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金久直樹さん -国際交流を楽しむ人


海外への憧れから渉外弁護士に

私が渥美坂井法律事務所・外国法共同事業に入所したのは、金融法務に興味があったことと、海外案件を多く手掛け、外国弁護士も多く、留学にも行きやすい国際的な雰囲気に惹かれたからです。

10代の頃から海外の音楽やカルチャーが好きで、いつか外国に留学したいという憧れを持っていました。それが具体的になったのは、駒場の教養課程で所属した高山博先生の「国際政治・経済・社会の変容とメディア」というゼミでのことです。毎週大量の文献を読んで議論をするスパルタなゼミで、恒例の夏合宿では、OB・OGも参加する前で学生が将来の夢を発表する場がありました。

渉外弁護士しょうがいべんごし(国境をまたぐビジネスのリーガルサポートをする弁護士)という仕事を知ったのも、そこで国際社会で活躍する先輩の話を聞いたことがきっかけです。

東京で弁護士として3年半経験をつんでから、2011年にコロンビア大学に留学しました。その後、SMBCグループの現地法人に2年間、Mayer Brown LLP(アメリカの法律事務所)に1年間出向して実務経験を積み、合計4年ニューヨークで暮らしました。

ブルックリンのグリーン・ポイントというエリアに住んでいました。新しいお店がどんどんできて、若者が多く、自由で活気があって、今でも住みたいと思うくらい大好きな街です。

ロンドンでの仕事

2015年の夏に帰国してから、また海外で仕事をしたいと思っていたら、ロンドンオフィスを立ち上げた前任者の帰任に伴って代表の席が空きました。そこに手を挙げ渡英したのが、2017年12月。今はロンドンオフィスのマネジメントと、日本とイギリス・欧州の間のビジネスのリーガルサポートを任っています。

日本の法律事務所が海外展開をするにあたっては、やはり日本企業の進出が多い中国や東南アジアが優先されます。うちの事務所はもともと金融業界に強みがあったこともあり、他事務所に先駆けて2015年に欧州の金融ハブであるロンドンに進出しました。折しもSDGsやEGSの潮流(2015年〜)、Brexitブレグジット(2020年)などの大きな動きが続き、政治的に安定している日本への投資に意欲を示す英国・欧州企業からの問い合わせがたくさんあります。

今、扱っている案件の約7割は英国・欧州の企業が日本に子会社を作ったり日本の企業を買収したりする際の日本法に関わるアドバイスです。残り3割が、逆に日本の企業の欧州投資・進出のサポートです。テック企業や小さい会社からの相談も増えてきています。

プロとしてのネットワーキング

私のもう一つの大切な役割は、海外でのマーケティング・ビジネスデベロップメントです。いろいろな国に出張し多くの国際会議に出席して、他国の弁護士とのつながりを構築しています。

事務所に寄せられる案件は、直接の問い合わせ以上に現地のほかの法律事務所から声がかかって生まれることが多いものです。私もたとえば日本の企業からフランスの案件の相談をされたら、信頼できるフランスの弁護士を紹介します。

弁護士同士のコネクションは非常に重要なので、そのためのネットワーキングイベントが、毎週世界中のどこかしらで開催されています。国際的な大きなカンファレンスもあります。例えば今年の10月末にパリで開催されたIBA(International Bar Association)の年次総会には、世界中から約5,000人以上の各国の弁護士が集まりました。

私自身もベルギー発祥のAIJA(仏: Association Internationale des Jeunes Avocats、若手法曹国際協会)という若手弁護士のネットワークの日本代表をつとめています。欧州でのイベントが多いですが、今年はナイロビ、リオデジャネイロでのイベントにも参加しました。国際交流を行うためには非常に良いネットワークですので、日本の若手弁護士にももっと参加してもらえればと考えています。日本の若手弁護士は忙しいので、1週間の休みを取って海外にいくのは難しいかもしれませんが、近いうちに日本でも何かイベントを開催したいと考えています。

動画: リオデジャネイロ、2023年総会の様子。フォーマルな会食やスポーツイベントを通してプロ同士の親交を深める。

かつては日本の弁護士は、日本にいて日本のお客さんの対応をするというのが典型でした。英語を使ったり他の国のことを考えたりしなくても、弁護士というだけで案件が取れていたのです。しかし、少しずつ国際化が進んできて、もうそういう時代ではなくなってきていると思います。日本の法律事務所の海外拠点も増え、各国の弁護士規制もグローバリゼーションに沿ったものに変わってきていて、日本の資格のまま海外で働く機会も増えています。私も弁護士としてのキャリアの半分以上をニューヨークとロンドンで過ごしています。

渉外弁護士は、ただ海外留学したら終わりではありません。その後もプロフェッショナルとしてのネットワーキングを継続し、各国の生きた情報を追っていく仕事です。世界中に友達ができるのでとても楽しくもあります。弁護士だけではありませんが、英国赤門学友会のパブ会なども、また、様々な人と出会えるのが楽しみで参加しています。

エネルギーの源

子供の頃は、音楽を聞いたり本を読んだりすることが好きでした。今もイケイケのパーティーピープルではないのですが、音楽のある場に行ってその雰囲気を楽しむことが大好きです。最初はロックが好きでしたが、今好きなのは、エレクトロニック、実験的なエクスペリメンタル、ジャズ等です。

忘れられないのは、1997年、高校2年生の時。激しい台風の中で行われた伝説的な第1回 Fujirockフジロックで、Rage Against The Machineレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン の激しいパフォーマンスを見た時のこと。台風が直撃した雨の寒い日にもかかわらず、人から立ち上ぼる蒸気で会場が真っ白になっていて、その場の雰囲気にやられてしまい、人生観が少し変わった気がします。

Fujirock 第一回の Rage Against The Machine のパフォーマンス。有名な話ですが、Fujirock はこの1回目しか富士山で開催されていません

それ以来、日本にいる時には必ず Fujirock に参加するようになりました。99年の第3回では、UK のテクノの大御所・Underworldアンダーワールド のパフォーマンスを最前列でみました。それがもう、うぉーってなって、本当に衝撃的で。テクノにハマって、音を求めて世界中のクラブやフェスティバルに行くようになりました。

Underworldの「Born Slippy」。一部99年のfujirockの映像が入っています

ちなみに、今年の夏ロンドンの Boston Manor Parkボストン・メイヤー・パーク で行われたフェスに行ったら、その Underworld がトリで登場しました。約25年を経て同じ曲をまた最前列で、しかもロンドンで聞くことになるとは思っていませんでしたが、18歳の時の感覚がよみがえり、熱いものがこみ上げてきました。

大きなフェスだけでなく小さいお店にも行くのも好きです。ロンドンは、音楽好きにとってほんとに面白い街です。毎晩、ライブハウスやバーでなにかしら催しがあり、新しい音楽シーンが生まれ続けています。仕事が終わってから、ダルストン、ハックニー、ブリクストンなどの街に音楽を聞きに行くのが、私のリフレッシュ習慣です。

旅先では、時間があればまずその街のレコードショップに行って、近くでいい音楽を聞けるバーはないかとお店の人に聞きます。そしたらだいたいすごくいいところを教えてもらえます。どの国でも、高品質のターン・テーブルや音響システムを作っている日本や日本の音楽カルチャーをリスペクトしてくれる音楽好きの人が多いと感じます。その場で普段会わない人たちと仲良くなれるし、話していたら仕事に活きるインスピレーションをもらえることもあります。

若い頃に熱くなったものってずっと残るものですよね。私にとっては音楽や自分と違うバックグラウンドを持った人達との交流が一番のエネルギー源で、仕事を頑張る力になっていると思います。世界のどこかの都市のリスニングバーで見かけることがあれば、気軽に声をかけてください!