ユリイカ未掲載原稿、坂本龍一『サマーナーブス』紹介文
南佳孝『サウス・オブ・ボーダー』では、クラウス・オガーマンばりの前衛的な弦編曲で見事に応えた坂本。中原理惠仕事で彼を見初めたCBS・ソニーのプロデューサー白川隆三が、企画もののカタログとしてボサノヴァのリーダーアルバム制作を依頼するも、本人から「レゲエのアルバムなら」と逆提案を受けて制作されたのが本作。当時、渡辺香津美がリーダーだった“KYLYN”のカウンター的存在だった、メンバーが重複する坂本のリーダーグループ“格闘技セッション”で録音されたため、「坂本龍一&カクトウギ・セッション」名義となっている。“格闘技”は、坂本龍一vs.矢野顕子、高橋幸宏vs.村上秀一、渡辺香津美vs.大村憲司というような二輪編成コンセプトで結成された、ピットインを主戦場とするライヴ主体のグループ。当初は小原礼の対戦相手として細野もクレジットされていたが、「フュージョン嫌い」を理由に脱退。そのお返しに、77年にリンダ・カリエールに書いたお蔵入り曲「ニューロニアン・ネットワーク」を贈呈して、本作にも細野のクレジットが残された。以前は「レゲエ嫌い」だった坂本が同ジャンルに開眼したのは、加藤和彦がプロデュースしたテレサ野田「トロピカル・ラヴ」のジャマイカ録音への参加が契機。その成果として、ここでは旧友の山下達郎を担ぎ出して本格的ダブに挑戦している。ビル・コンティ「ロッキーのテーマ」のパロディーのつもりで書いた「カクトウギのテーマ」は、後に新日本プロレスのテレビ中継で実際に使用された。
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