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【読書感想】悲しみよ こんにちは

☆キーワード

愛、恋、親子関係、情景描写


☆ドックイヤー

<本編>

幸福というのは、ひとつの条約の承認のように、ひとつの成功の形のように、思えるからだ。 p59
悲しみよ こんにちは | フランソワーズ・サガン
それでもこの瞬間、私は自分を愛する以上に、彼を愛していた。 p117
悲しみよ こんにちは | フランソワーズ・サガン
車の中ほど、一緒にいる人に友情を感じる場所はない。 p135
悲しみよ こんにちは | フランソワーズ・サガン

一文を抜き出すのが難しい…!
なんか切り取ると全部すごく浅く聞こえる、ごめんなさい。。
でもそこがこの作品のすごいところなのかもしれないです。

主人公のセシルには、冒頭からどこか気だるい雰囲気が付きまとっていて、周囲をかなり俯瞰して観察しています。
自分が周りにどう見られているのかも十分に理解していて、物事への執着心がとても薄い。
そして本気で日々を生きていない自分を理解し、その状況をそこそこ楽しんでいる。でも本気で生きている人への憧れを感じると同時に、恐れも感じている…。

そんな心情で触れ合う人々に対して感じる台詞たち。
なので「幸福」とか「愛」とかいう言葉たちが本当に軽いんです。
言葉の重さに対して激しさが全くなくて、どうせすぐに心変わりしてしまうんだろうな〜って伝わってくるんです。

それって逆にすごくないですか?
ちょっと村上春樹作品の主人公達に似ているかも。
そうだ!なんかとにかく「アンニュイ」な感じなんです!!!

わたしは自分自身に向かって、あえぎ苦しむ。うしろめたさと呼ばれているものに似た気持ちになって、なにかせずにはいられなくなる。(中略)けれど好きではないのだ、そんなことは。闘うかわりに記憶の欠落や、自分の気質の軽さに、助けを求めざるを得なくなるようなことは。 p160
悲しみよ こんにちは | フランソワーズ・サガン
この人が与えてくれた快楽は、確かに愛した。でも、この人を必要としていたのではなかった。 p174
悲しみよ こんにちは | フランソワーズ・サガン

セシルという主人公に共感したり自分を重ねる人はそこまでいないのではないのかな、と感じます。
ただ、彼女のようなどこか自分勝手で猫のような気まぐれさを持つ女性になってみたい、それくらい物事への執着から離れてみたい、と思う気持ちを持つ人は多いんじゃないかなと思ったりします。
私も多少の憧れは感じます。少しのシニカルさを持つ人って魅力的じゃないですか?

<書評より>
この作品での一番の収穫は本編より書評かもしれません。

「サガンが好き」と声高に告白することは、「私は典型的なプチブルであるにもかかわらず、ブルジョワジーの懶惰な暮らしに憧れ、気取った物言いばかりをしたがる、中身のうすっぺらな文学少女です」と認めているのと同じだと見なされた。 p191
新潮文庫「悲しみよ こんにちは」より、小池真理子さんの書評
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おそらく1965〜70年くらいのお話だと思うんですが、いつの時代もこういうサブカルワナビーを嘲る風潮があったんだーという事実が面白いw
私も浅いと思われたくなくて声高に好きと言えないバンドめっちゃある〜。

「自由」と「解放」は、サガンが生き、書き続けていたあの時代の、インターナショナルな共通のテーマでもあった。だが、だからこそと言うべきか。そこには虚無や倦怠、といった、現代人が陥りやすい罠が持ち構えていて、いつのころからか、私たちはそれらに苦しめられ始めた。 p193
新潮文庫「悲しみよ こんにちは」より、小池真理子さんの書評

「虚無」って特に最近上がることが多くなったワードな気がしていて、サガンが生きた半世紀前から、この罠はずっと現代日本人と隣り合わせなのかもしれない。

私は今31歳ですが「自由」や「解放」の雰囲気を時代に感じたことはまだないかな…。
強いていうと2013年に旅行で訪れたバンコクにはそういう雰囲気を感じたかもしれない。街中が浮き足立って活力に溢れているのが自然に感じられたんですよね。(あったかい国だからとかじゃなくて)
日本の高度経済成長期ってこんな感じだったんかな〜って思った感覚や、街と人の風景が強く記憶に残っています。

☆まとめ

1度読み終えた後は「うーん。」って感じでした。
でも書評を読んだ後にふと、もう一度冒頭の1文を読んでみたんです。

ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう。
悲しみよ こんにちは | フランソワーズ・サガン

これで心を掴まれました。
正直、読みはじめはこの冒頭部の心情を全く理解できないんですけど、読み終えてからこの一文に戻ってくると、ちょっとした伏線回収というか…。
サガンがテーマにしたかった感情を少しだけ理解できる気がしました。

ジャンルは恋愛小説になると思いますが、
どこか儚くてやるせなく、なんとなく「雪国」に似ている気がしました。
表現がいちいちオシャレだし異国情緒にあふれているので、海外文化や情景描写多めの作品が好きな人におすすめしたいです。

あと、フランス文学の詳しいことはよくわかりませんが、とてつもなく読みやすいと思いました!


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