歌を聞くのが苦手になったINTJの話

私は歌を歌うのが嫌いだ。だが、人が歌ってるのを聞くのは好きだ。プロの歌手でも素人のカラオケでも路上パフォーマーでも好きだ。
ポピュラー音楽でも合唱でも好きだ。人が歌っている姿を見ると、なぜかスカッとするのだ。大きな口で大きな声で歌っているのを見ると、気持ちがいいのだ。

だが、最近歌を聞くのが苦手になった。脳が勝手に、歌詞にツッコミを入れ始めるのだ。
元々私は歌詞を自分に置き換える聞き方はしていない。だからどんな歌詞でも基本的に共感はしない。だからぶっ飛んだ価値観でも普通に聞ける。
軍国主義全開の軍歌も、軍国主義思想を知るためにはいい材料になる。共感を目的としていないため、世界観が曲の中で成立していればそれでいい。

具体例をあげる。
rhythmという女性デュオの楽曲「万華鏡キラキラ」という曲だ。大好きな曲だ。歌声もメロディも綺麗だ。
「いつも強く願う心がのぞければと」という歌詞がある。万華鏡を覗いたあなたが見ている世界を見たいと願う曲だ。他人の目にはどんな世界が映っているのか、私も見てみたい。
この歌詞に対して「相手の心を覗くということは、自分の心も誰かに覗かれるってことだよね…それ怖い、覗かれるくらいなら何も見たくないなぁ…」と考え始めてしまう。

曲が嫌いになったわけではない。歌詞に文句をつけているわけでもない。今でも歌詞もメロディも大好きな曲だ。勝手に脳が動き出して、歌詞にアレコレ言い始めるのだ。
大好きな曲でも、その曲の世界に入り込めなくなってしまう。そして歌を聞くのがつまらなくなってしまった。脳内ツッコミはネガティブなことばかりではないが、映画を見ている時に隣でブツブツ言っている人がいたら興醒めだろう。それが脳内で勝手に起きる。

本であれば、脳内ツッコミが始まっても一度本を閉じることができる。だが、曲の場合、度々停止していては何も楽しくない。最初から最後まで通して世界観に浸りたいのだ。
外国語の曲であれば多少はマシだが、英語の曲だと「今なんて言った?なんて言葉?〇〇かな…動詞が入りそうだけど、違うかな…」となる。全く知らない言語ならおそらくならないだろうが、興味がない。

こんな聞き方をしていても楽しくないのだが、したくてしているわけではない。
楽しんで聞ける曲が、歌のない曲かネタとして作られた替え歌ばかりになってしまった。替え歌はネタだからツッコんでなんぼだろう。
昔から「ホテルはリバーサイド、川沿いリバーサイド」のような歌詞は大いにツッコミを入れていたが、そうではない歌詞にツッコミ続けるのはあまり楽しくない。

実は、この脳内ツッコミだが、ある特定の時には大きな楽しみに繋がっている。人の話を盗み聞きする時だ。例えば電車に乗った時、一人で居酒屋に行った時、カフェに行った時、私は大抵人の会話を聞いている。
初めて会って永遠に会わない人たちだから、話を聞くのが楽しい。相手だって聞かれているとは思わないから、親しい人との遠慮のない会話をする。そして、脳内ツッコミを炸裂させている。こちらは意識的にやっている。

私が今までで最も面白かった盗み聞きは、恋愛相談の話だと聞き手も私も思っていたが、最後まで聞いたらキャバ嬢に貢がされていただけだった、という話だ。なかなか話の中身が濃くて、本にまとめたら楽しそうだとすら思った。
決して上品な趣味ではないが、一人でこっそり楽しんでいる分には害にもならないだろう。一応、みなさんも聞かれてないと思っていたとしても、私のような人間がいると知っておくことは無駄じゃないと思う。

いつか歌でも脳内ツッコミを楽しめる日が来るだろうか。楽しめれば大いに結構。その日を待ちながら好きな曲を聴くのも悪くないかもしれない。二度目の本のように、これはこういう意味の歌詞か!と閃くこともある。それはそれで楽しい。
私は基本的に音楽を聴くのが好きだから、どうせなら脳内ツッコミを楽しめるようになりたい。
なればいいな。

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