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【43】七夕の教室(拡大版)2022.7.4

7月7日の某高校の教室。
昼休みの後のだるい授業。
物理の教師(学年主任で、クラス担任)が入ってくると教室に笹があり、短冊が飾ってあることに気づく。
「おう、そうか、今日は七夕か。」
笹のところに寄り、短冊を見始める。 これで時間稼ぎをしようという生徒の思惑にまんまと引っかかっている。
どれどれ、
『素敵な出会いがありますように ヨウコ』って田中か、無理無理。
『美味しいお饅頭をたくさん食べれますように』登尾か、あ、そういえばさっき奥田先生から 温泉饅頭二個もらったから一個やるよ、後で職員室に来い。 願ってみるもんだな、タナバタだけに、これがほんとの棚ボタだ、ワハハ!(教室 誰も笑わず。)
『世界が平和でありますように』 ウウン、カイホウは偉いな!
『星の中でウメボシが一等好きだ!』 なんじゃこりゃ、マチコって斎藤だな、この間矢花先生に聞いたぞ、授業してたら、まだ2時間目だってえのに早弁しようとして弁当箱開けてるところをみつけたら、白いご飯にでかい梅干しが7個だけ、親に虐待でもされてるのかと首を捻ったら、
「これは北斗神拳弁当だ。これを毎日食べて将来は魔女になるんだ。」と意味不明なことを神拳?な顔で口走ったとか、だいじょうぶか、お前の頭。
『ゆうーーーっくり、生きたいな。』 ナオミって溝下だな。お前この間の50m走9秒58だったってな、ウサイン・ボルトか?「100mだったら世界記録タイなのに」と、新海先生嘆いてたぞ。でもこの間オオツキが転んでひざを擦りむいたとき、オオツキはそそっかしいからなあ、教室飛び出してどうしたかと思ったら養護室まで走って行って絆創膏もらってきて貼ってやって、その時は見違えるように速かったってクラスが驚いてたとか。そういうのいいと思うぞ。
『ワシは絵画のオニになるのだ!』 ハタだな。これ鬼の絵か、え、自画像?もう充分なってるぞ。
『毎日千回四股踏みます。目指せ実戦派!』 後藤か、なるべくそばに寄らないようにしようっと。
『まず下のクワを折り込み、次に上のクワを折り込んでシユウデンする。これぞ究極の極意!』鳥塚か、ワカランなあ、畑耕してるのか?お前の家農家だったっけ?クワ折っちゃいかんだろ?
『逆らわず、従わず』竹中、ううむ、お前は要領がいいのか悪いのか、どうもよく判らん。
ふうーっこのクラスは判らんのが多いな。

うおっと。いかんいかん、こんなの見てて時間つぶすわけにはいかんな。授業授業と、
しかし、それにしてもだ。
お前ら、わかってるか。牽牛と織女:鷲座のアルタイルと琴座のベガ、天の河を挟んで向かい合う両方ともピカピカの一等星だ。これに同じく一等星の白鳥座のデネブを加えると夏の大三角、見事な二等辺三角形になるというのは皆知ってるな。
ちなみに全天の恒星の中で一番明るい星は 小川 分かるか?
「シリウスです」
さすが小川はかしこいな、と言いたいところだが、惜しい、答えは太陽だ。
まあ太陽は別とすると1位は言う通り大犬座のシリウスでこれが断トツに明るい。
織姫は5位、牽牛は12位だから嫁さん上位だな、ここは。ついでにデネブは19位だ。
ところで問題の牽牛と織女だが、
ある年の七夕に牽牛と織女が会って、次の日涙の別れで一旦家に戻り、休む間もなくまたすぐに織女に会いに出かけたとする。仮に牽牛が光の速さでカッ飛ぶことができたとして次に会えるのはいつだと思う?
二つの星は実際には7.5光年離れているから往復で15年後だってことだ。「こいつ一体いつ仕事するんだ」っちゅう突っ込みは置いといてもだ、 毎年一回会おうなんてのは土台無理。七夕なんてえのはハナから非科学的なお話だ。願い事したって無駄無駄、こんなことをやってる暇があったら勉強しろ、勉強 !

と、教室の隅から誰かが小さい声で

「でも、のぞみは光より速いから!」

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  アメリカの SF作家のレイ・ブラッドベリという人に 「万華鏡」という短編があります。
ロケットが壊れて 宇宙空間に投げ出された宇宙飛行士。
宇宙服の酸素が尽きるまでわずかな時間しかなくて 、同じように投げ出された仲間たちとの距離も離れ、通信も届かなくなってゆく。
そんな中で彼は自分の生きてきた道を振り返る。 そして、自分が嫌な奴で一つもいいことをしてこなかったと自己嫌悪に陥る。
「何か一つでも生きている間に良いことをしておけばよかったな。でも俺はまもなく大気圏に突入して燃え尽きて死ぬ。今からできることなんて何もないんだ 。」
「そうだ、もしかして俺が燃えたらその光は地上から見えるのかな?」

地上でお母さんが 子供と手をつないで歩いていると夜空に星が流れる。
「あら、流れ星よ、願い事を言って、願い事を!」
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こうしてみるとこの話は賢治さんの「ヨダカの星」に似てますね。

星に願いを、良い七夕を!

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