感想文「ぽつり、愛 / 雨宮天」
声優・雨宮天さんのEPシングル『雨宮天作品集1-導火線-』より、今回は「ぽつり、愛」を聴いて今見えてるコトについて。
前回:感想文「マリアに乾杯 / 雨宮天」
まとめ:楽曲感想
スタッフさんから話を聞かせてもらい、『遠距離恋愛の果てに破局を迎えてしまったカップルの実話』を元にして作られたという本楽曲。
心の中の不在を歌った曲だなあと感じていて。
想っている相手の面影を近くに見出してしまうけれど、実際には距離以上に相手の気持ちが自分から離れてしまっているように感じている女性の物語。
「それでも」と相手を信じたい。
でも、信じるって、それはそれで孤独だし、暗中模索だし、疑心暗鬼だし、つらいもので。
その薄暗闇にいる女性の心情が切なく描かれているように感じています。
ピアノの音が切ねぇ…。
と雨宮さんがお話しされていますが、このAメロ歌唱のつぶやき感が切なく、胸に響いて。
まるで雨垂れに雨粒が落ちるように、ぽつりぽつりと言葉を落としていく、そんな歌唱。
まだ信じられなくて、認めたくなくて。
自分自身の感情をうまく整理できていないんだけれど、ぽつりぽつりと零れ落ちてしまう。
そんな叙情を感じられます。
「また歩ける」というフレーズに大きな切なさを感じるのですよね。
「また歩ける」、また歩けてしまう。
あなたがいないのに。
あなたがいなくなっても、独りで、また歩いていかなければいけない。
そんな様子がこのフレーズから自分は感じられていて。
彼女にとって「あなた」がいなくなったのに変わらず流れ続ける時間こそが残酷で、明日からも彼女は目を覚まして、歩いて、時々の楽しさと、そしてしばらくは悲しさを胸にわたらしながら、変わってしまった日々を、変わらない日常を独り生きていくのだろうか。
背中は追えない、いつかの幸せ。
このサビの中で、豊かな表情を感じられる歌唱をされているのが印象的で。
前節のAメロからBメロにかけては、ぽつりぽつりと呟くように歌っていた声に感情を帯びていくように感じられて。
ゆっくり、あたたかな思い出をなぞり、あふれていく感情のような調子。
その極地としてサビのゆったりとしたまどろみがあるように受け取っていて。
だからこそ、サビ終わりの「ぽつり」とした寂寥感が際立っているように感じています。
そのつぶやきを路傍に腰を下ろして聴いていたい、そんな心地よさもある歌唱だなと。
「瞳伏せるの」の感情が下に向いていくような、ほんとうにその情景を想起させるような歌唱の味加減が好き。
相手の中にある自分の不在を認めはじめてしまうような場面に捉えていて。
繰り返しになるけど、信じるって、それはそれで孤独だし、暗中模索だし、疑心暗鬼だし、つらいよなあ。
時々は会って同じ時間を過ごすんだろうけれど、それでも本当に同じ夜にいるのだろうかと寂しくなる感じ。
あなた、貴方。
「貴方」の語源は彼方で遠くの方を意味する言葉。
私から見た貴方は、遠くの方へ行ってしまったのかな。
少しずつ、これまでの日々の中で少しずつ遠のいていくのを感じていたのかな。
「こぼしかけてつぐんだ」/「知らずにいたのに 知りたくなかったのに」
2番の歌詞は相手を信じたいというよりは、相手を信じる自分を信じていたいというような、すがるような姿をそこに感じていて。
脆く、切ない、溢れ出しそうな感情がサビへと流れていくようで。
2サビに並ぶのは、それでも断ち切れない想い。
これだけ相手を想っているのに、「不在」を歌った歌唱がとても寂しく胸を締め付けるなと。
幸福よりあなたの優しさがほしい、みたいな切なさがあって。
どうしてそこまで相手を想えるのだろうと思ったんだけれど。
でも、「あなたがすべてだった」というよりは、この人にとっては「あなたがくれたすべてが」これまでも、そしてこれからも、愛しく宝物のように思えているのかなと。
2サビ終わりの「つぶやいた」のビブラートが深い悲しみ、ぽつりこごえている様子を表しているようで印象敵ですよね。
ぽつりの「、」が好きだなあ。
区切れてしまった様子を想起させて、彼女の想いがあなたの元へ続いていないことを案に示しているようですね。
リリイベで、一瞬、タイトルが「金魚鉢」になりかけたというようなお話をされていたけれど、確かにこの隔絶感は「金魚鉢」感あるなと。
ラスサビ、やっぱり、報われなくて。
そこにあるのは、ぽつり、と何度も愛をつぶやく姿で。
繰り返しなんどもつぶやかれる、愛。
愛、愛しい。
古語の「愛しい」は「いとしい」と「かなしい」の二つの読みと意味を持ちます。
「愛(かな)しい」でもあり、「愛(いと)しい」でもある。
僕がこの楽曲で特に好きな点として、雨宮さんの歌唱の中には双方の「愛しい」が感じられるなと受け取っていて。
「かなしい」気持ちもあるんだけれど、同時にそこには相手を「いとおしく」想う気持ちも表面から感じられる。
「いとおしく」あなたへの気持ちや思い出を振り返りながら、そこに「かなしむ」姿が立ち現れていて。
これぞ「哀愁」というような、その味付けがとても美しい曲ではないでしょうか。
雨宮さんが「歌謡曲」というテーマに沿って作詞作曲を施した『雨宮天作品集1-導火線-』。
ひとくちに「歌謡」といっても様々なバリュエーションやエッセンス、世界観や歌唱が織り交ぜられていて、雨宮さんがこれまで本当にたくさんの素敵な楽曲に彩られて日々を過ごしてきたんだなと、愛が感じられる作品だなとあたたかく受け取っています。
リリイベで少しお話しされていたけれど、そうね、ナンバリングされてますから!
ここ、「1」って書いてあるでしょ!ナンバリングされているから!
ぜひ末長く続いてほしい企画だし、楽しみだな。
他にもリリイベでいろいろなアーティスト活動の展望もお話しされていましたが、そうね、本当に、これからもいろんなことが、楽しみだ。
雨宮天 1st EPシングル
「 雨宮天作品集1-導火線-」
3月22日発売
雨宮天 歌謡曲カバーライブイベント
「LAWSON presents 第四回 雨宮天 音楽で彩るリサイタル」
2023年 4月29日(祝・土) Zepp Nanba(大阪)
2023年 5月7日(日) Zepp DiverCity(東京)
雨宮天 2ndカバーアルバム
「COVERS II -Sora Amamiya favorite songs-」
2023年6月21日発売
雨宮天 1stカバーアルバム
「COVERS -Sora Amamiya favorite songs-」
発売中