運命の相手じゃなかっただけ
彼と別れた。
お互いの共通点を見つけては、運命だとはしゃいだ日々。
終わりに向かうにつれて違和感ばかりが目立つようになった。
「価値観の違い」
そんなありきたりな理由で済まそうとした。
「気持ちがなくなった」
本音は最後まで言わなかった。
好きだった気持ちさえも波にさらわれてしまった。
彼はいい人だった。とても。
気を遣う人だった。とても。
やさしい人だった。とても。
無害な人だった。
彼とは親しくなるのに時間もかからなかった。
労力も要しなかった。
運命の人だと思った。
こんなにスムーズに出会いから付き合いまで上手くいくことなんて初めてだった。何かに導かれていると確信していた。
今まで好きになった人とはタイプが違った。
ドキドキはしないけど、安心だった。
彼は間違いなく私のことが好きだと思わせてくれた。
話も合ったし、行きたいとこに付き合ってくれた。
彼との時間を楽しかったというのはなんか違う気がする。
私は満足していた。
要望はあったが、彼といることに納得していた。
ある時期から彼は自我が強くなった。
自分の意見を言うようになったし、私にたいして注文をつけてくるようになった。
気に入らなかった。
面白くなかった。
いらないと思うことさえあった。
彼が私のことをどう思っていたかは分からない。
推測の域を出ることはない。
最後まで話し合いをしなかった。
私にとっては好きな人だった。
大切な人だった。
だけれど、自分を犠牲にしてまで愛せるほどの情熱は持ってなかった。
彼は私にとっての一部ではなかった。
彼は運命の人じゃなかった。
きっとこの先数年経って、同じ街にいても出会わなくてもいい。
気付かなくてもいい。
彼は私の中からいなくなったのだから。
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