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『神様のボート』

夏の午後が似合う小説だと思った。

私が江國香織の小説を手にしたのは、これが初めてだったと思う。
たくさん本を読む性分ではないけれど、長距離の旅行の前や、しばらく時間に余裕がある時は本屋さんで気になったものを手に入れる。
この小説もそのひとつだ。

夏の午後が似合うって何だかおかしな表現かもしれないけれど、そう感じたのだ。
夏の特に暑い日は人の姿も疎らで、世界はとても静かになる。
茹だるような暑さと、肌を灼く日差し。
汗ばんだ肌と氷の入った冷たいグラス。

この物語は終始夏なわけでもなく、南国が舞台なわけでもない。
ただ、主人公と恋人との関係が夏の午後のように思えるのだ。
夏の午後、エアコンをつけずに横になって、身体が次第に溶けていくような感覚に。
自分も蜃気楼のようにゆらゆらと揺れるような感覚に。

人によっては単なる不倫の話に思えるかもしれない。
ただこの夏の午後の感覚を、誰かが感じていてくれていると信じたい。

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