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物流を制するものがwithコロナの経済を制する?:昨今の宅配動向、日本郵便、ヤマトの決算分析

1.ステイホームを支えている物流網

物流を制するものがwithコロナの経済を制する、とまで言うと大げさかに聞こえるかもしれません。

しかしながら、まだ緩やかなステイホームの中で物流関係が重要になってくるのは間違えないでしょう。

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こちら「新しい生活様式」です。こちらに買い物「通販も利用」と書いていますね。これみたときに、今でさえ、宅配業界の人たち大変なのに…と思いました。コロナ禍での緊急事態宣言中ももちろん郵便局は空いていたと思います(局員にコロナ発症者が出たところは閉めたりしたこともあったようですが)。


近所の郵便局の方に聞いたところ、「必要なものは郵送で届ける」となったので、いつもとは比べ物にならない量の配達をしなければならなくなっている、そうです。

物流業界全体として人手不足というのは深刻化しております。他社でもロボティクスを導入しつつ業務をオートメーション化し、自動化までいかなくともさまざまな業務の効率化に注力されていると認識しています。それでも人のオペレーションというのは必要で、“最後の効率化”部分の要です。世間ではラストワンマイルでの人手不足が問題視されており、減っていく労働力に対してどのような対策をしていくのか、というのが当社の課題でもあります。

2020年3月25日

2020年度の祝日、休日における普通郵便物等の配達について、2021年1月1日(金・祝)を除き、原則として休止しますのでお知らせします。
なお、祝日、休日においても、速達、書留、ゆうパック等、次の郵便物等は配達を行います。

通販、インターネットショッピングでものを買うことは多くなってきていると思いますが、実際のものを届ける物流網が整備されていなければ、ものがちゃんと届くことはありません。

日本ってすごいですよね。

送ったら1~2日でものがちゃんと届きます。ちゃんと頼んだものが確実に届く、これがどれだけ有難いか!


ヤマト運輸も日本郵便(日本郵政)も人がいないところではマスク外すことを認める・・・てまぁそりゃそうですよね。

この暑い中、マスクしながらの配達はつらすぎます。


そうした中、渦中の持続化給付金でこんなニュースもありましたね。

本筋とは外れるので今回は深入りはしませんが、

営業担当者は、保険の契約件数に応じて支給される営業手当を個人事業主として確定申告しており、手続き上は申請が可能だった。
国が給付金の受け付けを開始した5月1日以降、西日本新聞にも同様の情報が寄せられた。取材に応じた一人は「営業自粛の対象になっていない商品もあり、コロナの影響で顧客訪問ができなくなった。申請に問題はない」と主張していた。熊本学園大の坂本正シニア客員教授(金融制度論)は「不正販売問題で再発防止を目指している中、社員にコンプライアンス(法令順守)の意識が浸透していない深刻な実態が明らかになった。なぜこのようなことが起きてしまうのか。郵政グループは背景を含めて徹底して調査し、説明責任を果たすべきだ」と指摘した。

この件、法令順守の範囲で語るべきなのか、それともモラルの問題で語るべきなのか。おそらく後者(モラルの問題)だとは思います。要件として手続きが可能、ということであれば申請する資格は発生してしまうので。

感じるところは・・・そこまでしないといけない、つまり成果給で成り立っているのか?という点ですね。一般に、金融機関に勤める従業員がある程度の水準の給与を保障されている理由は、お金で不正を起こさないため、でもあります。そこまで生活が苦しかったのか?それとも成果給に応じて給与が払われる仕組みが浸透していて、その穴埋めをしたい誘因があったのか?詳しいところはもう少し調べてみないと、ですね。

2.宅配便等取扱個数動向

まず、こちから確認していきましょう。

Amazon、楽天、メルカリ・・・どれもものを届けてもらうためには宅配をお願いしないといけません。

最近はコンビニを利用して送ることが出来るので、随分手軽になりましたね。国土交通省の調査から宅配便の取扱個数の動向を見てみましょう。


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国土交通省「平成30年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」
https://www.mlit.go.jp/common/001310351.pdf

こちらです。毎年調査結果が開示されています。令和元年度のデータはまだ開示されていないので、平成30年度までのデータをみてみることにします。


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まず宅配便合計としては、圧倒的にトラックによる配達が多く、航空便等はごく少数(1%程度)です。

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そしてこちらは宅配便合計の取扱量の推移です。急激に伸びていることが伺えます。平成元年と比べると4倍ぐらいになってますね。平成20年あたりから急激に伸びて、4307百万個にまで達しています。つまり、43億7百万個!ですね。

ここまで伸びたのは、コンビニの店舗数が多くなり、手軽に宅配便が遅れるような環境になったこと、Amazon、楽天、その他の通販会社の伸び、という相乗効果があるでしょうね。

昔はすぐには宅配便は送れなかったものですが、今は便利になりました。

まだまだ伸びていくことが期待される一方で、人手不足の問題をどのように解消するのか?が問われていますね。

その中で期待されている、大きく物流の在り方を変える可能性があるのがドローンですね。

アメリカの大手ドラッグストアチェーン『ウォルグリーンズ』は、グーグルグループの親会社『アルファベット』傘下であり、ドローン宅配事業を展開する『ウィング』と提携。店舗から家庭まで商品を届けるドローン配送サービスを発表しました。
サービス開始予定は、2019年10月。まずは、バージニア州クリスチャンズバーグの『ウォルグリーンズ』顧客に向けて、健康・ウェルネス製品、食品、飲料、日用品をドローンで配送するとのことです。
『ウィング』は、2019年4月23日、アメリカ連邦航空局(FAA)より航空事業者としての認可を獲得したばかり。ドローン事業者として、アメリカ航空事業者の認可を受けた企業は『ウィング』が第一号です。

まだ多くの課題を抱えているようですが、今後、ドローンが物流の一翼を担う可能性はあります。


航空便を除くトラック運送による荷物数は、前年度比2.1%増の42億6061万個だった。昨年度までと比べると伸び率は鈍化した。
ネット通販大手のAmazonや楽天、家電量販店のヨドバシカメラなど、荷主企業が自社で配送まで手掛ける動きが拡大しており、この影響が反映されたことが示唆される(国交省の統計には、この様な自社配送の荷動きは含まれていない為)。

自主配送、確かにありますね。これがどこまで拡がるかは分かりませんが、既存の運送網に強みがあるヤマトホールディングス(クロネコ)、佐川急便(飛脚便)、日本郵便(ゆうパック)の3強が強いことには変わりがないでしょうね。

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ヤマト、佐川、日本郵便で、全体の90%以上を占めています。ヤマトの構成比は高いですね。

3.ヤマトの決算発表:2020年3月期は増収減益

佐川急便は残念ながら、非上場なので、決算発表で比較できるのは、ヤマトと日本郵便になります。

ヤマトはどんな決算発表だったのでしょうか?

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増収減益という今期の結果でした。ステイホーム状態で儲かっていると思いきやそうではなかったです。宅急便取扱数量が想定を下回った、とあり、引っ越しサービスの休止の影響などもあり、減益となたようです。

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こちらキャッシュフロー計算書、です。営業活動キャッシュフローの範囲内で投資活動が行われており、全体として大きな無理な投資はしていないことが分かります。

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こちら有価証券報告書(2019年3月期)です。注目してみたいのは、営業収益が一貫して伸び続けていること、その一方で当期純利益は伸び悩んでいること、です。このことから、宅配便を引き受ければ引き受けるほど、コストが嵩んでいるのではないか、ということがうかがえます。

一方でキャッシュフローの動きを見てみると、一貫して、営業活動CF>投資活動CFで、ヤマトは営業活動の稼いだお金の範囲内で投資を行う、堅実なタイプであることがうかがえます。

社風かもしれません。ヤマトの今の形を作ったのは創業者である小倉氏です。かれもまた名物経営者の一人ですね。



小倉康臣の次男として代々木に生まれた(長男は早世)[2]。1937年幡代小学校卒業。同年、当時府立一中を上回る最難関の官立東京高等学校尋常科に入学。1942年秋、東京高等学校高等科卒業。1943年秋、東京帝国大学経済学部入学。1947年、東京大学経済学部(旧制)卒業。1948年、父・小倉康臣が経営する大和運輸(現・ヤマトホールディングス)に入社。
入社後半年で肺結核を患い4年間の入院生活を送るが、大和運輸がGHQ関連の輸送業務を担当していた為、日本国内ではほとんど入手困難だったストレプトマイシンを米軍ルートで入手できた事もあり、当時としては奇跡的に回復。退院後静岡県の子会社の再建を手がけたのち本社に復帰し、1961年に取締役となる。

静岡の会社を再建に手掛けた!とあります。静岡が小倉さんの始まりの地だったのですね。これには驚きました。

経営者として多くの本を残してはいませんが、こちらがありますね。


「儲からない」といわれた個人宅配の市場を切り開き、「宅急便」によって人々の生活の常識を変えた男、小倉昌男。本書は、ヤマト運輸の元社長である小倉が書き下ろした、経営のケーススタディーである。
全体を通して読み取れるのは、「学習する経営者」小倉の謙虚さと、そこからは想像もできないほど強い決断力である。成功した人物にありがちな自慢話ではない。何から発想のヒントを得たか、誰からもらったアイデアか、などがこと細かに記されている。講演会やセミナー、書籍、マンハッタンで見た光景、海外の業者に聞いた話、クロネコマークの由来…。豊富なエピソードから伝わってくるのは、まさに学習し続ける男の偉大さである。

小倉さんの話は、私の履歴書で読んだ記憶があります。官に独占されていた運輸関係に風穴を開け、新しいビジネスの機会を作り出したのは小倉さんの功績によるところが大きいでしょう。それだけでなく、かれは哲学をもった自分であったことでも知られています。

小倉さんの経営哲学を感じさせるエピソードが書かれています。

 小倉さんがヤマト運輸の子会社である静岡運輸という会社に勤務していた際にあった話であるが、その会社では交通事故や労災事故が多かった。そ こで労働基準監督署からの指導もあり、管内の事故の発生が非常に少ない事業所を見学に行ったところ、その事業所には「安全第一、能率第二」という紙が壁一 杯に貼ってあったという。そこの経営者の「安全も能率もどちらもしっかりやれと言っていた時分は、結局どちらも中途半端でした」という言葉から、小倉さん は自社の事故が減らない理由にはたと気付いたという。それはこれまで小倉さんの会社では「安全第一」とだけ書いたポスターを貼っていたからであった。
自社にもどった小倉さんは早速「「安全第一、営業第二」と書いたポスターを貼った。
その結果、事故は急激に減ったという。運転者の皆さんは「安全第一」といっても営業(配送効率)は絶対落してはいけない、できるだけ早くお届 けするのが自分達の使命であるという呪縛ともいうべき思いがあり、その結果、安全よりも配送効率=スピードを優先していたが、トップから配送効率は二番手 でいい、それより安全輸送が優先するのだという方針が明確に示されたので安心して安全輸送に取り組むことができたからである。    
興味深いことに、「安全第一、営業第二」としたにもかかわらず不思議なことに営業(配送効率)は落ちなかったという。
「安全第一」という呼び掛けには、安全が何よりも優先することをいっており、改めて「第二」を明らかにする必要はないと思われる方も多いかと思 うが、「第二」がないと「第一」は焦点ボケしてしまい、その逆に「第二」が明確に示されると「第一」が徹底するということをこの小倉さんの例は物語ってい る。

そういえば、こうした不祥事もありましたね。難しいのは創業者ともいえる社長がいなくなった後、その哲学を知る者が少なくなり、結果的に会社が営利主義に走っていき・・・失敗していく。よく繰り返されてきた図式です。

こうした不祥事や、過重労働に関する問題もあったものの、ヤマト運輸の決算をみると、かなり盤石で、堅実な経営をしていることが分かります。

4. 日本郵便の決算発表:2020年3月期は増収増益を達成

説明するまでもないかもしれませんが、日本郵便は日本郵政グループの会社です。建付けとしては、日本郵政グループは日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社でなりたっています。よく言うのは長男、次男、三男ともいわれますね。日本郵便は長男!であり、郵便なくして日本郵政はない!わけです。ただ、長男、そんなに優秀ではありませんでした。グループ内では利益は稼げておらず、ゆうちょ、かんぽの収益で支えられていたといってもよいでしょう。特に利幅が確保されているかんぽの収益は貴重な収益源でした。

いわゆる郵便は赤字、ゆうちょはトントン、かんぽは黒字、で帳尻を合わせる、という形ですね。というのも郵便事業は手間がかかり、収益を上げるのは容易ではありません。

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日本郵政グループにおける郵便・物流事業は2020年3月期は増収増益を達成しました。かつ、増減分析を見てみるとコストコントロールが上手くいっていることが分かります。なぜこれを達成することが可能だったのでしょうか?


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こちらを見てみると注目したいのは2016年3月期に多額の投資活動のマイナスが発生していることです。このことからこの時期に大胆な大幅投資をしたことがうかがえます。

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同社の2016年3月期の報告書から、です。郵便・物流ネットワーク再編、郵便局の業務効率の向上に取り組んでいること、次世代郵便情報システムを導入した事などが書かれてています。

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この時期のキャッシュフロー計算書を見てみましょう。

こうしたシステム再編による購入額かは分かりませんが、前年度比と比較して多くの支出をしていることがうかがえます。一方で、この時期はトール社を買収した時期でもありました。

積極的な投資をしていた時期であることがうかがえます。トール社は「のれん」の減損をする結果になりましたが、国際物流は長期的にみれば期待できる分野なので、この買収が成功か、失敗かはもう少し長い目で見る必要がありますね。


5.今後も物流・宅配便競争からは目が離せない

本来であれば、B/Sの比較もしなければならないところですが、それはまた別にさせてもらいます(文字数が嵩み過ぎました!)

物流がいかにコストがかかる商売なのか、が分かっていただけたと思います。

人件費もかかりますので、コストコントロール、そのためのシステム作りが鍵を握ります。

日本郵便は最近は積極的にこの辺り研究していることがうかがえますね。

AI(人工知能)を活用した配達システムを試験的に導入する、というニュースがちょうどありましたね。

2018年に報道されていた件が実用化されるつある、ということですね。


ヤマトは業績が今一つなこともあって色々言われていますね。

とはいえ、ヤマトは取り扱い個数で、業界ナンバーワンであることには変わりはないでしょう。

むしろ、一番になっているからこそ、苦しんでいるともいえます。

いわゆるクリステンセンのいうところのイノベーションのジレンマ、ともいえるかもしれません。

既存のシステムがこれまで上手くいっていただけに、それを変える、ということについてはまだ抵抗があるというのも事実でしょう。

とはいえ、ヤマトもこのままでもいないでしょう。

ヤマトは以下の3つの事業構造改革を行うことを決算発表で宣言しています。

【3つの事業構造改革】
宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)
・業務量予測の精度を高めて人員の適正配置や稼働設計の最適化に着手
・ソーティングベースにおいては、2拠点で運用を開始
ECエコシステムの確立
・Zホールディングス株式会社と協業(発表:2020年3月24日)するなど、
「産業のEC化」に対応し、生活者ならびにEC事業者の利便性向上に向けて、
大手EC事業者との連携やEC向け配送サービスの実験を開始
法人向け物流事業の強化
・法人領域に、グループの営業組織と経営資源を集約
・農産品の一次生産者の受発注からお届けまでをワンストップで効率化する
「ベジネコ」プロジェクトを九州でテスト運用を開始

ヤマト、佐川、日本郵便の物流・宅配便を巡る競争はこれからも激化していきそうです。


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