リスクマネジメントの教科書的存在、オリエンタルランド:備えあれば憂いなし
リスクマネジメントの話をする際によく出てくる企業があります。
損害保険会社?
いえ、違います。
オリエンタルランドです。
こちらオリエンタルランドの会社概要です。
事業内容:テーマパークの経営・運営および、不動産賃貸等
そう。日本のディズニーランドの運営会社ですね。
今年は創立50周年!ということで張り切っていたところにこの事態・・・。
関係各社が受けているダメージは計り知れないとお察します。
オリエンタルランドは注目度が高い企業(今回の件で)ということもあり、対応に関する記事は多く出ているかもしれません。色々と参照されてみるといいと思います。
1.地震リスク対応で有名なオリエンタルランド
テーマパークにとって最大のリスクは何か?
今回のように休園の状況が強いられることです。
休園に陥る可能性があるリスクは、
事業等のリスク(有価証券報告書)に書かれています。
3)外部環境に関するリスク
①天候 当社グループの主要事業である東京ディズニーリゾートは、天候要因(天気・気温など)により入園者数が変動しやすい事業です。このため、悪天候が長期に及ぶ場合、一時的な入園者数の減少などにより当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
②災害 当社グループの事業基盤はほぼ舞浜に集中しているため、舞浜地区にて大地震や火災、洪水などの災害が発生した場合の影響が考えられます。東京ディズニーリゾート各施設につきましては安全性に十分配慮しているものの、災害発生時には施設の被害、交通機関及びライフライン(電気・ガス・水道)への影響、レジャーに対する消費マインドの冷え込みなどが想定されることから、一時的な入園者数の減少などにより当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
③テロ・感染症 当社グループでは、ゲストを迎え入れる施設を多数有しており、各施設においては、安全性の確保を最優先しております。一方で、国内外の大規模集客施設などにおいてテロ事件などが発生した場合、また、治療方法が確立されていない感染症が流行した場合、レジャーに対する消費マインドの冷え込みなどが想定されることから、一時的な入園者数の減少などにより当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
こちらは2019年3月期の決算期における有価証券報告書の事業等のリスクに記載されている情報より抜粋したものです。
天候、災害そして、テロ・感染症と書いています。
おおよそこうしたリスクは重要度の高いものから書かれているでしょうから、まさか、一番最後に書いた感染症のリスクがここまで深刻な影響をもたらすまでになるとは・・・思わなかったでしょうね。
特に地震対する備えとしてはこのように「行使価額修正条項付新株予約権の消滅及び地震リスク対応型コミットメント期間付タームローンの再設定に関するお知らせ」と地震が生じた場合の資金調達手段を確保しています。
http://www.olc.co.jp/ja/news/news_olc/auto_20190225481769/main/0/link/20190329_01.pdf
そもそもオリエンタルランドは、キャットボンドを発行した事例でも知られています。
保険リンク証券、いわゆるキャット・ボンドですね。
地震というハザードが起きた場合に発動する証券です。
こちらもまた要チェックですね。
さて、今回の新型コロナウィルス感染症で同社がどのように対応したのか?そして業績への影響度はどうか?
などを見ていきましょう。
2. オリエンタルランドの対応
こちら、決算発表をチェックしていきます。
業績よりはまずは注目すべきは新型コロナウィルス感染症への対応かもしれません。
公式にも発表されていますが、緊急事態宣言が明けた現在においても休園は再延長されています。
こちらにありますが、対応についてかなり会社全体で対応していくことが明示されています。
そして次のスライドですね。
ステークホルダーである従業員(キャスト)、ゲスト、社会に対する対応策まで書かれています。
面白いのは、「社会」、つまりオリエンタルランドに来ない人たちも意識していることですね。
こうした姿勢は
こちらの経営者のメッセージからも表れています。
危機においてはトップのメッセージに注目ですね。
派手さはないのですが、堅実に分かりやすいメッセージが発せられていることが分かると思います。
そして、こちらもご覧ください。
よくリスクマネジメントの教科書では、
リスク保有とリスクファイナンスのバランスということが語られます。
すなわち移転できるリスクは他者に移転して(保険などの別のファイナンス手段で)、後は手元資金(資本余力)で対応ということなのですが、その教科書通りの動きをしていることが分かります。
さらに、大規模投資は計画通り、ということも明言しています。
株主を含めた利害関係者にとって懸念されることは新型コロナウィルス感染症の影響による休園だけではく、この件により新規の投資が行われない、将来の業績に影響をもたらす、ということだと思います。
この辺り力強いです。
このことを受けて、
株価は上昇しています。
オリエンタルランドの対応に好感を示した結果と言ってよいでしょう。
3. オリエンタルランドの決算は利益ではなくキャッシュに注目
株価はいわば将来の期待値も含まれています。
では実際の決算結果はどうだったのか?
このように減少しています。当たり前ですが、営業再開できなければ収益は下がり続ける、つまりキャッシュは少なくなっていく一方で、そのため先ほど示したように何かあったときに融資を受けられる枠を確保しています。
ちなみに学生にこのデータをみせた時にゲスト1人当たりの売上高が開示されている!とコメントされました。*この点は原価計算、つまりコスト管理の点でみても面白い題材だと思います。
とはいえ、これは何かあったときの備え!ということで今期においても万全の備えを行っています。
こちらは決算短信から注目してほしいのは
営業キャッシュフローは当然の事ながら減少しているのですが、その分だけ、投資活動を抑え、結果的に、現金及び現金同等物の期末残高を前年比増の261,164百万円、確保していることです。
元々、今期については投資活動は抑えめで行く計画だったのかもしれません(2019年3月期は投資活動キャッシュフローの額が多いため)が、現金の確保という点において、コロナウィルス感染症が深刻化する以前から神経を使った運営が行われていたことがうかがえます。
この辺り、同じ上場一部企業であってもレナウンとは対照的です。
その辺りはこちらに書きました。是非ご参照ください。
また財務的にもほとんど借金をしておらず、財務的な余力を残していることも付け加えておきましょう。
自己資本率81.2%という高い数値です。
そしてこちらからは、短期の流動負債も小さく、さらに長期の借入金もほとんどないことが分かります。
こうした時に備えてリスク保有していたのか・・・。新型コロナウィルス感染症による長期の休園は想定外だったはず(地震は予測していたはず)、ですが、地震の備えが結果的に同社の支えになっていることが分かります。
4. 入園再開後の対応に注目:コスト増は避けられない、そのコストをだれが負担するのか?
今後どうなるか?
休園再開の時期によるでしょう。
また再開したとしても、まさに密になりやすい同テーマパークにおいて、それを避けるシチュエーションを作れるのかがカギになるでしょう。
そもそも大量に入園してもらわないとコストは上がるばかりです。
どういった感染症対策を練っているのか?
それが今後のカギを握りそうです。
おそらく・・・ですが、
withコロナフェーズにおいては大幅に入園を規制した形での、サービスを提供しながら、場を繋ぎ、afterコロナフェーズまで耐える、というのが基本線になると思います。
とはいえ、開園すれば、それに伴う諸経費が掛かります。
これを入園者に転嫁する形(新型コロナウィルス感染症のためのコストを)で行うのか?それともオリエンタルランドがこの時期負担するのか?
その決断を注視したいですね(会計研究者としてはそこに一番興味あります)。
おそらく6月の株主総会までにその辺りの方針も含めたことが出されるのではないかと予想します。*2020年6月26日(金曜日)午前10:00から予定されてますね。
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