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医師として勤務し大学での研究活動に至るまで

大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学 大藤さとこ

略歴
1999年大阪市立大学医学部卒業。大阪市立大学医学部附属病院第3内科(現、肝胆膵内科)に入局し研修、関連病院での勤務を経て、2002年大阪市立大学大学院医学研究科博士課程に進学し2006年に修了。2006年に大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学の助教、2010年に同講師を経て、2017年より大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学准教授。

医師を志した理由

私は幼少期から医師になりたいという夢を漠然と持っていました。私の目標とする医師は、地域のクリニック等で地域住民への医療を提供している医師でした。幼少期には風邪をひいたり、お腹をこわしたりして、地域のクリニックで診てもらうことがありました。医師はそのような心身ともに弱っている時に心から頼りになる存在ですので、地域住民から愛され尊敬されていましたし、自分もそのような医師になりたいと、強い憧れを持っていました。

現在の仕事内容とやりがい

上記の理由から、医学部学生の頃は、医師=臨床医と思っていましたので、臨床医として働くこと以外の選択肢を知りませんでした。従いまして、医学部を卒業して医師免許を取得し臨床医として働き始めたのはごく自然な流れでしたし、その頃は早く一人前の医師になれるように、日々の仕事に没頭していました。

勤務先の病院からは、休日や夜間を問わず、担当の患者さんの容態が変化すると電話がかかってくる生活ですので、あまり心が休まるときはありませんでしたが、一人一人の患者さんに向き合うように心がけていましたし、幼少期からの夢である臨床医としての職業にやりがいを感じていました。

そのような生活が変わるきっかけとなったのは、大学院博士課程に進学したことです。大学院に進学したのは、少し腰を据えて何かの研究をする時間をとるというのも、今後の医師生活の中できっと役にたつ、医師としての深みが増すと考えたからです。

私が大学院で所属した公衆衛生学教室では「人を対象として病気を予防し健康を増進する」ことを目的として疫学研究を行っており、私は学位論文のテーマとして「肝臓病の患者さんを対象として肝臓がんを予防する生活習慣」の解明に取り組みました。その研究から「1日1杯以上コーヒーを摂取する習慣のある人では、肝臓がんのリスクが低い」という結果が得られ、疫学研究の面白さを目の当たりにしました。

つまり、このような結果を、臨床の現場では病気を持った患者さんに対してその病気の進行を抑えるための助言に生かすことができます。加えて、健康な人に対して病気を予防する生活習慣の啓発にもつながりうるということに気づきました。疫学研究からこのようなエビデンスを見つけて積み重ねていくことは、私の天職かもしれないと思いました。

もともと地域住民の役に立つ医師になりたいと思っていましたので、病気の人の治療だけでなく、健康な人での病気の予防に貢献できる公衆衛生の分野は、私にマッチしていたのかもしれません。そこで、大学院修了後も、地域のクリニックで週1~2回の非常勤医師としての外来勤務を続けながら、大阪市立大学公衆衛生学教室の常勤教員となって疫学研究を継続しています。

現在の研究分野は肝臓病だけではなく、インフルエンザや百日咳・新型コロナウイルスなどの感染症、門脈血行異常症や潰瘍性大腸炎などの難病にもテーマを広げて、厚生労働科学研究費補助金・研究班による全国規模の研究に携わっています。そのような研究を通じて、全国の研究者と知り合い連携していますが、これはおそらく臨床医として働く中では経験できなかったことと思います。

特に現在注力しているのが「新型コロナウイルスワクチンの有効性と安全性に関する調査」です。多施設の先生方と連携しながら、2019年から社会生活を脅かしつづけている新型コロナウイルス感染症の収束に少しでも貢献できるように、日々責任感を持って進めています。

当然、大学に所属していることから、学生への教育も担当していますが、医学部生や大学院生に公衆衛生学や疫学研究の知識を広めることは、将来の疫学研究の発展につながりますので、こちらも重要な仕事と思っています。ほとんどの医学部生は卒業後に臨床医の道に進みますが、臨床に進んだ場合にも疫学や公衆衛生学(予防医学)からの情報は患者さんに還元することができますので、将来的な必要性も視野に入れながら教鞭をとっています。

しかし、私がこのような教育・研究の道に進んだのは、大学院で出会った教授による導きが大きいように思います。教授はインフルエンザワクチンの疫学研究を主軸に、難病の疫学研究や骨関節疾患の疫学研究なども専門としていました。当時、私たちのような大学院生にもこれらの研究に積極的に参画することを勧められましたので、まさに実体験を通じて疫学研究のイロハを学ぶことができました。

また、私は、大学院の時にこどもを出産したため育児も重要な仕事でしたが、教授は「自分にとって一番大事なことは何かという軸はぶれずに持っておくこと」、そして「人生の中での育児の重要性」を日々説いていらっしゃったので、私の中では、疫学研究の師だけでなく、本当に人生の師と仰ぐ方でした。

子育ての苦労話

大学院の時にこどもを出産したと言いましたが、大学院生は多くの場合臨床医として働きながら、大学院生としての研究を行います。また、臨床医は、当然、夜勤当直がありますので、それもこなしながら大学院生での研究を行うことになります。若いころは、1日働いた後に夜勤当直して次の日も仕事という24時間以上勤務もこなしていましたが、妊娠すると、なかなかそのような業務体制につくのは難しくなります。

私の場合は、妊娠が分かったとき、臨床で働いていた職場の上司に相談すると、夜勤当直は免除してくれましたので、安心して出産に臨むことができました。また、大学院での教授も、妊娠・出産・育児を重要な仕事と考えてくれる方でしたので、育児をしながら博士論文をまとめることも、なんとか終えることができました。

しかし、はじめての育児をしながら感じたことは、特にこどもが小さい間では夜勤当直や休日の呼び出しが難しいということです。つまり、私は育児に重きを置きたかったので、臨床医を続ける難しさに直面しました。その点、研究職の場合は、自分のペースで研究の進捗を管理できるというメリットがあり、このような背景も私が研究職に進んだきっかけになったと思います。

一方、研究職においても仕事が長引くあるいは会議が長引くなどで、こどもを預けている保育所に18時までに迎えに行くのは難しい日もあります。そのようなときは、夜間の一時保育に預けたこともありましたし、病児保育のお世話になったこともありました。こどもが小学校にあがると、下校時刻が早くなりますので、夕方19時までみてくれる地域の学童保育のお世話になりました。

急な発熱でお迎えの電話がかかってきたことも何度もありますが、同僚や教授の理解があって、すぐにお迎えに行くことができたことは、非常に有難かったです。

私も大学を卒業して20年が過ぎ、職業人生も折り返しになったことを実感していますが、これまでの生活を振り返ると、子育てをしながら非常に充実した職業生活をおくることができたのは、家族や同僚、上司など周囲の方々とおかげであり、感謝の思いでいっぱいです。今後も周囲の方々と連携しながら、社会が必要としているテーマについて答えが出せるような疫学研究を進め、地域住民の健康増進に向けて精進していきたいと思っています。

メッセージ

自分が信じた道を進むことが大切です。キャリアパスの中で、子育てを平行しながら進める困難を感じるかもしれません。また、日々の仕事を進める上で、なんらかの困難にぶつかることもあるでしょう。しかし、研究活動にあっても、その他の職業にあっても、日々の経験の中で、マイナスとなる経験はありません。どんな経験でも、自身の中で熟成し、消化をしていくことで、必ず将来に生かしていくことができます。

また、どの職業でも周囲の方々との関係構築が重要となりますが、研究活動を行う上では特に重要と思います。周囲の方々と良好な人間関係を構築していると、色々なアイディアの中で、自身の研究活動の幅が広がりますし、なんらかの困難にぶつかることがあっても、協力して乗り越えていくことができます。

自分を信じて、自分が進みたい道をみつけて、進んでいけば、いい師に出会い、いい仲間と出会い、充実した職業人生を送れることと確信しています。


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