煙
煙草の不味さだけが鼻の奥に残った。
母と決別した夜。
恐らく、少なくとも、今夜は。
母に限らず、両親共々に隠し事を重ねてきたこれまで。
のらりくらりとごまかしてきたが、
来る日が来た、そんな夜。
突き放されて、今は楽だ。
彼らに何を慮っていたのだろう。
僕も誰も悪いことはしていない。
母の「道理」に合わなかっただけ。
そんなことを考えるのは、マザコンの典型なのだろう。
今、母が死んだら、このことを根に持って、嫌な思いのまま死ぬ、
この期に及んでも、そんなことに思いが至る。
でも、もうしばらくは、あの家には帰らない。
そして、今、母が死んでも、一般的な悲しみは無い。
でも何故か、煙草が不味い。
記念すべき「解放」された夜なのに。
5月14日。
なんでもない日にできた記念日。
ベランダから眺める都心の赤ランプは、
吐き気を催す副流煙にぼやけていった。
2021.05.14
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