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「俺は大崎甜花をあの日が来るまで見下していた男子高校生だ」と毎日妄想しては死にたくなっています

前提:ブラウザ/アプリゲーム「アイドルマスターシャイニーカラーズ」に「大崎甜花」さんというアイドルが登場します。

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同じクラスにアイドルがいる。大崎という。

大崎はいわゆる「陰キャ」で、一応学校には来ているけれど、クラスメイトと話しているのを殆ど見たことがない。ただ、別のクラスから双子の妹が頻繁に顔を出すので、話し声はよく聞く。

クラスメイトは声を揃えて「休みの日とか何してるんだろう」という。しかし俺は知っている。大崎はゲームが趣味だ。先々月の土曜日、駅前のゲーセンでひとり太鼓の達人をやっていた。卑屈そうな姿勢で、肘から先を目にも留まらぬスピードで振り回していた。俺もその曲は、一回だけ友達にそそのかされてプレイしたことがあるが、「原曲が大好き」だとか、「リズムゲーは慣れてる」とかのレベルで叩けるような曲ではなかった。あの日、大崎は"ガチ"のゲーマーだと確信した。

しかし、だからといって畏敬の念が芽生えたかというと、全くそんなことはない。「陰キャオーラ」「ちっせえ声」「友達がいない」「妹と話しているときでさえ全く姉らしさがない」……ここに「一人でゲーセン入り浸り」が入ると、正直なところ、「終わっている」女だ。

ある日を境に、大崎は学校を休むことが増えた。以前から妹に手を引かれて眠い目をこすりながら登校している状態だったので特に不自然とも思わなかったが、それが芸能プロダクションに所属したからと聞いたときには爆笑してしまった。
「あいつが!?」
同級生数人とのチェイングループは数日間ほどではあったが大層盛り上がった。

俺(たち)の嘲笑をよそに、大崎はだんだんと自信をつけていった。
もともとその容貌に関しては一部で人気があった。
『顔は悪くない』
「というかかなり良いでしょ」
『そうなん?いっつも下向いてるからよく見たことねえや』
なんていうデリカシーの無い会話を、俺を含むクラスの男子は時折していた。
しかし、顔を上げる機会が増えたことや、テレビやラジオ、WEB配信でメディアに露出した翌日に女子たちが大盛り上がりすることで、彼女の魅力は学校の少なくない人間――少なくとも俺みたいなやつも――が認識するようになった。

自分で言うのも何だが、男子高校生の自意識というのはいびつだ。「陰キャ」の雰囲気を残しながらもその魅力を外部に発散するようになった大崎を見て、俺は「好きになってやっても良い」と思った。
クラスメイトに「『アイグラ』読んだよ!」と話しかけられていたはずなのに、いつの間にかソシャゲのランクを自慢して若干引かれている大崎。
「甜花」と呼ばれるようになって久しいのに未だ照れを隠せない大崎。
妹と話すときは若干声色が明るい大崎。
そんな大崎に、告白されるのであれば、仮に告白されるのであれば、付き合うこともやぶさかではない。
あいにく俺は、ゲーセンはほとんど行かないし、ソシャゲもログインボーナスだけ毎日受け取っているようなゲームが2つあるだけだし、そもそも大崎とはほとんど話したことすら無いし、もともとの接点が一切ないのでコミュニケーションをとるきっかけはないのだが、もし、ひょんなことから大崎と頻繁に話す関係になるようになれば、たまたま俺が新しくハマったゲームを大崎もプレイしていたら、仲良くなることに抵抗はないし、もし周囲から「できてんじゃないの?」なんてからかわれても「そんなわけねーだろあんな根暗と!」なんていう酷い物言いはしないでおいてやるし、もしいつまでたっても仲が平行線をたどるのであれば、何なら、不本意ではあるが、俺から告白してやってもいい。

それなりの期間、そう思っていた。

秋のある日、クラスの女子が雑誌を手に盛り上がっていた。異性に対するコミュニケーション能力が著しく乏しいので盗み聞きしてみると、どうやら大崎がモデルを努めた企画が「めーっちゃ可愛い」のだそうだ。

その場では一切反応せず、下校時刻になるやいなや全力で自転車を漕いで、高校からは若干遠い本屋へと駆け込んだ。
女性誌のコーナーを、若干遠い距離から見つめる。それらしい雑誌が見つかった。早足で棚に駆け寄り、周囲に不審がられまいと手早く立ち読みを始める。

あった。

俺の全く知らない大崎がいた。

あまりの動揺で、1枚めの写真を見てすぐにもとに戻して、そのまま帰路についてしまったのだが、それだけで俺の脈拍が狂うのには十分だった。
飾り付けられたコスメを背に、異世界の住人らしき紳士に手を取られ夜会の中に立ち尽くす憂いを帯びた少女がそこにはいた。社交界へのご挨拶か政略的に利用されているのか、細かいコンセプトはわからないが、どう見ても深窓の令嬢であり、夜の華美な世界の人間ではないということがひと目で分かる写真だ。しかし大崎が撮影の場に馴染んでいない雰囲気ではなかった。むしろ写真の中の大崎は「連れられてきたお人形さん」を完全に演じきっている顔をしていた。

大崎はもう、俺の中で勝手に見下されていた「大崎甜花像」とは全く違うところにいるのだ、と思った。むしろ、大崎には元々姉として、高校生として、人として――今は、アイドルとしても――のプライドも素養もあったのだろう。それが羽化の時を見失っていただけだったのに、俺は勝手に彼女を「何もない女」と決めつけ、あざ笑っていたのではないか。羽を伸ばし始めたその姿を勝手に"許してやって"いたのではないか。蛹としてもがき続けた彼女を嘲笑していた俺は毛虫ほどの矜持すら持っていないのに。

大崎は、自分には手の届かない人なんだと気付かされた。「大崎はすごい」「それに比べて俺は」という言葉が、自室で体育座りする俺の脳内をぐるぐると回った。

その日、クラスメイト数名のチェイングループでたまたま大崎の話題が出た。「女子が言ってた写真マジで可愛くて草 マジでアイドルじゃん」「ぶっちゃけ大崎ならヤれる」なんて言葉がしばらく続いた。怒りと情けなさがないまぜになり、1.5回嘔吐した。(一回目はぎりぎり飲み込めたため)

相当疲れたのか、翌日は寝坊した。

あの日以来、自分が大崎を見る目は変わったが、彼女との距離感については全く変わらない日々を送っている。同級生についても、うっすらとした嫌悪感は持つようになってしまったが、とくに疎遠になったわけでもない。

この変化を大崎自身に伝えることは一生ないし、何なら俺以外の誰も知らないままになるんだろうけれど、せめて高校卒業までに一回は大崎に直接応援の言葉を送ってみたいと思っている。

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みたいな妄想を毎日しては死にたくなっています。みなさんも「283プロダクションのアイドルについて上っ面で勝手にあれこれ論評するもふとしたきっかけにそれを反省するモブになる妄想」をやって死にたくなってみては?

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