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越川優、現役ラストメッセージ。入替戦終了直後のバスの中で聞いた「やめるのや~めた!」はないんですか?(廣岡俊光)

ファン:「ヴォレアス、ありがとう!」

ファン:「越川選手、ありがとう!!」

 4月9日、10日に神奈川県の小田原アリーナで2日間に渡って開催された

V.LEAGUE  V・チャレンジマッチ(入替戦)
ヴォレアス北海道 対 VC長野トライデンツ

 ヴォレアス悲願の昇格か、VC長野の残留か。来季どちらのチームがV1で戦うのかを決める勝負は、連日フルセットに持ちこまれる激戦となりました。

  結果は1勝1敗。大会規定にのっとり、得点率で上回ったVC長野がV1残留を決め、ヴォレアスは2年連続で入替戦で涙を飲む結果となりました。

 ヴォレアス北海道の越川優選手。この入替戦は日本代表でキャプテンも務めた男にとって、28年にわたるバレーボール選手生活、最後の舞台となりました。

 北海道に戻る飛行機の出発時間の都合で、足早にバスに乗り込んだ選手たち。クラブの協力で、チームバスへの同乗取材を許可されたわたしも急いで乗り込み席に着きました。

 叶わなかった昇格。もしも別の世界線があったのなら。ヴォレアスが昇格を決めていたのなら。この車内は一体どんな雰囲気だったんだろう。

  バスは空港に向けて発車・・・

 と、窓の外から聞こえてきたのが、冒頭の『声』です。

ファン:「ヴォレアス、ありがとう!」

ファン:「越川選手、おつかれさまでした!」

越川:「ありがとうございます!」「ありがとうございました!」

 走るバス。窓を開け、その声に応え続けます。満開を少し過ぎたソメイヨシノの花びらが舞うなか、会場の外で待っていたファンとのあいだで『ありがとう』のラリーが確かにかわされたのでした。

 さて・・・とあらためてカメラを向けると

「疲れた~!撮られたくない!!」

 自身の現役ラストマッチが終わった気持ちを聞くと、そこからことばがあふれました。


■28年の現役生活「ありがとう」

――― お疲れ様でした。入替戦が終わりました。いまの率直な気持ちを教えてください。

「結果はすごく残念だし、ぼく自身もみんなをV1のステージに連れていけなかったので残念です」

 偽らざる素直な気持ち。

「たぶんオリンピックでメダル獲る人たちも、日本で一番になる人たちも、V1からV2に上がる人たちも、たとえば中高生が県大会で1勝しようとするのも、みんな一緒だと思っていて。何をどれだけ頑張ったらその結果につながるか、みんな分からずにやっているんですよね。こうやって結果が出て初めて『足らなかったな』って気付く」

「去年も悔しいと思ったけど、今年のほうがみんな思ってると思うし、もしかして手が届くかもしれないって思った選手も多かったと思うし。これの繰り返しだと思うんですよね』

 自身がバレーボールを続けてきた環境に、感謝の思いがある。だからこそ、果たしたかった。

「ぼくは本当にありがたいことにサントリーに入った時から最初から優勝させてもらって、勝つってこういうレベル感なんだな、日本一になるにはこういうレベル感でやらなきゃいけないんだなって教えてもらったし、何なら岡谷(工業高校)に入った時もそう」

「本当に恵まれた環境でやってこられたので、だからこそ最後こういうチャンスの中で恩返しというか、みんなにそういうおもいをさせてあげたいなっていう思いはあったんですけどね。ちょっと力足らずで」

第2戦スコア
2試合の得点率でヴォレアスV1昇格ならず

 ことしの入替戦を通じて、V1チームとのあいだに感じたのは、『状況がよくない時でも常に出すことができる力』の差だと言います。

「いい時のレベルはV1でも戦える、きょうの相手でも負けてはいなかった。そこは自信持っていいし、そこをさらに上げていくことが必要。だけど、下(よくない時でも出せる力)ですよね。やっぱりV1のチームというのは下のレベルが高い。だからああいう試合ができるだろうし。そこはまた来年に向けて、チームとしても個々としても課題になるんじゃないですかね」

――― 四半世紀にわたるバレーボール生活・・・すいません、わざと仰々しい言い方しましたけど(笑)

「(笑)。28年・・・選手としてそれだけ長いあいだやらせてもらって、何なら最後までスタートで使ってもらえて、最後までコートに立たせてもらって。ケガしてプレーできない時以外は、ほぼコートに立たせてもらった。本当にありがたいですね」

 現役生活の最後、身体が思うように動かなくなって引退していくアスリートが多いなか、最後の最後までコートに立ちチームを牽引し続けました。

「恵まれた選手生活だったと思いますね。最後までコートに立たせてもらって、みんなと一緒に勝負できたというのは。そうやって引退できる選手は多くはないと思うし、しかもこういう大舞台でやらせてもらった。ありがたいなっていう、その一言ですね」

チームメイトによる胴上げ
『背番号7』が7度宙を舞った

■「ああ、最後なんだな」試合後の涙

 いつもチームを客観的な視点で見つめてきた越川選手だから、もしかすると「最後の瞬間も、涙はないんじゃないか?」そんなわたしの予想は裏切られました。

 試合が終わった直後から、人目をはばからず、涙、涙、涙・・・

――― あの涙は、どんな思いがこみ上げたものだったんですか?

「うーん・・・分かんないっす(笑)。分かんないですけど、いろんな思いがありましたね。負けた悔しい思い、上に連れていけなかった思い・・・なんか終わった時にはじめて『ああ、最後なんだな』って思いました。最初はわけわかんないですけど、なんか涙出てきて。悔しさですよね、最初は。で、観客席にあいさつするときにまたちょっと違う涙が出てしまいました」

――― 違う涙というのは?

「なんだろうな、どういう感情だったのかな。やっぱり一番最初に両親のところを見たので、そこでだめでしたね。ダメだ、止まんないと思って」

 終わることのない抱擁と握手。ヴォレアスの選手・関係者のみならず、対戦相手のVC長野からも歩み寄る人たちの姿が。長く現役を続けてきたからこその惜別です。

笹川星哉(VC長野・GM)は高校2年生からの付き合い。インドアに戻るときもそうだし、毎年なんだかんだ連絡取ってます。試合が終わってすぐ来たんですけど、来てるの知らなくて、あれ?って(笑)」

「審判の方々も、高校生のときにジュニア日本代表で一緒に海外遠征に行った先生が来ていらっしゃったり。20年来。皆さんにあいさつさせてもらって。最後のさいご、藤森淳平という岡谷工の大先輩が(笑)。会えてよかったなと。みんな仲間です」


■ガチンコ“対人練習”の相方・渡辺俊介選手

 ヴォレアスの試合前のウォーミングアップ、対人練習でいつも越川選手がペアを組んでいたのが元日本代表・渡辺俊介選手。これについてはスポーツライターの田中夕子さんが渡辺選手の視点で書いて下さっています。

 2人による対人は、見ていても迫力十分。試合前にそこまでするの?というくらい、ベテラン2人が声を掛けあいながらボールをやりとりし、懸命にボールを追って、ときにフロアに飛び込む姿は、まさにプロフェッショナルを感じさせるもの。入替戦でもそれは変わりませんでした。

対人を終えると、いつものように手を取り合う
「さあ、いこうか」という声が聞こえるよう。

――― 練習前の対人練習を、いつも渡辺選手と組んでいたのはなぜですか?

「やっぱり試合前は気持ちを上げるのもそうだし、準備ってすごく大事だと思っていて。この人(渡辺選手)もそう。準備がすべての結果につながる。対人って打つ・拾う・つなぐ、相手との駆け引きといった、バレーボールの基本中の基本が詰まっている練習だから、そこはしっかり妥協せずにやりたいと思ったら、ここしかいないですよね」

――― 渡辺選手、対人の相手がいなくなったら寂しいですよね?

渡辺「あ、オレにも聞いてくれるんですね(笑)。どうしましょうね、来シーズン・・・」

 ―――越川選手にやめてほしくないという気持ちはありますか?

渡辺「それはもうありますけど。本人決めてると思うんで。だから来シーズンどうしようかなってぼくも早速悩んでますよ」

――― どうしようかなっていうのは?

渡辺「だれをパートナーにするか(笑)。指名される人はたぶんプレッシャーだと思うから、どうしようかな、誰が立候補してくるかなって」

越川「立候補してきても、レベルにこなかったらできないからね(笑)」

――― きょうも対人の様子を見ていた観客席から「あんなにガチでやるんだ」という声がもれてましたよ

越川「あんなの普通ですよ。ね?」

渡辺「はい!」

越川「あれが普通。あれぐらいは最低レベルです!」


■ヴォレアスで伝えた「勝つためにするべきこと」

――― 2年間でチームに伝えようとしたことと、伝わったことは?

「一番は『勝つために何をしなきゃいけないか』。答えはないと思うので、ぼくが言ってることが正解かどうかは自分たちで答え合わせしてもらうしかない。ただぼくが経験してきたことで、答えをひとりひとりが導くヒントになってくれてたらいいなって思ってやってきました」

「きょう結果にはつながらなかったですけど、ひとりひとりが成長できていると感じられるかどうか、チームとして強くなってるなって自分たち自身が思えるかってすごく大事だと思うし、そういったことが伝わってるから今回の結果につながった。もうひと段階レベルアップして、来年チームとしてはもう一回チャレンジして掴んでほしいです」

 勝つために必要な、個人として、チームとしての『変化』『成長』。わたしは試合後の会見でのことばを思い出していました。

■ 佐々木博秋 選手「負けはしたけど、いいチームになれた」
■ 越川優 選手「シーズンやってきて、すごくいいチームだった」

 そう語る2人の表情は、決して負け惜しみなんかじゃない、自分たちの変化と成長に、たしかな自信を持った、実に誇らしいものでした。

「一つの目標に向かって進むなかで、誰しもがぎくしゃくするより仲良くしたいし、しんどいことをするよりは楽をしたい。でもそれじゃいけない、それじゃ勝てない、目標には届かないということをみんなが本気で理解して、自分たちがいまやらなきゃいけないことから目を背けず努力できる組織にはなってきました」

「最後まで全員で走り抜けることができたし、ちょっと未来が見えるチームになった。もちろんここからの努力は必要だけど、ひとりひとりが、チームが、さぼらずに努力していけば、必ず結果はついてくる。そう思えるチームになったと思います」

 若く経験が足りないチームのなかで、ときに意見をぶつかりあわせながら前進させる。自身がヴォレアスで求められていた役割でした。

「チームが変化を遂げられた、そういうチームになってきたという結果に対しては、本当にやってきてよかったなと思うし、報われる思いです」

――― 「やめるのや~めた!」は本当にないんですか?

「言わない言わない(笑)。(ビーチも含めて)遊びではもちろん続けたいし、もちろんバレーにも関わっていきたいと思っています。ただ勝負の結果を求められるというのは・・・満足です。やり切った。お腹いっぱいです(笑)」

■関わりたいと思ってくれる人を増やす

 2年間、旭川に住んでみて分かったこと。それは北海道と北海道民が持っている『スポーツへの熱』

「北海道って、すごくスポーツに熱が入ってるなというのは感じます。北海道日本ハムファイターズ、北海道コンサドーレ札幌、レバンガ北海道が先を走っていて、(バレーボールでは)ヴォレアス北海道、サフィルヴァ北海道、アルテミス北海道があって。みんなが見て応援したいな、関わりたいな、やりたいなって思ってもらえることが、プロスポーツの(存在する)ひとつの理由だと思うんですよね」

「バレーではヴォレアスがV1に挑戦するというレベルまできて、ことしはできなかったけどまた来年もチャレンジする。そういった中で、北海道の子供たちやみなさんが、応援したい、サポートしたい、関わりたいってもっともっと思ってもらえるようなチームになってほしいですね」

「ヴォレアスのスタッフでバレーボール経験者は(池田憲士郎)社長しかいない。でもやったことはないけど、バレーボールに関わりたい、応援したいと思ってくれる人が増えてほしいですね」

■ファンのみなさんへ

 バスはまもなく羽田空港に到着。越川選手へのインタビューも終わりの時間です。

「2年間でしたが、サポートしていただいてたくさんのパワーを送っていただいてありがとうございました」

ヴォレアス北海道というチームは、本当にまだまだ歩み始めたばかり。やっと去年初めて入替戦に出場できて、ことしV1に届くかもしれないというところまできて。確実にステップアップできてると思います。そのストーリーについてきてほしいし、応援していただきたいし、一緒に喜んだり、一緒に悔しがったり、ときには怒ってもらったり、本当にファミリーみたいな感じでこれからのヴォレアスを支えていただきたいです」

「ぼくもその一員として、みなさんと一緒にこれからのヴォレアスを応援したいです。北海道のスポーツ界を盛り上げてほしいし、選手ももっと頑張るはず。本当にありがとうございました、またこれからもよろしくお願いします」


「パチパチパチパチ!!!」

「素晴らしい!」「お疲れ様!」

 インタビュー終了と同時に、前後左右に座っていた選手・スタッフの皆さん(2日間の激闘の疲れで眠っていると思っていました)から拍手が沸き起こりました。インタビュー中、みなさん越川選手のことばに耳を傾けていたのでした。

 2年の在籍期間で、ヴォレアスに『変化と成長』を、そして北海道に『バレーボールの魅力』を確かに刻んでくれた越川選手。

 本当にありがとうございました。
 そしてこれからも、よろしくお願いします。

 最後に言わせてください。

  #ヴォレアス行くぞV1