第2回:「大人たちは数字が好きだから」
さて、先日スタートしたこちらの企画。
第2回は、シンプルながらとても重要な項目、名詞の複数形がどうなっているかについて見ていきましょう。引用元は引き続き、以下の文献です。本シリーズでは今後Yariyeva (2019)と呼ぶことにします。
では、名詞の複数形。
大人たち、子どもたち
『星の王子さま』で、名詞の複数形…と思い返してぱっと思い浮かぶのは、「大人たち」でしょうか。「大人」はアゼルバイジャン語では、böyükという語で表します。形容詞として「大きい」という意味もありますが、名詞として「大人」の意味でも持ちいられる語です。
第4章で、トルコの天文学者(そう!星の王子さまには、トルコのくだりがあります。おそらくアタテュルクであろう人物への言及もあるのです)が小惑星612を発見したことについて、番号や小惑星のくわしい話をしたのには理由がある、と主人公の「ぼく」は回顧するのですが、その理由を述べた文がこちらです。
名詞böyük「大人」に、複数であることを表す接辞-lərがくっついています。これで複数形、「大人たち」という意味になります。
では、「子どもたち」という語はどうでしょうか。こちらもいくつか例が作品中に出てきます。
こちらの複数形は、-larという接辞が担っています。先ほどと形が違いますね。どうなっているのでしょうか。
母音調和:前の母音に合わせていくというルール
これには理由がありまして、アゼルバイジャン語では複数形は-larか-lərのどちらかで現れるのですが、どちらの形で現れるかは、この接辞の直前にある母音が何であるかによって変わるというシステムが働いているからということができます。
すなわち、アゼルバイジャン語では
ということになるのです。なお、なぜこのグループになっているかというのも一応音声学的な根拠があります。
e, ə, i, ö, üといった母音は、発音するときに舌の盛り上がる部分の位置が口腔の前寄りになる母音で、音声学では「前舌母音」と呼ばれます。それ以外の母音、a, ı, o, uは真ん中(中舌)、あるいは後ろ寄りの母音(後舌母音)で、トルコ語やアゼルバイジャン語の文法上はまとめて「後ろ寄りの母音」ということで、一つのグループとして扱われる、というわけです。
この現象、業界用語では母音調和と呼ばれています。言語学などの授業を受けたり、入門書などを読んだことのある方はこの用語を見たことがあるかもしれません。トルコ語などでも同様の現象がありますし、知る人ぞ知るルールといえましょう。
実際、ほとんどのトルコ系の諸言語(テュルク諸語)でこの母音調和という現象は見られます。このシステムに慣れておくと、トルコ語はもちろん、他のトルコ系の諸言語を改めて勉強する際にもとても役に立つ…かもしれませんね。しらんけど。
ということで、次回以降に続きます。
次は何の話をしようかな…名詞にくっつく接辞たちの話をしていきましょうかね。
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