざ何故同じ名前をつけたのだろう。
神々の大量生産は効果あるのだろうか。


とりあえず街に出てさっさと
ヘッドライトを買わねば。

忌まわしきもの達に汚されぬよう、
自分で抜け出し、追い越さないと。


よかった。好きな食べ物は
最後に残しておくタイプで。

全て終わってからゆっくり温泉に入ろう。






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