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ファイナル南3局問題を振り返る。

5月18日、Mリーグ3年目、ファイナル最終戦。

ドリブンズの楽屋放送では、最後の試合を前に「最終戦をどう打つべきか」の話し合いが始まっていた。

ドリブンズはファイナル4チームの中で、最下位。
最後の一試合で、賞金1千万円の3位にアガるためには、現在3位のチームとトップラスで、18万点近くゲットしなくてはならない。細かい数字はもうどうでもいいくらい、1試合ではまず埋めきれないポイント差。

俗に言う「目無し状態」である。
最終戦の出場選手は村上と決まっていた。



村上「あきらめたいから、アガリたいって感じなのね!」

急に力強く飛び出した「あきらめたい」というワードに、困惑する園田。

村上「奇跡は狙わないっ!」

園田が話の整理を始める。最後の親番が終わったところで、レース順位を上げるという「本来のMリーグの目的」はあきらめて、半荘ポイントをより多く取りに行くことに「チーム目標を変更」する。

そういうことだろう、と。

これも1つの選択肢じゃな、と、わしも思った。

ただ視聴者の立場や目線を考えたら、どうじゃろう。特に最近放送を見始めた人や、この最終戦で初めてMリーグを見た人は「より上の順位を目指し、賞金を狙いに行く大会」というドラマ設定で見ている。それで宣伝もしている。説明もないままの目標変更は、視聴者が困惑するのは容易に想像できた。


村上「臨機応変にやらせてもらっていいですか?」
園田「あ、ずんたんがね…うん!」

ここでドリブンズの方針は「村上にまかせる」ということを、村上が決めた

監督はずっと無言である。


よって放送後に
「悪いのはずんたんじゃない! これは監督が、チームが決めたことだ!」
と、かばって暴れてた人たちは、大間違いである。
監督はノーアクションなのだから。

結果「悪いのはずんたんだった!」と言ってるのと、同義である。
猛省していただきたい。別に悪くはない。
「好き」だけが理由で、感情的に言葉を吐くと、知らずに好きを踏みつけている。

さあ2戦目の開始時間は、もうすぐそこまで近づいている。


最終戦の打ち手であり、評価を直球で受けることになるであろう村上が方針の大筋を決めた。それを園田が整頓し、まわりの顔を見て確認する。誰も文句はなさそうだ。方針がここに決定。

「南場の親番まで頑張って、その先も半荘トップを目指してアガリに行く」
「とにかく、村上の判断にまかせる」

悪くないと思う。
時間はない。誰かが思い切って決めなくちゃいけない。

丸山と監督は、この場で無力である。無色の窒素である。
たろうは過去に自身のタイトル戦、目無し問題を前に悩み苦しんだ経験もあり、いろんな考えもあっただろうが。ここでは村上の気持ちを尊重したようだ。

ただその後
「なにやっても怒られるし」
「もう三麻せえ!」
などと、多少は試合後に降ってくるであろう、視聴者から批判を思い浮かべ、すでに愚痴が始まりだした。やはりみんなそこは気にしてるようだ。しかし、ちょっと早い。放送が身内向けすぎる。

会話の内容が、言い方を悪くすれば「素人はどうせわかんねえんだよなー」の愚痴である。そうは言ってないが、そういう内容の愚痴が続く。わかる、気持ちはわかるが、そこがMリーグのお客様なのだ。

見たい人だけ見て、の競技麻雀の時代とは違う。

しかし目無し状態で、落ち込みがちな空気をなんとかしようと、わざと軽口をたたいて楽屋のムードを上げようとしてる努力は伝わった。園田が笑いを取り、丸山が合いの手を入れる。それはそれで、チームワーク的に素敵な光景ではないか。

…監督。何か喋れ。

ファイナル最終戦開始。


村上がガシガシと景気よくアガリだし、気づけば大きいトップ目に。

わしは(可哀想じゃな、こんな時に手が入るかねw)と半笑いだったが。さすがMリーグ漫画で3万人近くに相互フォローを持つウヒョ助、この3年、毎日誰よりもMリーグファン大勢の相手をしてきた男。コメントで空気が伝わってくる。目無し選手の大暴れに、ライト層が完全にシラケている。このムードはまずい。

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転ばぬ先の杖。

うっかりライトファンが「なんだこれ、つまんねえな」と本音を吐いたが最後、Mリーガーファンたちに囲まれ、総フルボッコにあってしまう。昔から麻雀TLではよく見た光景だ。ネットリンチに強いわしはともかく、一般ファンは耐えられない。

(批判はやめとけよ、いいことないぞ、気持ちはわかるが我慢しろ)

の、合図である。

粘って頑張ったものの、村上の南場の親がとうとう終わる。

トップ目がドリブンズの村上。
2着目のに風林火山の勝又。

サクラナイツとアベマズは防戦一方で沈んでおり、局が進むほど優勝への条件が厳しくなっていった。レース首位・風林火山の優勝が、ジリジリと近づいてきた。

ここで、のちに麻雀TLを騒がせる「問題の差し込み」が、卓上に発生した。


南3局、親番サクラナイツ内川。


「このまま半荘トップだけは取る!」に、チーム目標をひっそりチェンジしていた村上。別にひっそりしたかったわけじゃない。視聴者に伝えられる機会など、そもそも放送中になかったのだ。試合終了後にもなかったので、そこは可哀想である。

2着目の勝又が仕掛けてすぐに、6-9s待ちで3900点のテンパイ。

対する3人にも(あ、テンパイだろうな)という気配は伝わっていただろう。そこで村上が手の内から、通ってない危ないスジを次々と切り出していったのだ。

実況解説席には、解説土田と実況日吉
まだそれが、村上から勝又への「差し込みするための切り出し」だということには気づいていない様子。しばらくして土田がやっと気づき、差し込みというワードを発する。この盛り上がり最高潮の試合で、まさか…という感じで、日吉が困惑する。視聴者の気持ちを大事にする連盟ではありえない発想だ。

半年間放映したドラマの最終回、まさか差し込みまでして、村上がトップ取りを徹底するとは想像していなかったのだろう。それはわしら視聴者もそうである。驚いた。

しかしそれは、試合を眺めていたドリブンズのチームメイトもそうだった。園田はさすがにすぐ、村上の無スジ押しに気づいた。

おそらく差し込みが目的なのも8割わかったはずだが「勝又がまだテンパイしてないと思っての危険牌の先切り」で村上が打ち出してると信じたかったようだ。

それを願うような発言をしていた園田、そのはずと同調する丸山。しかしすぐにやはり(ずんたん差し込みしにいってる)と確信する園田。あの村上が勝又のテンパイ気配に気づかないわけがない。

差し込みだ。あいつ…この場面で差し込みにいってる。
なんてやつだ!

ある意味、すげえ!!



村上が切り出した6sが刺さり、勝又の3900のアガリ。

トップ目の村上が、2着目の勝又に差し込んで、オーラスに進んだ。
オーラスの親番は、勝又である。

実況解説席
は、村上がトップを取りに行ったというトークは簡単にしたものの。その差し込みの意図や、有利な理屈などは説明しきれなかった。それはそうだ、すぐに最大の山場オーラスが始まる。そんな説明に終止して、オーラスを終わらせるわけにはいかない。もっといえば、ライトな視聴者には、説明したところでまったくわからないだろう。

正直、わしもすぐよくわからなかった。

半荘トップを取りに行くのに、背中を追ってくる2着目に点棒をプレゼントする理屈がわからない。しかも直撃なので、結果7800点が縮まるプレゼントだ。でかすぎる。

局が進むといっても、その先に待ってるのは、2着目勝又の親番なのである。普通はそんな損しかない差し込み、絶対やらない。

ライバルのトップまくり条件を楽にして、ライバルを追う3着目の親番まで蹴ってやるなんて。おまえは恋人か。

しかしそれは

親番で伏せて2着終了でも優勝の勝又は、トップを無理に狙いに来ない」という前提での差し込みであると、しばらくしてわしにもわかった。

風林火山に優勝をくれてやれば、こちらの半荘トップも安泰。
そういう差し込みだ。

ややや。そんなのアリかね…。

議論の余地があるな…と思いながらも、考えの整理つかないまま、オーラスの山場を眺めた。気持ちここにあらずである。勝又優勝はほぼほぼ先ほどの差し込みで決定打、そしてそれが気になって、全然試合が頭に入ってこない。

最後は簡単にテンパイした手を、村上がサクッとツモアガって、その半荘をトップ終了。そしてそれは、風林火山の優勝を決めた瞬間であった。


(これはまずい、揉めるぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!)

わしの胸がドキドキ高鳴った。嵐の予感である。
心の中の工藤静香が「嵐の素顔」を歌い始めた。

いつもなら「面白かったあ!!」と速攻で叫んでいそうなフォロワーさんたちが、そこそこ大勢、無言である。きっと言葉を選んでいるのだろう。


居間でムスメと放送を見ていた、わしの嫁様が仕事場に来て「なんで村上さんあんなに、はしゃいでアガってたの?」という、ダイレクトで素朴な質問をぶつけてきた。

わしは答えられなかった。

説明は長くなるし、まだ麻雀覚えたての人には伝わらなさそうだし、何よりわしも理解しきれていなかった。

きっとライトな視聴者同じ疑問を持ちながら、あのラストを眺め、そして大勢がいまだに首を傾げていることは容易に想像できた。なんだったんだろう、この半年間は。あのラストは。

そこで転ばぬ先の杖、発動。

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とりあえず先制して、言っておく。

フォロワーさんだけは守りたい。
うっかりでも人気者を批判してはダメだ、その先はネットリンチだ。

擁護ツイートに大勢からファボをもらったが、わしの気持ちは複雑だった。
本音は(なんだそれ!)の野次を飛ばしたい。

しかしこの瞬間は、風林火山おめでとう!の場面である。
やめとこう。空気を読もう。

おそらくファボを押した大勢も(そのとおり!)の共感ファボは半分くらいで、残り半分は(ウヒョ助、とりあえずの先手フォローありがとう)だったと思う。

わしは村上プロと仲良くないので、フォローする筋合いはない。
フォロワーさんを守ってるだけだ。


ドリブンズの楽屋に、村上がげっそりした顔で戻ってきた。赤い顔が青かった。大役だった。そして村上は「悔しいなあーー」と泣き出した。

わしがドリブンズ放送を眺めるかぎり、チームはすでに目無しで心の整理はほぼついてるムードだった。むしろこういう時にドライになれるのがドリブンズの強みだったはず。だからこそ選んだ方針だったのに。

違和感がある。あきらめたい!と大声出した男が、悔しいと泣くのはコントだ。それなら奇跡を信じて打っていたはずだ。あきらめず打って、それでダメで泣くなら、わかる。

悔しくて泣いてるのか。それとも、友人たかはるの男泣き寸前の表情をモロに近くで見てしまって、ウッカリのもらい涙なのか。

後者じゃねえのかな。
少なくとも2:8でそうだろうなとわしは感じてしまった。

しかし「ずんたんが泣いてる」という情報だけを聞いたファンたちは、過剰なまでに賛美を始めた。「ずんたんはあれで良かった」「あきらめず、やれることやっていた!」「普通にトップを取りに行っただけだ、批判されることは何もない!」「素晴らしかったぁー!」「最高!最高!」

…ん?

や、試合前に堂々とあきらめてたし。
全然、あの差し込みは普通の打ち方じゃねえし。
どうしたおまえら。

チョビヒゲを拝む宗教か?

そこで我慢できなかったわし、言わなきゃ良いのに、ポロッと軽めの毒を吐く。

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この発言に、水を差されたと思ったファンが、わしへの文句を言い始める。その後3日くらい続く。「あの漫画家」という呼ばれ方である。そうじゃ、あの漫画家だ。ムカついてきたので、どんどんファンには耳が痛いツッコミを入れ続ける、わし。どんどん嫌われていく。まあそういう性分だ、いたしかたない。

そもそも「敵チームに優勝しやすい条件を作ってあげて、それを思いっきり利用した差し込みでトップを狙う」なんて、全然普通の打ち方じゃない。

はっきりいう。

風林火山の優勝に肩入れした差し込みである。

少なくとも、わし個人はそう思っているし。
そう思ったままのライトファンも、ツイッターの外に大勢いるであろう

優勝や入賞をあきらめておきながら。
ドリブンズだけは、条件を捨てながらも。

なのに、まだあきらめずに頑張っている他チームの、気持ちや条件を利用したトップ取りは、ズルいのではないか。
重い水筒を捨てておいて、他人の水筒で水を飲む行為。

なんかモヤモヤする、なんかずるくない?…という空気。

半年間も、決まった時間にモニター前に必ず座って応援してくれた、大勢のお客様に。そんなモヤモヤを届けてまで、本当に欲しいトップだったのか?

だったらトップを取って泣くな!
嬉しくないトップを取りに行くな!

登場人物、観客も含めて、全員損!!


そんな条件を利用せずに、普通にトップを狙って打ってくれていれば。いまだ残るモヤモヤも7割は薄れているんじゃなかろうか。

残りの3割は、ゆっくり説明すればいいし、理解もいつか得ることができるはずだ。

おそらくあの差し込みがなくても、風林火山はよく戦って、あのまま優勝だったと思うし。村上もトップだったと思う。


ボロクソに批判をしたいわけじゃない。

あの差し込みについてだけは「素晴らしい!」という声に押されず「いろいろ問題あるから、今回はともかく、次回からは考えないとあかんぞ」の空気は残したい。どんなにわしがファンから叩かれても。

じゃないと。

あれが素晴らしいとなったら、いろんなことができる。大会本来の趣旨と違う独自の目標をチームが立て、その都合に合わせて、どこかのチームが有利になるように打っても「素晴らしい」になってしまう。

その選手が好きなあまり
素晴らしい、素晴らしいのメンチン状態は嫌だ。
気持ち悪い。

わかる。村上プロは最高位戦の偉い人だ。
内側からは批判は1ミリもできないじゃろう。

せめて、わしくらいは野次を飛ばしてくれよるわい。
さあこい熱狂的な村上ファン共。相手してくれよるわ。

あの差し込みはおそらく「批判覚悟で半荘トップを狙うと決めたからには、徹底したい! もちろん差し込みだって必要あればやる! これを恐れてブレるくらいなら、この方針は選んでいない! これが麻雀プロだ!」という強い純粋な意志と理想のもとでやった、根っこはピュアな行為だと思ってる。で、熱くなるあまり、細かいところまで意識はいかなかったのではないか。そう信じたい。

でも来年は、もう少しだけ。
最終戦での打ち方を考えてくれないじゃろうか。
少しだけでいい。

村上が南場の親が終わった後、園田は楽屋で「ダブル、トリプルもあるけどね…」と小さい声でつぶやいた。可能性は0ではなかった。かっこ悪くても、言い訳しやすい大義がなくても。足掻いても条件に遠すぎてアガれない手を、苦悶の顔してコネコネしてるのも。それはそれで素敵じゃないかしら。

それで負けた時。
たぶん泣いてるのは、村上ではなく。
ファンだろう。
悔しくて、でもどこか嬉しい涙だ。


試合後、記者からのインタビューの席。

村上は「すがすがしい!」と語り、胸を張っていた。
あんた、さっきまで泣いてただろ。

しかし強がりは、男の子の証。
立派な男の子じゃ。

その横で丸山は。試合に少しでも出るチャンスを追った、自分の気持ちを語りだし、感極まって泣いていた。

器用すぎて、不器用なドリブンズ。

来年頼むぞ。
目無し問題なんかどこへやら。強くてドライで、でもどこか人情味のあるドリブンズで、4年目を盛り上げてくれ。

まるこ出せ!

ご機嫌がよろしい時、気分で小銭を投げていただくと嬉しいです。ただあまり気はつかわず、気楽に読んでくださいませませ。読まれるだけで感謝です。