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マッチョとちいかわと僕

少し前の話です。
平日の午後。横浜市内のドトールにて。僕が仕事をしていると隣にサラリーマン着席。50代に見えますが老けて見えるだけでもしかしたら40代中盤くらいかもしれません。めちゃくちゃ太っています。あと、臭い。タバコの臭いと生乾きっぽい臭さもあります。

着席後、20分くらい。サラリーマンはスマホなどをテーブルに置いたまま、席を立ちます。おそらくトイレか、もしかしたら喫煙席にタバコを吸いに行ったのかもしれません。
そのわずか数十秒後。
テーブルに置き去りにされたスマホからAVの音声が流れるではありませんか。明らかに女性の喘ぎ声です。
理由は謎ですが、たぶんワイヤレスイヤホンでAVを見ていて(なぜカフェで?)、ワイヤレスの範囲外に出て本体再生になったとか、イヤホン側の電池が切れて本体再生になったとか、何かしら接続が切れたことに原因があるのでしょう。
しかも、流れてくる声が割と終盤の雰囲気です。例えば40分のAVで言うなら35分くらいからのクライマックスにのテンションなのです。

当時の実際の画像です。画面にモザイク処理をしておりますが、めちゃくちゃAVです。当然、店内の視線が集まります。
僕は「俺じゃないよ~」的な態度を分かりやすく示すために、無人のテーブルを「は?」みたいな怪訝な顔で大袈裟に覗き込むようにします。
店員さんが来ます。なぜか女性。こういうとき男の店員が来いよ。さっきいただろ。
スマホに触るのをためらう定員さん。かわいそうすぎる。
「あの……それ……よかったら僕が止めますよ。これ……スマホ、勝手に触ってもいいですよね?」と言った刹那、トイレか喫煙から戻りしサラリーマン。
全てを把握したらしく
「わわっ、わぁっ、わあっ!!あっ!!!」と、狂ったちいかわみたいなことを言いながらテーブルの上のものを全て鞄に入れ、ダッシュで去っていきます。
しかし、さっきから降り出した雨のせいでしょうか。出口付近のフロアが濡れていたようで、盛大にすっころびました。
すごい音がしました。ビターーーンッ!って。
シンと静まり返る店内。サラリーマン、立ち上がれない。
「わっ……あっ……」みたないこと言っています。ちいかわかよ。ちいかわって「ちいさくてかわいいもの」でして、こっちは「おおきくてきもちわるいもの」なので一つも要素どころか正反対なんですけどね。
一応、様子を見に行く僕。
そしたら、まだAVの声が聞こえているんですよ。鞄に入っている分、音量は抑えられていますが確実に聞こえます。
こんなカオス、久しぶりに見ました。

僕「大丈夫です?立ち上がれます?」
サラリーマン「わっ……あっ……」
僕「どこか痛いですか?」
サラリーマン「わっ………」

色々と見た結果、サラリーマンちいかわは転んだ際に足首を怪我していました。僕は長年柔道や格闘技をしていました。足首は何度も大怪我してきたのでその腫れ具合と内出血の具合から軽傷ではないことは分かります。
ちいかわ、立ち上がれないと思うので、僕はカウンターにいた店員さん(男性)に「起こすの手伝って」と伝えます。
そしたら男店員が「マジすかw」って。
いやいやいやいや、お前、そこは誰よりも積極的に来いよ。僕一人じゃ無理なんだよ、このちいかわの巨体を起こすのは。それに、僕だって本当はしたくないんだよ。と、思っていたら「手伝います!!」って。
お客さんの中にいた20代前半くらいであろうめちゃくちゃマッチョな男の子が手伝ってくれました。分厚い胸板と、丸太のような腕と、ワンピース フィルムレッドのシャンクスのような首。マジでありがとう。
なんとか二人でちいかわの肩を担いで椅子に座らせます。
その時、ちいかわが全体重を僕らに預けてきたのがちょっとムカつきました。少しは自分でなんとかする意思を示せ。いいか、世界はお前を中心に回っていない。僕を中心にも回っていない。それを僕はとっくの昔に受け入れた。いい加減お前も受け入れろ。いや、受け入れているのかもしれない。でも自暴自棄に生きるな。
ちなみに、この時点でまだAV止めてないんですよ。
顔をギューーーっと歪めて「フー、フーッ」と息を吐いています。
たぶん生まれて初めての大怪我なのかもしれません。わかるよ、自分の身体の一部が全く動かず、動かそうとすると激痛が走る。混乱もするし、恐怖でしかないよね。
相変わらず喘ぎ声は聞こえるし、温厚さが売りの僕ですが、なんかだんだんムカついてきてしまいまして。
「おい、聞け。大事なことを言う。あんたみたいなおじさんがいるから、僕らおじさんはどんどん生き難くなる。おじさんの人生の難易度を上げているのはおじさんなんだよ。少し痩せろ、体臭に気を使え、シャツのシワに気を使え。それができなくても、せめてAVは部屋で見ろ。世間に迷惑をかけるな。僕らおじさんは人一倍、清く正しく慎ましく生きる必要があるんだ」って言いたいところをグッと我慢して「そのAVをひとまず止めてください。足も痛いと思いますが、今行うべき行動ダントツの第1位はAVを止めることです」って言ってしまいました。途中から声が大きくなっていくのを自分でも感じます。
そしたら隣でマッチョが小さく「確かに」って言ったのがおもしろかったです。

おじさんの世界はこうやっておじさんの愚行によって生き難くなっていくのです。これは本当です。一部の愚行おじさん、奇行種おじさん、性犯罪おじさんが僕らおじさんの世界を小さく、複雑にしているのです。
ここではもう冷静でいられない。
もう店を出よう。
イライラが止まらず、店を出る準備をしてると店員さん(女性)が「ありがとうございました。めっちゃ助かりました」って。深々と頭を下げるのです。予期せぬお礼に僕も「わっ…あっ……いや」ってきもちわるいちいかわみたいになりました。
スンッ、と気持ちが晴れました。本当に心拍数がスーッと落ちくような、体温が2~3℃下がったような、シューっと空気が抜けていくような感覚がありました。
別に見返りを求めていたわけじゃないけど、それでもよかれと思って行った行為に対して何も報われないのはダメージが大きかったようです。
「ありがとうございました」の一言で色々とチャラになるからお礼ってマジで大事~と感じた話でした。
帰り際、上機嫌の僕はマッチョの席まで行って「さっきはありがとうございました」と頭を下げ、お店を出ました。
みんな、お礼はどんどん言っていこうぜ。
僕らおじさんは人一倍清く正しく慎ましく礼儀正しく生きようぜ。あとAVは家で見ようぜ。

ありがとうございました
おしまい

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