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イギリスで家を借りる その2

前回からの続きです。


はじめに

本記事はその1からの続きです。個人的体験に基づく記述なので、すべてのケースに当てはまるものではない点にご承知おき下さい。
なお以下のUK政府のリンクは主にイングランドでのルールです。地域ごとに適用される法律が違いますのでご注意ください。(特にスコットランドはかなり違います。)

その5 内見 (view the property)

不動産屋さんから空きが出ると話が入り、気に入ったものであれば内見を申し込みます。イギリスに来た時驚いたのは、内見時にはまだ済んでいる人がいて生活しているところをお邪魔するということです。もちろん事前に連絡を受けていて訪問されるのはわかっているとは思いますが。日本では他人の住んでいる家を訪問するのは、まず考えられないですね。
住宅設備ですが、古いものが多く、いろいろなものが壊れている、思ったほど性能が良くないことがあるので、気になるものは動かしてもらうとかしましょう。(例えばシャワーの出が悪いとか、暖房の機器が悪いとか)。この後で入居時のチェックもしますが、そのとき問題が発覚しても直ぐには修理されないので事前のチェックも大事です。

もし物件がOKならできるレベルならその日のうちにOKの旨を不動産屋に伝えましょう。一週間も経つとと別の人に取られてしまいます。私も複数物件みて後で最もいいものを決めて連絡すると、それは他人にすでに契約されてしまっていました。

その6 手続き書類

入居審査(Reference Check)が日本にもあるように、やはりあります。そのための申請書類を準備しないといけません。家賃をきちんと支払う能力に関してのチェックですので、チェックされるのは勤務先、年収などですが、本当に本人が勤務しているか会社に電話で問い合わせがあるので受けてくれる人(上司など)にその旨の了解を得ておく必要があります。また現在家をUKで借りている場合や借りていた場合はその過去の大家さんにも照会して、入居中にトラブルを起こしたことがないかを聞かれます。

入居審査にはしばらく時間がかかる(早くて3日くらいだったかな)のですが、その間に物件を確保しておくためHolding Depositeという保証金を払います。これは契約成立時にDepositeの一部として振り替えることになります。もちろん審査に落ちた場合はHolding depositeは返金されます。


外国人の場合は、在留資格のチェックもあります。どのようなものか、詳しくは以下の政府の説明を参照ください。実はこの在留資格のチェック、当のイギリス人にも不評で海外旅行をしたことがないなどイギリスのパスポートを作っていない人は証明するのが大変です。


その6 契約書(Tenancy agreement)確認&サイン

いよいよ契約書にサインなのですが、内容確認があります。結構長いので英語力が求められます。といっても多くの場合は事前に契約書をPDFで送ってもらえるので辞書をつかって内容確認できると思いますが。契約書をページ毎に読んで、内容がOKなら契約書のページ毎に自分のイニシャルをサインするのです。(最近は電子署名のところもあるのかな。)
契約期間や終了条件はよく確認してください。典型的な賃貸の契約は最初の半年間は契約破棄できず、その後は自動更新で契約終了時をしたい場合は2か月前(two month notice period.)に通知するという条項(break clause)です。しかし昨今は借りての立場が弱いので大家に有利な条件になっていることもあります。特に大家側が1か月で契約解除できるものは気を付けてください。大家が家を売りたくなって、いきなり出て行ってと言われていも、そんなにすぐに家は見つからないからです。
また、契約には電気のサプライヤーをどこにするかの指定など不動産屋が契約手数料を取るためなのか、本来、賃貸契約には不必要なはずの条項があったりするので細かい点にも注意が必要です。

契約内容に疑義がある、もしくは内容の把握に自信がない場合はその場ではサインはせず、公的な支援団体からのアドバイスを求めることをお勧めします。とにかく、理解できないものにはサインしないのが原則です。

その7 Deposite支払い (保証金)

保証金を支払うのですが、賃貸の保証金は別預かりするルールになっていので不動産屋さんや大家さんではなく、そのような保証金管理の団体にプールされます。退去時に、必要経費を引いたうえで返却されます。
Depositeが保管されると保証金管理の団体から通知が来るはずですので、その内容を確認してください。

保証金とは別に家賃の支払いがあり、普通は最初の1か月分かと思いますが契約によっては半年分先払いを求めるケースもあります。
その後の家賃はStanding orderという銀行から自動的に毎月、決まった日に支払う方法を設定することになるかと思います。(契約で支払方法や期日が決まっているかと思います)。
余談ですが、私が最初にイギリスに来た時困ったのは現地の銀行口座がないのですね。銀行で口座を開くには一時的ではない定住所と毎月の定収入がいるというのです。住所が先か、銀行が先か、鶏と卵の関係になります。

その7 家のチェック(check and agree an inventory)と鍵の引き渡し

Inventoryと言われるチェックリストがあり、家のどこが壊れているのか、入居時点での問題の確認を鍵の引き渡し時にします。Inventoryはテナント、大家相互の確認とテナントのサインが求められ、退去時に壊してしまった場合は補償しないといけません。このInventoryに初期状態が記載されていないと、もとから壊れていたとしても修繕費用は請求されますので手を抜かずにきちんと確認する必要があります。
UKの賃貸住宅の設備は古いこともあってかなりの確率で調子が悪いものが多いのです。ですから動かない、壊れていると疑ってチェックする姿勢が大事です。とにかくこのステップはしっかり時間をかけてやってください。

電気、ガス、水道については使用開始時点でのメーターのチェックをします。これは大家さん、相当の立ち合いで行いメーターの写真を撮って残してください。最近は電気ではスマートメーターで自動検針するももありますが、まだまだアナログです。
メーターについてはどの家がどのメーターなのか並んでいると分かりにくいのでこれも確実に把握しておいてください。後で自分でメーターをみるとき複数のメーターがあり途方に暮れてしまいます。

終わりに

やっと引っ越し荷物を搬入できるところまで来ました。ここまで読んでいただきお疲れさまでした。読むだけでも疲れると思いますが、本当に自分でこれをやるととてもストレスです。
引っ越しという観点では、これ以外にもUtility(電気、水道など)の契約の話やTVラインセンス(BBC), CouncilTax(住民税)などまだまだやるべき手続があるのですがとりあえず賃貸の話としてはここまでとします。なお賃貸については退去時の話もこれまた大事なのですが、長くなりますので別の機会にお話しをしようかと思います。

コラム なぜUKでは賃貸住宅がこんなにも不足しているのか

単に家を借りるのになぜこんなに苦労するのか、日本に住んでいる人には理解に苦しむかと思います。犯人はサッチャー政権の公営住宅の民間への払い下げ(Right to buy)を理由にする人は多いですが(これは主原因であることはそうでしょうが)そんなに単純なわけでもなく、実際には複数の要因が複雑に絡んでいると思います。
以下のリンクにはいろいろ考えられる原因を挙げています。

まずお断りとして私はこの分野の研究者でもないので、専門的な分析はできません。(それを知りたい方はこの分野の専門書、論文を参照ください)
賃貸住宅不足の理由は細かいことを挙げるといろいろありますが、私が考えるキーとなる理由は以下です。

  • 需要の問題

    • 外国人の流入による需要増、BrexitでEU内の流入は減ったがその分、EU域外から流入した。

    • 核家族化で世帯数が増え、長寿命化で親の家を相続することもなく、働く世代の賃貸住宅の需要が増えた。

    • 住宅価格が高騰したためイギリス人も賃貸からマイホーム購入に移ることができず長期にわたって借家住まいをすることになった。

  • 供給の問題

    • 開発規制や自然保護、環境規制のため新規の住宅建築が進まない。

    • 金利が高く、大家は借金をしてまで住宅に投資する気になれない。

    • Covid-19(コロナウイルス)流行時に、テナントの家賃滞納を許容して大家に負担を強いたため、大家になることによる安定した家賃収入という魅力に疑義が生じた。

賃貸住宅の供給を政府から民間にシフトしたのに、他の制度面では民間が住宅を積極的に供給するようになっていないということでしょう。
終わり