見出し画像

Urban Innovation JAPANを語る座談会

2021年3月12日、オンラインイベント「Urban Innovation JAPANを語る会」が行われました。登壇者には豊橋市の桑原裕明さん、春日井市の荻野史彦さん、富谷市の今野善徳さんをお迎えし、ホストはUrban Innovation JAPAN(以下、UIJ)の吉永が務めました。約60分のトークをダイジェストでご紹介します。

Urban Innovation JAPANはスタートアップと行政職員が協働する、新たな地域課題解決プロジェクトです。2021年4月時点では11の自治体の、56の課題に取り組み、31の実証実験を行っています。アーバンイノベーションジャパン事業に参画する地域の取り組みをUrban Innovation [地域名]と呼んでいます。

画像1


まずは自治体とスタートアップが協働しながら課題を解決するプロジェクトUrban Innovation×「地域」の取り組みをそれぞれのまちの担当職員が語りました。

桑原さんによるUrban Innovation Toyohashiレポート

愛知県・豊橋市は東京からも大阪からも約90分。人口が約38万人の中核市です。国内有数の産出額を誇る農業と多種多様な製造業が集積しているのが特徴で、市内には豊橋技術科学大学のほか、産学官連携拠点の豊橋サイエンスコアがあるなど、産学官連携や異業種間連携も盛んなまちです。

画像2

画像3


豊橋市・桑原さん「スタートアップ企業のみなさんとの協働や課題を公開することに対する職員の反応が心配でしたが、結果的に約30件もの課題が集まり、そのうち4件の課題を公開して3件のマッチングに至りました。」

豊橋市×スタートアップ企業が取り組んだ課題
多文化共生のまち豊橋で、外国人市民へのタイムリーな情報提供を実現したい!
介護保険認定調査の効率UP!訪問スケジュール最適化ツールの開発
年間200万人が訪れる道の駅のシェアキッチンで新しいビジネスを作りたい!

豊橋市・桑原さん「結果は幸いにして高い効果が認められ、3件のうち2件については予算化につなげることができました。」

荻野さんによるUrban Innovation Kasugaiレポート

春日井市春日井市総務部情報システム推進課ICT推進室は2017年4月に新設され、当初のミッションは情報発信でした。自動車の自動走行などの取り組みは、別の課が担当で、何をしていけばいいか試行錯誤の日々でした、と荻野さんはいいます。

画像4

画像5


UIK(Kは神戸市)の取り組みを知っていたものの、足踏み状態だったと振り返ります。その後、UIJが経産省からの補助金を得たことで、今年度の実施に進めたという背景があります。

春日井市×スタートアップ企業が取り組んだ課題
年間33件の火災発生!回収ゴミからリチウムイオン電池(加熱式、電子たばこ等小型家電)をセンサーで検知し、火災を防ぎたい!
時代遅れの在庫管理を改善!消防資器材の在庫管理をデジタル化し、業務効率化を実現したい!


今野さんによるUrban Innovation Tomiyaレポート

富谷市は人口5万人のまち。仙台市のベッドタウンとして発展し、どのまちも人口が減少している中で逆に人口が増加している珍しいまちです。

画像6

画像7

富谷市・今野さん「2016年に単独での市制を施行し、新しいフェーズに入った自治体です。まちづくりを進めていくためにヒト・モノ・コトが交流するまちづくり産業交流プラザ「TOMI+(トミプラ)」を整備しました。「TOMI+」には大きく2つの事業があり、1つは人づくりのための起業支援「富谷塾」で、現在250名います。もう1本の主要事業として地域課題を官民協働で解決に導く実証事業『おためしイノベーション富谷(以下、OIT)』をつくっています。今回のUrban Innovation Tomiya(以下、UIT)の仕組みは「TOMI+」の事業の中で行われています。」

市民の思いを「TOMI+」に集め、対話を通じて仲間と学びあいながら何かを形にしていく「起業塾」があることで、地域課題とリンクしていった背景があるようです。

富谷市・今野さん「『リアルな市民の声を集約したホカホカの地域課題を一緒に解決してくれませんか』と、いろんな企業様に営業に行って、コラボしながらうまく事業の速度を上げていくような仕組みをつくっています。今年度からよりその実効性を高めるために実証実験の枠組み『OIT』をつくりました。そのタイミングで吉永さんからお話をいただいて、OITとうまく連動させたUITをつくったカタチになっています。」

一般的にはOITで実証実験を行っている見せ方にしつつ、裏側ではUIJの枠組みの2つの案件と、富谷独自のOIT独自の実証事業を行ったため、変わったスキームになっているのだとか。

画像8

富谷市・今野さん課題のピント合わせ、フォーカスが非常に重要で、さまざまな部署と対話をしながら明確にしていきました。」

富谷市×スタートアップ企業が取り組んだ課題
市民の安全を守る道路照明灯と防犯灯の維持管理を効率化したい!
脱縦割り!市民の相談に、最適かつ速やかに応え最適なサービスを提供したい!

富谷市・今野さん「後半に話したいですが、若手にとって非常に良い効果が得られたという気づきがありました。」


協働を振り返る

後半は座談会形式となり、これまでを振り返る時間となりました。

豊橋市・桑原さん「UITに取り組んでいるときは、『神戸市さんのような最先端の仕事をしているなぁ』と思いこんでしまってました(笑) ただ、一歩引いて振り返ってみると、費用対効果が気になったり、市内企業の巻き込みがなかなかできていない実感があります。冷静に考えるとこのままでいいのか不安になりますね。」

UIJ・吉永「まさに企業誘致だったり、地元の産業支援にどうUrban Innovationをつなげていくかが今後の課題ですね。」

画像9

春日井市・荻野さん「やってみて本当に『ICTの技術が課題解決につながるんだ!』という実感がありました。例えば消防は在庫管理を今まで台帳でつけていたところ、バーコードを読み取ることであっという間に効果が出たので非常に良かったですね。」

富谷市・今野さん「導入時の苦労はありました。神戸市さんをかなりリスペクトとしていたので私と富谷市長とで一緒に神戸市長を表敬訪問し、トップに理解してもらってから部長会議、課長会議を行ったんです。

長年行政にいると民間との関わりは入札か発注でしかなくて、「実証って何だ?」といった反応だったのですが、救いとしては私の部署の部長と課長が『これからは大事なんだ』と理解してもらえ、課長とともに個別に一人一人説明に当たりました。そういう動きができたことが良かったと思います。

課長決裁はいらないから、担当レベルで課題をあげてほしいと提案したところ、結果30以上の課題があがりました。

そもそもの課題を隠すという行政の体質があるのでそこをちょっとでもクリアできたのは非常に大きかったなという感想があります。

自治体内での課題集めのコツ

UIJ・吉永「やっぱり課題を集めることと、各課に理解を得るのが大変だったと思いますが、どんな工夫をされていましたか?」

画像10

豊橋市・桑原さん「実は30件も課題が集まったのは予想以上でした。一つ、コツと言えるかわかりませんが、吉永さんをお招きして庁内で説明会を行った際に、『やる気のある人だけ来てください』と呼びかけてみたらたくさん参加者が集まったんですよ。あの呼びかけはよかったかも。逆に言うと、課題を出してくれる部署は複数出してくれましたが、全く音沙汰のないところもあるのが現状です。」

UIJ・吉永「去年応募してくれた方が今年も応募してくれてますよね。『去年は課題が大き過ぎて落ちたので今年はちょっと課題を小さくしてみました』と工夫されていて、やっぱりやりたい意欲がある人たちでも、予算をなんの根拠もなく要求しても通りづらい。UIJといっしょに取り組むと費用対効果の説明資料がもらえるから予算が取りやすくなるというところが一つの担当課からの後押しなのかなと思います。

画像11

春日井市・荻野さん「課題集めをはじめたのが去年の7月。コロナ禍もあって、市内企業の応援をしていこうと産業部や企業活動支援課に働きかけをして、一課で一つ行政課題を出してもらって、その課題と市内企業をマッチングさせていこうと進めていました。そのリストの中からUIJにふさわしいものをピックアップすると14くらい課題が出てきたんです。実現できそうなところの担当課にひとつずつ、資料だけもって当たって砕けろの感じで行ったところがあって、みんなの腹に落ちたのは、その後の松村さん(UIJ)のヒアリングが効果的だったというのがありますね。」

UIJを利用したい自治体さんに向けて一言

UIJ・吉永「最後に一言ずつこれからUIJに取り組んでみようと考えている自治体さんに向けて何か一言をいただけますとありがたいです。」

画像13

富谷市・今野さん「まず富谷市は、UIJの予算はしっかりととらせていただいて来年度も継続します。あと、行政組織内に『チャレンジしていいんだ』というマインドを広げていくことが大事だと思います。特に若手職員にどんどん民間のスピード感や技術を体感しながら対話を通して共創する機会をつくっていくには非常に良い仕組みだと思っています。

だから取り組む価値は非常に高いし、今現在IT推進担当やコロナ対策チーム、市民協働、教育委員会から随時相談が来るようになりました。こういう動きって今までなかったので、UIJはさまざまな副次的効果があるというのを1年目なんですけど感じています。」

春日井市・荻野さん「実は豊橋市さんで選ばれた長寿介護課の課題は春日井市の介護・高齢福祉課でも同じ課題感を持っていて、吉永さんも交えて豊橋市さんと情報交換することができました。今、国が行っている共通化、標準化を実地で体験できて、現場レベルですり合わせていくのって本当はやってなきゃいけないんでしょうけど、なかなか同じ県内でもできてなかったというところがあって、こういうプロジェクトを通して築いていければと思っています。」

豊橋市・桑原さん「当初に期待していたよりもまだ全然職員にUITが浸透していない実感があるので、その点はまだまだこれからの頑張りが必要だと思っています。今日はさまざまな自治体の方も参加されていますし、UITを始めたことで、このようなコミュニティに混ぜてもらえたというのは非常にうれしいですね。ぜひ今後もみなさんと交流を深めていきたいです!」

画像12

UIJ・吉永「横でつながって、もっと共有できることがあると思っていて、もっと共有の場とかコミュニティのつながりをつくっていけたらと思っています。まさに介護保険の話を皮切りに、つないでいけたらと考えています。またこういう機会を設けられたらと思いますのでみなさま引き続きよろしくお願いします。」

(文/狩野哲也)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?