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常勤監査等委員1年目を振り返る

2022年1月に管理部門の立ち上げから関わっていた会社の常勤監査等委員に就任してから約1年間、なんとかやってこれました。
私が就任する前1年間は常勤監査等委員がおらず、複数名の非常勤の監査等委員のみで、監査活動も必要最低限にとどまっていました。
私の就任時に年間監査実施計画の案はありましたが、実際に期末の監査報告の根拠として何をどこまでどのように監査するのか、その検討から始めなければならない状況でした。


常勤監査等委員としてのスタート地点

監査役等(=監査役、監査委員、監査等委員)は、会社法により以下の義務を負っています。

  • 監査報告の作成義務

  • 取締役会への報告義務

  • 取締役会への出席義務

  • 株主総会への報告義務 など

これらの義務を果たすために、会社法で調査権等の権限が認められてはいますが、具体的な監査方法まで定められているわけではありません。
どの会社でも一般的に行われているような汎用性の高い監査業務といえば、以下のものではないでしょうか。

  • 重要会議(取締役会、経営会議等)への出席

  • 取締役との意見交換

  • 会計監査人、内部監査部門との連携

  • 稟議書等の重要な決裁書類、重要な契約書等の書類の閲覧

  • 事業所等への往査

  • 計算書類、事業報告の監査

  • 取締役の関連当事者取引の監査

しかし、事業環境や組織形態等、会社はそれぞれ置かれている環境が違いますので、当然会社ごとに適した監査体制や監査業務も違ってくるはずです。

監査役等の役割は、取締役の職務執行を監査することですが、会社ごとに適した監査業務があるのであれば、何がどうなっていれば、取締役が十分かつ適切に職務執行を行っていると判断できるのでしょうか。

上記の一般的な監査業務の中で、またはその会社独自の監査業務において、取締役の職務執行状況を判定するために、何を監査項目に選べばいいのか。
何を監査証拠として収集すればいいのか。
具体的な監査活動のひとつひとつを定めなければなりませんでした。

また、上場準備企業であるため、証券会社や証券取引所に、監査等委員会としての役割が担えているのかを審査されます。
その審査に耐え得る監査体制や、監査等委員会としての実効性を確保しなければなりません。
つまり、第三者の目にも、監査活動がコーポレートガバナンスに寄与していることが見えるようにする必要があります。

私の常勤監査等委員としてスタート地点は、このような状況から始まりました。


役に立つ書籍・資料

常勤監査等委員就任の1年前まで、たった半年ではありますが、常勤監査役の業務に就いていました。
この時はまさに監査役等監査について何もわからない初心者中の初心者でした。
そのときに書いた上記のnote「スタートアップ・IPO準備企業の常勤監査役の困惑と苦難」に記載した書籍等を改めて見返しました。
それらのうち、今回も大いに助けになってくれたものは以下に挙げてみました。

★新任監査役ガイド

公益社団法人日本監査役協会が提供している新任監査役等向けのガイドブックです。
監査役等とは何かという基本的な概念から取り扱っているため、新任監査役向けを謳ってはますが、監査実務についての記載も豊富で、事あるごとに読み返していました。

★監査実務チェックリスト研究会報告書 監査役監査チェックリスト

こちらも日本監査役協会が提供している資料で、監査業務で活用できる様々なチェックリスト例が掲載されています。
チェック項目例がかなり細かく、そのまま使用すると業務負担が重くなるため、実際にはアレンジして監査証憑にしていましたが、どういう観点で監査を進めればいいのか、という良い指標になりました。

★監査役・監査等委員・監査委員ハンドブック

会社法や監査基準等にもとづく監査役等の位置付けや、実際の監査実務の解説等、監査役等監査について幅広く記載されています。
特に第2章「監査役の12か月」は頻繁に参照し、来月は何をしなければいけないのか、そのために今月は何をしておくべきか、先月しなければならなかったことで抜け漏れはないか等を何度も確認しながら監査業務を進めていきました。

★財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準

金融庁が公表している内部統制報告制度の基準ですが、なかでも特に「Ⅰ.内部統制の基本的枠組み」が監査役等にとっては重要だと思います。
会社法では、内部統制システムの整備が取締役会の専決事項であり、監査役等は、取締役会が内部統制システムの整備・運用を適切に実施していることを監督しなければなりません。
この内部統制システムは「Ⅰ.内部統制の基本的枠組み」の内容と関連性が強いため、上記基準への理解は監査役等監査において何に重点を置くべきかを判断するときの役に立ったといえます。

これらの書籍や情報等によって、監査等委員として求められる役割や成果は何かを掴みながら、それを果たすには実際に何をどうすればいいかについては、会社の業務内容や組織体制の状況を伺い、あちらのミーティングに首を突っ込み、こちらのログデータを読み漁りつつ、大いに迷いながら自分で判断して決めていきました。


私らしい監査等委員のスタイルとは

上記のように、会社に合った監査体制の構築が大きな悩みではありましたが、もうひとつの悩みは、そもそも監査等委員に向いていないのではないか、ということでした。

初めて監査役の任に就いた時、入門書のようなものをいくつか読みました。
それらには、監査役等は経営陣と頻繁に率直なコミュニケーションをとり、良き相談役になるように、というようなことが書かれていました。
また、その頃から私が定期的に参加している監査役等の勉強会で会う方々は、誰とでも話が弾むコミュニケーションの達人ばかりでした。

一方、私は完全な内向型人間で、気軽に人とおしゃべりできる性格ではありません。
経営陣や従業員のみんなが臆することなく相談できる雰囲気を纏ったキャラクターには程遠いのです。
そのため、入門書に書かれているような、また、勉強会で会う方々のような監査等委員には、私はとてもなれないと思いました。

では、どうすればいいのか。
監査等委員監査を会社に合ったものにしていくのと同様に、私に合った監査等委員のスタイルを作り上げるしかないのではないかと考えました。

監査等委員会は、私の他に、公認会計士、弁護士、経営経験のあるVCという3名の非常勤監査等委員で構成されています。
幸いなことに、非常勤のみなさんは、それぞれの知見を活用したうえで、積極的に会社の業務を理解し、経営に関わろうとしてくださっています。

私はその方々ほどの地位も経験もありませんが、管理部門の立ち上げから社内業務に携わってきたため、会社に関してはよく知っています。
そして、管理部門時代から事業部に情報提供を求めることがよくあったので、今さら私が何を見たがっても違和感を持つ人はいません。

社内の現状把握やリスク情報の収集に努め、得たものを私なりに分析・評価し、監査等委員会でそれを共有・議論することで、非常勤のみなさんが適切に判断できるインフラを作ることを、私なりの監査等委員としてのスタイルにすることに定めました。


2年目に向けて

監査というものは、時間とコストを度外視すれば、いくらでも手間暇かけてやれるものですが、当然それは現実的ではありません。
あまり風呂敷を広げないように注意しながら、1年目は取り合えず試行錯誤でやってきました。
「あの時ああすればよかった」「もっとこうできたのに」「ここは足りないのでこの項目も付け足そう」等、1年目の監査実施状況を振り返りながら、今2年目の監査実施計画を立てています。

1年目は五里霧中でやっている感覚しかありませんでしたが、2年目は多少なりとも霧が晴れることを願っています。


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