ポエトリー・ナイトフライト第3期第3回寸評

第3期3回目。

優勝:川島むー
2位:ししど(+chori賞)
3位:川原寝太郎

むーさん。
あるようでなかった、というのは、おなじ20年選手の自分も
スラムでおもうことだけれど、けっこう差があっての1位。
「言語」というより「言語表現の基礎体力」が如実にものをいった回だったのかな。
個別感想で後述します。

と、書いたけど、まずはむーさんから。
(以後、出順や順位は関係なく)

ちなみに今回、大阪での昼オープンマイクからのハシゴ3名、
そうじゃないかもけど大阪から1名、名古屋から1名、と、「おいおいここは今出川やけど京都どこいってん」とおもいつつ、
とてもうれしかったのは特記しておきます。

なお、聞き書きなので詩のタイトルやフレーズの表記は、
微妙にちがう可能性があります。ごめんよう。


■川島むー
ハシゴ勢そのいち。
とにかく貪欲なステージだった。
掴みは「ナーランダ教」で、内容のファニーさ、キャッチーさも、
音韻、リズム感の拡げ方もこれぞベテランの切れ味。
ベテランといっても、むーさんは枯淡の境地じゃなくって、
喩えが適切かわからないけど、小劇場での学生劇団のエモさがいまだにある。
ナイトフライトでは第1回は安心安定ながら突き抜けない、
第2回は(相対的な)相性に泣いたけれど、
この夜はしっかりはっきり突き抜けてた。
錐、嚢中やめるってよ。みたいな。
ある種の開き直りというか「これが川島むーで、これであかんかったらしゃあない」
でもなく、なにかそこはかとなくたのしそうだったのが印象的。
何百回(何千回?)と板を踏んできたひとの勁さが出た。
「水の器」のテキスト強度もすばらしかった。
たぶん、むーさんはものすごくコントロール精度の高い球を操れて、
ときどき「それがゆえに」見切られてしまうんだけど、
技術はやっぱり裏切らないし、うつくしい残像を観た、とおもいました。

■三刀月ユキ
ハシゴ勢そのに。
三刀月さんのおもしろいところは、びっくり箱的な感性。
ときどきスマホでエフェクト的な音を流しながら
(あくまでオフマイクでほんの環境音程度に)やったり、
この日は最後けっこうな長尺歌って踊って締め。
本人いわくストップウォッチで計って臨むのに、
毎回がっつり時間オーバーするのは、逆に詩人っぽいというか、
むしろ小さくまとまったスラム特化文化満艦飾のこのご時世、いっそすがすがしい。
これは善悪ではなく、また個人的な感想だけど、
彼女のテキストはいい意味であんまり入ってこない。
「白」と言っていようが「黒」と言っていようが、
「それを言っている三刀月ユキ」に目が向く。
非常に視認性の高いパフォーマンスであり、
でも、観終わったあと、ふしぎとそこにことばがあったことがうれしくなる。
稀有な才能。

■川原寝太郎
ハシゴ勢そのさん(川だけに)(ていうか「川」島も「三」刀月もいけるね!)。
さておき。
キレッキレ。
寝太郎は作風は重厚なつくりこみ、多重構造、伏線と回収など、
関西には池上(宣久)さんくらいしか、ほぼほぼいない非常にロジカルなタイプだけれど、
意外と当たりはずれというか、その日その場の空気に合う合わないがある。
狙って三振を取りにいくぶんだけ、
それが「いい予定調和」「待ってました!」になるのか、
「知ってた()」で終わるのか、みたいなところも。
けれど、この日は構成が非常にハマっていた。
3編やって、特に最後の「ユアポジション」は、
そもそもが全編通してくすぐりどころにみちたテキストだけど、
選挙前のムードにひっかけてとてもうつくしかった。
20年選手の本気を視た。
もう一度言います。
うつくしかった。

■ジョナサン万次郎
もうすぐ58歳、永遠の革命家ジョナ。
(余談ですが彼とはじめて会ったころの齢にそろそろぼくも達しかけています)
とにかく声がいい。
「声がいい」にもいろいろあるけれど、
ジョナはほんとうに「声が通る」。
芝居をやってたとか、アナウンスを学んだなんてないだろうに、
(声質、倍音、帯域などのアドバンテージはあるにせよ)通る。
その頭上に、中空に詩が踊る。
思春期の懊悩をうたう「青空コンプレックス」も、
自分のバンドメンバー(知らないひとは、いやたぶん69億人は知らない)を登場させて一粒で二度おいしい「パティ・スミス」も、最高でした。
覚悟が見えるんだ。
べつに詩を書くうえで、詠むうえで、詩人を名乗るうえで、
きみたち覚悟を持て、なんておもわないけど。
ジョナは異世界転生したら幕末の志士が令和に!みたいなのを延々ループしてる。
流れついた空っぽの流木のなかに運慶の掬い出した観音さまがいはった、てかんじで。
現代詩手帖のあのwackな特集にマジでブチ切れてるのは世界ではじめに小島基成、つづいてぼく、そしてジョナだというのもまたおもしろい。

■的野町子
なんやかんや、むーさんとおなじく彼も皆勤賞で、
こないだはVOXhallのPUB営業にもきてくれたり、
ふつうに「知った顔」になりつつある。
小道具やユニット出場など毎回趣向を変えてきて、
今回はゲストがはっしー(歌人・橋爪志保)ということで
短歌朗読。めちゃくちゃ器用。
でも、「小器用」に堕しないのが超好感度高い。
マイクが苦手なのはぜんぜん悪いことじゃなくって、
せやけどそれならマイク遣いに関してもうちょっとやれることはあるかもね。
内容としては、客席にテキストを配って、
最後の一首までいって終わるとおもいきや、
そこで最初の歌にもどって終えたのは最高だった。
なるほど、こういうやりかたもあるんや!と。
(中身もラスト「帰路」→はじめ「どこへ行く」みたいな)
癖が強いけど存在感はいい意味で濃くないので、今後もたのしみ。

■待子あかね
これなんですよ、これ。
関西ではケレンやネタがやっぱり重宝されるなか、
ほんとに長いこと貫く超正統派。格調高い。
もっとも、それを世界は地味と評するかもしれないけど、
ものすごく芯の通った「詩の朗読」です。
「ポエトリー・リーディング」「スポークン・ワーズ」じゃなく「詩の朗読」。
それがどれだけ尊いことか、たぶんほとんどの方にはわかってもらえないだろう。
淡々と、けれどそこにはうっすらと、ちゃんとした濃淡があって、
演出のない、ドキュメンタリーを基にしたドラマみたいな強靭さ。
心底信頼できる詩人だとおもっています。
ただ、こういう正統派はスラムだと埋もれがちなのは残念。
大阪からの参戦で京都をテーマにした「京子」という詩がすごくよかったし、
「6月に読む詩です」と(おそらく)亡くなった友人へ「2ヶ月くらい早い」って、
お盆にかけたであろうものもぐっときました。
もう一度言うけど、これなんですよ。これ。
こういう技術、マジでみんなちょびっとでも掬ってほしい。

■バード
挙動不審、声小さい、なぜかぼくのことをchoriでなく本名で呼ぶ、で
有名な(?)もはやPUB VOXhall常連のひとり、バード。
てか、30歳だったんかーい!(本人は「30歳くらい」と言ってました。斎藤明日斗先生かーい!)
前回、なぜか突然エントリーしてくれておもしろかった。
そのとき「続ければ化けるんじゃないかな」と評したけど、
これはたぶん、続けても続けなくても「バード」って詩人は、
なにかしらあなたの人生の記憶に残っちゃうやつだ、とおもいなおした。
予測不可能なステージって、好みは分かれるだろうけど、ぼくはすき。
(機材壊すとかは別やけど)
われわれにとって、いいトラウマになればいい。
「ミュージシャン」って詩がとてもよかった。
技術面でいえばほんっとうにほんとにまだ駆け出し、
将棋なら駒の動き方はわかりました!ってとこだし、
しかもおそらくバードは定跡おぼえる気も、級位上げる意思もないけど、
詩人ってキャラ込みなので、いいじゃん、このままいこうぜ、と。
「小さな星と空」はなぜかアカペラ熱唱してたけど、
続ければきっとファンがつきそうって、これは真面目にそうおもった

■ししど
名古屋からの参加(ありがとう!)。
最高オブ最高。
なんでおれ、東京とか地方ならまだしも、こんだけ縁のある名古屋の、
こんなすばらしい表現者をいままで知らんかったんやねんと猛省。
「ラッパー、ではなくエンターテイナーです」でもう痺れたし、その言に偽りなし。
24歳ってなに?人生何回目?
しかもこのあと名古屋戻ってライブするの?
落ち着けchori。
「つまり、恋愛実験である」とかパンチラインも、
韻も固いけどけしてそれがHIPHOPに淫しすぎてなくって、
ケツでいっぱい踏む~じゃない、日本語の文法や文脈を完全に理解したうえで、
きらきら散りばめてくのには正直脱帽しました。
ほんと広義でのエンターテイナーだとおもった。
やばい。
えっと、ひとは、と敷衍するのはちがうな、ぼくは、
やばいものを観るとだいたい語彙が旅に出ます。
やばい。
やばい。
やばい。
で〆させてください。
絶対京都、今度ライブで呼ぶ!!!


次回は7月23日(土)、またPUB VOXhallでお会いしましょう!
ゲストは猫道(猫道一家)。チャンピオンステージは川島むー。
ベテランそろい踏み!
エントリー(事前ではなく当日会場にての受付)、ご観覧、お待ちしてます!!



 

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