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「なぜ」を大事に:資格試験勉強と実際の会計処理の隙間を埋める~割引率を事例に~

今、財務会計論の授業では資格試験(税理士試験、公認会計士試験、簿記1級相当)も意識して、授業をやっています。

その中で気づくことは、

資格試験の問題は、簿記系の問題であれば、会計処理の流れを理解することに重きを置いているため、現実の会計処理で考えなければならないところが省かれていることが多い、ということです。

例えば、減損では、割引率○%、将来キャッシュフローは以下の通りである○○万円というようにですね。

問題によっては年金現価係数が与えらえていることもありますね。

膨大に覚える事がある資格試験では「暗記」に頼らざるを得ないのですが、今、現場で求められているのは、おそらくこうした計算方法に関する話ではない。

いや、そこは会計学でフォローされているから、簿記はそれでいい、という考え方もあるかもしれません。

ただ、割引率の設定方法を含めた考え方についても実は奥が深いものです。

いわゆる長期金利に影響を受けるわけですが、その長期金利は、市場の変動に影響をうけます。

「長期金利=短期金利+期待インフレ率+期待成長率+リスクプレミアム」

です。

長期金利の予測は、10年満期の国債(国が発行する借金)の入札価格で行います。

国が今後も成長すれば、その分だけ国債の金利は下がる(債券として魅力的であれば、その分だけ買い手が多くなり、国債の金利は低くなる)。
逆に危険。つまり国がデォルトする可能性が高いと思われれば国債の価格は上がる(その分だけ買い手が少なくなり、国債の金利は高くなる)。

というわけですが、いま、割引率はマイナス!の可能性もある事態になってます。

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いわゆる異次元緩和の影響ですね。

日本銀行が市場から購入し、市場にお金を流し続けた、ということですが、仕訳で考えてみると、こうなります。
日本銀行:(借)国債 100万円 (貸方)現金(日銀券)100万円
という処理。相手方は、
A金融機関:(借)現金 100万円 (貸) 国債 100万円

となり、保有している国債が現金に置き換わっていることが分かります。

この結果、市中に出回るお金が多くなる、という仕組みですね。

日本銀行のバランスシートを見てみてもいですね。バランスシートに占める国債の割合をみると、いかに日本銀行が国債を購入しているかが分かります(この辺りは長くなりそうなので、今回は触れないで起きます)。

さらに、日本銀行が大量に国債を購入するということは、国債の価格は下がっていく、ことになります。さらに、2016年1月29日には、日本銀行はマイナス金利政策の採用を発表しました。

*民間銀行の日銀当座預金にある超過準備に対して-0.1%のマイナス金利を課す*2016年2月16日より実行されました。

こちら、国債の10年間の金利動向をみているとはっきりをその影響を受けていることが分かります。

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SBI証券提供の国債(10年)金利情報より作成 http://ur2.link/0RAH 

もう一度おさらいしましょう。

長期金利=短期金利+期待インフレ率+期待成長率+リスクプレミアム

となるわけです。

長期金利の算定の基準になっている10年もの国債は、
第一段階で、日本銀行が大量に国債を購入することで下がり
第二段階で、短期金利をマイナスにすることでさらに値下がりしました。

その結果、割引率がマイナスということがありえる事態になったわけです。

本来、国債の価格形成については市場に委ねるべきという考え方もあると思います(この点はまた別途議論が必要ですね)。

ともあれ、市場の国債大量に買い入れるということが、将来キャッシュフローの算定に必要な割引率に影響を与える、ということは興味深い現象です。

またマイナス金利の問題は別の問題も引き起こしています。

マイナスになると「現時点で用意すべき金額」が増えることを意味します。

つまり、本来であれば、
長い期間で現在価値に割り引くほど、その額は小さくなる。
なのが、
長い期間で現在価値に割り引くほど、その額は大きくなる。

という逆転現象に!この状況をどう処理するの?ということでこちらで実務対応に関する話が載っています。

当委員会は、国債等の利回りでマイナスが見受けられる状況に関連して、平成29年3月29日に実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」(以下「実務対応報告第34号」という。)を公表し、安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務の計算における割引率について、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法によることを当面の取扱いとして定めています(実務対応報告第34号第2項)。

利回りの下限としてゼロを利用する方法
マイナスの利回りをそのまま利用する方法

いずれかの方法による、とされているので、
マイナスの利回りを使っている事例はほとんどないと思います(いくつかあったかもしれません)。

どうでしょう?

割引率○%と設定されている、与えられていることが多いですが、実はその設定方法を巡っては色々と難しい(面白い?)問題が含まれてます。

また割引率をどのように設定するかで、算定額はかなり変わってしまうので、いい加減に設定することは出来ません。この辺りは監査の現場、または会計担当者としても難しいところだと思います。

割引率にはこうしたダイナミックな経済の動きがあることを知ると面白いです。

最後に・・・

世界中が新型コロナウィルス感染症の影響を受ける中で、国債の大量発行、中央銀行の買い取りという構造が出来上がりつつあります。

これが私たちの経済にどのような影響を与えるのか?

実は過去に例がないことで、分からない、そうです。

割引率の設定から見える経済の動き。

今後も目が離せません。

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