東京佼成ウインドオーケストラpresents課題曲コンサート2022

画像引用元:https://www.tkwo.jp/concert/subscription/158.html

課題曲コンサート2022

2022.2.17.開演19:00(開場18:00)

@東京オペラシティ

指揮:大井剛史

演奏: 東京佼成ウインドオーケストラ

プログラム

2022年度全日本吹奏楽コンクール課題曲(全曲)

Ⅰやまがたふぁんたじぃ~吹奏楽のための~/杉浦邦弘 (第31回朝日作曲賞)

行進曲「トム·タフ」/E.ビンディング(1956年度)

II マーチ「ブルー.スプリング」/ 鈴木雅史

II ジェネシス/鈴木英史

IV サーカスハットマーチ/奥本伴在

V 憂いの記憶 - 吹奏楽のための/前川保

(第13回全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位)

一休憩 Intermission 20分一

~『課題曲V』の時代(2003~2022)~

マーチ「列車で行こう」/川村昌横樹(2003年度)

躍動する魂~吹奏楽のための/江原大介(2009年度)

香り立つ利那/長生淳 (2012年度)

きみは林檎の樹を植える/谷地村博人(2014年度)

メタモルフォーゼ~吹奏楽のために~/川合清裕(2017年度)

 久しぶりのオペラシティ、多分2年ぶり(記憶の限り、直近で行ったのが東響のラヴェル・プログラム)だ。24ー12という席で、1回席の真ん中あたりだったが、比較的全体像が見えやすいもののもう少し遠目が自分的には好みだと思った。さて、本題に入ろう。実はこれまで東京佼成ウインドオーケストラ(以下、TKWO)の演奏会に行ったことはなく(CDやTVでは何度も聴いたことがあるが)、生で聞くことで改めてプロの吹奏楽団としてトップに君臨していることを実感した(他のプロの吹奏楽団を聴いていないのでそもそも比較できないではないか)。今回は「課題曲コンサート」ということもあってか、日頃のクラシックコンサートよりも中高生や大学生が多く感じた。なかには、メモを片手に懸命に耳を傾ける客もあり、それに少し感動させられた自分もあった。しかし、聴衆のマナーはよく、拍手のタイミングも完璧だったため、ホールに着くまでは半ば諦めていた曲終わりの余韻までじっくり味わうことができた。また、客席にそして、さすがTKWOの課題曲コンサート、課題曲1、2、3、5、そして後半プロの2、3、4番目の曲の作曲者が来場しており、吹奏楽の少し深いところにこられた気がする。 以降、それぞれの曲の感想など。

 行進曲「トム・タフ」。小編成での滑り出し。どうやら戦後初の吹奏楽課題曲(中学生用)らしい。イギリスの行進曲らしいサウンドを自然に作り出す技術に脱帽、31人とは思えないサウンド(A.saxが一本、D♭管のpìccoloなど今となれば斬新な要素も)。pとppの棲み分けが明確で、古典的なマーチながらここまで表現を引き出せる指揮者の実力たるや。短いながらも引き寄せられた。

 課題曲1、作曲者が山形ではなくまさかの静岡出身、しかもプロの作曲家のようだ(恥ずかしながら知らなかった)。曲頭がfluteの長いソロ(約50秒)という奏者も聞き手もドキドキのものだが、堂々たる演奏だった。大(中?)編成1曲目で、ボリュームの幅のコントラストがより鮮明になり、その強音はスピーカーでは再現できないので、来た甲斐があったと感じた。

 課題曲2、「王道というかパクりだろ」と思うのだが、それをTKWOが演奏していることにどこか笑えるものがあった。あと、作曲者はどのツラ下げてきてるのだ()タイトルのパロディみたいなもんだし。この曲を機に課題曲の毛並みが変わる予感がするが、2023はどうなるのか。

 課題曲3、委嘱作品。短く比較的簡単な譜面から、「音楽」を展開させる面白みがある曲。指揮者の練習法の提案(表現記号を一切排除して練習し、本番直前の練習でその全貌を見る)は、一見奇抜だが、音楽の本質をついたものだと感じた。それと、作曲者曰く、当演奏会の編成よりもさらに小さくしても成り立つそうだが、これぞまさに職人の技術と言ってもよいだろう。また、この曲が世に出される前からこの曲を演奏しているからこそわかる、楽譜の細かい修正があったなどの裏話も聞けた。

 課題曲4、TKWOらしい溌剌とした快演だった。個人的にはこの曲が一番好みである。

 課題曲5、この曲をもって課題曲5の歴史に幕が閉じられるが、最後に相応しいタイトル(『憂いの記憶』)ではないだろうか。この曲の作曲者は2020年度の同作曲コンクールで次章を受賞しており、その「憂い」からこの曲ができたという。指揮者曰く、足音を立てる場面でいかに美しいかということも審査のポイントなので、靴の選定は重要だそうだ。「レ」と「イ→ラ」が最初のモチーフに組み込まれているのは言われるまで気が付かなかった。これ以降が最大編成で、一段と凄みを増してきた。

 休憩・セッティング替え、ドラムセットがでてきたので2010年の課題曲5、『吹奏楽のためのスケルツォ第2番〈夏〉』をやるのかと思ったが、実際に何が演奏されたかは後に残しておこう。

 後半1曲目、作曲者がこの曲をコンクールで聴けぬまま帰らぬ人となってしまったことを知り、なにか重みのようなものを感じた。これが「課題曲5」の初作なのだが、当時は高校生も演奏できず、大学・一般部門のみで演奏されたという。課題曲5名を冠しており技術的には難曲に入るが、キャッチー(ほぼ調性音楽で変拍子なし)で編成の変更もそれなりに融通が効き、かつ3分台という今との傾向の対比がありとても興味深い。木管にそれぞれソロ(しかも伴奏なし!)があり見どころではあるが、ソロのピッチが少し気になった。しかし好きな曲を聞けた嬉しさが圧倒的に優ったと感じる。

 2曲目、これも知っている曲だった。密教を彷彿とさせるようなミステリアスな響きがたまらない。本日2回目のfoot stanp。

 3曲目、正直一番難解。それもそのはず、この曲は長期間練習しても秋が来ないことを目的の一つとして書かれた曲だからだ(本コンサートでの情報)。そして、このころまでは特殊奏法がないことが確認できた。

 4曲目、ただただ美しい。牧歌的というと語弊があるかもしれないが、打楽器の使い方一つ取ってもやはり名曲だし、こういった曲が今後、また別のコンサートでも聞けたらいいなと思った。最後に風鈴だけが響くのはおそらく『ローマの松』のオマージュだろうが、私はどちらかと言えば米津玄師の『まちがいさがし』(セルフカバー)が想起された。

 5曲目、「待ってました」と。私が中学3年の時の課題曲5なので演奏こそはしたことがないものの、全ジャンルの音楽で私が最も聴いた曲の一つだろう。あまりにも特殊な拍子・テンポなため当時から話題になっていたが、まさかプロでも苦戦するとは。指揮者の大井は楽譜の読解時に定規と計算機を用いたという。そして、初合わせの時もTKWOで「初めて」事前の振り方の説明を口頭でしたという(つまりこの曲以外ではだいたい指示なしで曲が通ってしまうという。何というソルフェージュ力、さすがTKWO!)。この数学的とも言える曲にプレイヤーの個性を反映させそれを見事に昇華させた、終始鳥肌必至の名演だった。

 アンコール、ここでドラム登場(実際ステージ上には君臨し続けていたわけだが)!大阪淀川工科高校の丸谷明夫先生を弔って、1974年、淀校が全国大会に初出場した時の課題曲だ。アンコールでやるような代物ではないがそれでもこの曲しかなかったであろう。会場は温かい空気に包まれた。

 そして、幕は閉じられた。ありがとう、TKWO、そして全ての課題曲たち。

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