彼らは生きていた

『彼らは生きていた』第一次大戦が身近になる記録映画が色味を帯びる時 1/25(土)〜公開中

『彼らは生きていた』ポスタービジュアル

原題:They Shall Not Grow Old  ★★★★★

『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、『ホビット』シリーズのピーター・ジャクソン監督第一次世界大戦の2,200時間にも及ぶモノクロ記録映像をカラー化し、元兵士たちの肉声や効果音を追加して再構築。監督が、そのとき現地にいた自身の祖父に捧げる1本であり、これぞ映画の力ともいえるパワーを放つドキュメンタリーです。


今、『1917 命をかけた伝令』がアカデミー賞にノミネートされて注目を集めている中、ピーター・ジャクソンが第一世界大戦の戦場を蘇らせました。

2018年、第一世界大戦終戦100年を記念した芸術プログラム「14-18NOW」と帝国戦争博物館からの依頼で、ジャクソン監督が博物館に保存されている2,200時間以上あるモノクロで無音、劣化の激しい100年前の記録映像に、修復、着色、3D化という3段階の作業を400人以上のアーティストを動員して施したもので、最新技術が施されております。

また、記録映像は無音だったため(当時は録音技術がなかった)、BBCが所有していた600時間以上ある退役軍人たちのインタビュー音声をナレーションとして使用し、さらに爆撃音などに加えて、兵士たちが話す口の動きを読唇術のプロに解析を依頼して言葉を重ねるという作業も。

本当に途方もない。敬服するしかない結晶がここにあります。


開戦時、年齢を詐称してまで軍に入りたがった年端のいかない若者たち。

キリアン・マーフィ主演のピーキー・ブラインダーズのとあるシーンで、チャーチルに「従軍した者は?」と問われ、キリアン演じるトミー・シェルビーはじめ、1名(天敵キャンベル警部)を除いた全員が挙手する、というシーンが思い起こされます。

紡がれたモノクロのフィルムは、若き兵士たちが西部戦線に赴いたときにカラーに切り変わります。

すると突然、記録映画が、私たちが映画やドラマなどで見慣れた世界に変容を遂げることに。現実なのに遠くにあったあの頃が、俄然身近に感じられるという矛盾的で不思議な体験をします。

塹壕ではある者はひたすら掘り、ある者は監視し、それ以外は睡眠をとる。機関銃の冷却水を沸かして紅茶を飲むこともあります。

貴重な塹壕での日常が切り取られていく中、やがては壮絶な襲撃へ。実際の記録映像なので、思わず目をそらしたくなるような、凄惨なシーンももちろんあります。『戦火の馬』を思わせるお馬さんたちの運命も正視できないほど。

大英帝国の犠牲者は100万人にも上りました。

生き残った元兵士たちの語る声からは、誰もが不毛なことをしていると感じていたことが伺えます。もうこんなことは繰り返すべきじゃない、二度とごめんだ、と。


なのにその後、ドイツでも、イギリスにおいても宥和政策の傘を借りてファシズムが台頭していくのですから、彼らの命は、犠牲はいったい何だったんだ、という居たたまれない気持ちに…。

ドイツ側の『西部戦線異状なし』から、『トールキン 旅のはじまり』や果ては『ワンダーウーマン』までも脳裏をよぎる100年前の現実を追体験していく99分。『1917』を観る上でも大きな手助けになるかと思います。

AmazonPrimeVideoやiTunesなどでは原題の「ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド」(彼らは老いることはなかった)として配信もされております。

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