『ウインド・リバー』レナー×オルセンのミーハー心を打ち砕く、問題提起のある雪上サスペンス 公開中
原題:Wind River ★★★★★
メキシコ国境の麻薬戦争を舞台にした『ボーダーライン』、銀行強盗兄弟を追うテキサスレンジャーを描いた『最後の追跡』に続いて、本作は≪フロンティア3部作≫というらしいです。
舞台はワイオミング州。ここにいろ、と閉じ込められた人たち。民族性、独自の文化、いわばアイデンティティを失われたネイティヴアメリカンの、雪に埋もれた保留地で巻き起こるクライムサスペンス。
今年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にも、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』にもいないジェレミー・レナーを補充、
それに、スカーレットウィッチのエリザベス・オルセン共演だし。
という安易でミーハーな気持ちを打ち砕き、期待と想像のさらにさらに上をゆく、問題提起のある雪上サスペンスでした。。
雪一面の森の中、物陰から様子をうかがうコヨーテのように彼らを観ているような感覚に陥ります。
“ウインド・リバー”とは地名です。ここでは少女が不可解な死を遂げる事件が相次いでいました。
ある日、見つかったのも若い女性の死体。そこは、最も近い民家からは5㎞も離れており、夜には気温がマイナス30度にもなる雪原。
この事件にFBIから派遣されたのは、新人捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)、たった1人。フロリダ生まれで、急きょラスベガスから来たというジェーンのあまりの軽装に「なめてるな」と部族警察長グラハム(『ダンス・ウィズ・ウルブス』のグレハム・グリーン)。
ジェーンは、この地を熟知し、家畜を襲う猛獣専門のハンターであり、遺体の第一発見者であるコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)に協力を求めます。
この事件を通じて浮かび上がるのは、保留地の現実。アメリカの暗部。
少女ばかりが殺されます。レイプされて。
怒りを感じずにはいられません。彼女たちの前途は明るかったはずなんです。強く生きてきたんです、この地を出るために。
実はコリー(レナーさん)もまた、同じように娘を失っていました。しかも、新たな被害者は娘の親友でもあったのです。
心に深い傷を抱えた彼がいわば“体得”した、喪失との向き合い方には共鳴せざるをえませんでした。
彼のような大きな喪失を経験したら、「元の生活に戻る」なんて無理です。
でも、辛すぎるけれども、悲嘆と憤怒という感情にはとことん向き合わなければ、ならないのです。
彼の喪失は、保留地に住む人々の民族としての喪失をも示唆しているかのよう。被害者の父親役を演じたギル・バーミンガムとの会話は、いずれも深く沁みるシーンでした。
また、クライマックスには、まるで『ボーダーライン』でメキシコ国境のフアレスへと向かうような、『最後の追跡』でテキサスの地平線を望むかのような
雪山を巡る空撮。ああ、確かに連なっている、と実感します。周縁に生きる人々の物語なのです。
監督を務めるのは、上記2作の脚本を手がけたテイラー・シェリダン、自身の脚本作品で初めてメガホンをとりました。
俳優としても活動していて、海外ドラマ「サンズ・オブ・アナーキー」でSAMCROのチャーリー・ハナムやロン・パールマンを追う副署長のヘイルを演じていた、といえばピンとくる方は少なからずいるでしょうか。
近年の映画制作者の中でドゥニ・ヴィルヌーヴらと同様、どこまでもついていきます! と思える人です。
全米公開時には4館での限定公開にも関わらず、口コミで話題を呼び、公開4週目には全米2,095館に拡大公開、一時はランキング3位まで上昇し、6週連続TOP10入りというロングランヒットとなりました。
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