一本のストーリーが読みやすさにつながる

一本のストーリーが読みやすさにつながる

『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』を読む。Kindle版がなかったのでしかたなくハードブックを購入。実物の本は読み終えたあと、置き場所に困るからなるべく買いたくはないのだが……。

作家としてのノウハウがいろいろ書かれているが、次のエピソードに勝るものはなかった。ある日、編集者をやっている人物が「自分は作家だ」と目覚め、小説を書きはじめる。初作の出来はひどいものだったが、その人物は次から次へと小説を書き続け、ついには本当に作家デビューを果たしてしまう。要するに、「自分は作家だ」と信じられる者だけが、本当に作家になれるのだ。これが一番重要な心構えであり、その他のノウハウは些末なものだろう。

ほかに参考になったとすれば、「謝らない、説明しない」という項目だ。著者曰く、新人作家の作品は説明しすぎる傾向がある。そうなる理由は主にふたつ、「書いた内容に対する読者の解釈をコントロールしたいという欲望」と「起きていることを理解する能力が読者に欠けているという不信感」だ。しかし、小説を書くには途方もないエゴと自信が必要になる。読者に説明したがる弱さは、作家にとって弱点にしかならない。

ところで、本書を読んでいて姫呂が一番気になったのは、実は内容ではなかった。それは序文と本文の読みやすさの違いについてだった。本書の序文は、スー・グラフトンという別の作家が上梓しているのだが、こちらのほうがブロックの文章よりずっと読みやすい。

段落(あるいは改行)の差ではない。段落分けなら、ブロックのほうが適度に行われている。一方、グラフトンの文章は、1段落がブロックよりも長い。それでもグラフトンの文章のほうが読みやすいと感じる。

なぜか?

それは、グラフトンの序文が、ひとつのストーリーとして成り立っているからだと気づいた。ほんの2〜3ページほどだが、それでもストーリーになっている。ブロックの本文はノウハウを伝えるという目的のためか、ストーリーにはなっていない。この違いが読みやすさの差につながっていたのだ。

つまり、段落分けや改行を細かく行うといったことよりも、一本のストーリーになっているかどうかが、最終的な読みやすさに関わってくるのだ。この発見があっただけでも本書を購入してよかったと思う。


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