新旧交代にある妙味
毎日四字熟語辞典を眺めていると、四字熟語にも色々あることを知る。
そもそも四字熟語とは、漢字四文字で作られた熟語のことである。昨日書いた「確定申告」も、慣用句じゃないからと四字熟語扱いしなかったが、広い意味でいえば四字熟語である。
今までテーマにしてきた四字熟語も、「慣用句」の他に、中国の古典から生まれた「古事成語」、仏教の教えを表した「仏教語」、知恵や教えが詰まった「ことわざ」と、色々ある。
有名な四字熟語の場合、古事成語であり慣用句でもあるといった様に重なるものもあるが、今までテーマにしてきた24個の四字熟語をざっくり分類するとこんな感じになる。
古事成語
金塊珠礫、随処為主、人間青山、豁然開朗、抱腹絶倒、一日千秋、不撓不屈、往事渺茫、胆大心小、捲土重来
仏教語
輪廻転生、盗人上戸、諸行無常
慣用句
明快闊達、物見遊山、現状打破、三日坊主、心機一転、抱腹絶倒、孤軍奮闘、蜿蜿長蛇、鏡花風月、多事多端
ことわざ
青天霹靂
こういった形で分類するとわかると思うが、慣れてくると文字面を見ただけで、どういう四字熟語のタイプかわかる様になってくる。
なんて読むかわからないのが古事成語、中二心をくすぐられるのが仏教語、すぐ読めて親しみやすいのが慣用句......予想して、辞書の補説以降を確認するのがおもしろい。またひとつ変な趣味ができた。
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ところで驚いたのだが、狭義の四字熟語というジャンルは、1980年代にできたそうだ。わりと最近である。だから、四字熟語に含むのか、そうでないのかという線引きも曖昧なのだろう。新しく作られた広義の四字熟語が、この数十年で慣用句化して四字熟語となったものも多いはず。今日のタイトル「新旧交代」もいつもの四字熟語辞典には載っていないので、狭義の四字熟語の仲間入りはまだ果たしていないのかもしれない。
執筆者の視点から四字熟語について考えてみると、最近は分かりやすい平易な言い回しが好まれるようになり、執筆していても故事由来の四字熟語はほとんど使うことがない。人気のビジネス書も、多くがそうなっていると思う。文字組の問題もあるが、紙面の空間がゆったりとして見える本が多く、漢字を使う割合が減っているんだろうなと思う。
一方で、ひと昔前の人が書いた本を読んでいると、古事成語がバンバン出てくる。慣用句も漢字も多用しまくるので、四字熟語祭りである。その背景には、古典の引用で知識と教養があることを示そうとする価値観があったからだろう。
ただ、これからの時代を考えると、古典の引用は無くなるように思う。知識は全てインターネット上にアップされているからだ。必要とされるのは、より多くの人との間で、齟齬なく意味が伝わる“ことば”だ。簡単な言葉を使い、組み合わせの妙を楽しみながら、軽快にあっさり味のコミュニケーションする。これなら翻訳もしやすい。古事成語も、慣用句化されたものだけが生き残り、それ以外は淘汰されていくだろう。
このまま時が経てば、お気に入りの四字熟語辞典も半分以下のボリュームになってしまうかもしれない。
と言いつつ、私は伝統主義ではないので、時代の流れで無くなるのはしょうがないし、自然なことだと思う。ただ、この無くなるか、無くならないかの瀬戸際に立たされているものには妙に惹かれる。だから今日も、四字熟語辞典をパラパラとめくりながら、何に役立つかわからない四字熟語について調べ、楽しむ。
わかりやすく役立つ情報ばかりが流れてくる時代に、わかりにくくてあまり役立たない言葉を調べては、昔の人々の感覚を探り思いを馳せる。それが自分にとっては、かけがえのない時間になりつつあるようだ。
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