きょうだい

 僕には、僕の他に姉と、弟、妹がいる。今どき結構珍しい四人兄弟だ。男女二人ずつでバランスが取れていて、仲も良い。幼い頃はけんかもたくさんしたけど、今ではそんなこともなくなった。
 

 僕にとっては、彼らといることが当たり前で、日常だった。姉とけんかして家の外に出されたり、親に怒られた弟をみんなでなぐさめたり。それぞれあまり年齢が離れていないこともあって、趣味とかも共通している部分がたくさんあった。笑って泣いて、いつも側にいる存在が兄弟だった。
 

 一番最初に家を出たのは僕だ。大学入学を期に、東京に行くことになった僕は家族と離れて一人で暮らすようになった。初めて過ごす一人の空間は、楽しくもあったけど、なんか物足りなさと寂しさも感じた。

 両親に会えないのはもちろん寂しかった。けど、それよりも強かったのは、感謝の気持ちだ。毎日朝早く起きて弁当を作ってくれること、部活動の送り迎えをしてくれること、洗濯物をたたんで掃除をしてくれること。お金を稼ぐこともそうだ。時給900円のコンビニバイトで一か月働いてどれくらいお金が手に入ったか。僕らを養うために働いていることがどんなに大変か。自分一人で全てのことをしなければいけなくなって初めて、「当たり前のことは当たり前じゃなかった」ことに、気付いた十八歳。

 じゃあ兄弟はどうだろう。それまでは四人で一つみたいな感覚があった。離れることが無かったから。会わなくなったら、それぞれがどんな人間か、少し客観的に見るようになった。すると今まで気付かなかった部分がたくさん見えてきた。

 姉はまじめでいつも完璧に見えていたけど、そんなことはなくて、親とそりが合わないことも増えた。「家族には甘えてしまうんだよね」と寂しく笑って教えてくれたのは、二十歳で実家に帰ったとき。親と言い合いになったり、悪い態度をとっていたから、流石に注意したら、後でこっそり教えてくれた。

 弟は普段からあまり喋らず、特に父親とは良い関係ではなかった。「実家は、「家族とはこうあるべきもの」みたいなものを実現しようとする所があった。それがめんどくさくて、父と衝突したけど、お互いに相手を避けていた。そんな弟が就職活動で東京に来て、二人でご飯を食べに行ったとき、「父さんはすごい。就活初めて分かったよ」とポツリとこぼした。「それを、たまには言ってげれば?」と聞くと、、「それは止めとく」だって。

 妹は五つ年が離れているので、正直「ずっと小さいままの妹」のイメージがあった。大学受験でノイローゼになったり、大学でも就職でも悩んでいていつも相談に乗っていた。

 「大丈夫かな」と心配を掛ける、そんな妹の結婚式。今のところ僕の中では世界一きれいで幸せな花嫁だった。挨拶も対応も、いつの間にか大人になった妹がいた。
 衣装替えの時、サプライズで呼ばれて、四人で手を繋いで会場を歩いた。そして、先を越されてしまった三人と妹で写真を撮った。そこに写っていたのは変わったけど、変わらない僕ら四人兄弟だった。

 みんな時間が経てば、変わっていく。姉は職場を変え、弟は昇進し、妹は母になった。僕は教師を続けている。考え方も性格も違う。それでも、四人で一つだってことは永遠に変わらない気がしている。

 「たくさん兄弟がいてどう?喧嘩とかしない?」って言われると、僕はこう答える。

  「喧嘩もするけど、仲良くて、とりあえず四人いてよかったよ。」

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