敏腕タクシードライバーの稼ぐ考え方
先日、とある個人タクシードライバーに話を聞いたのだけれど。その思考法がすこぶる面白かったので記しておきたい。
(1)流しでは必ず先頭を走る
タクシーの営業方法は「電話で予約してもらう」のもあれば、駅や病院など人の集まるところで「待つ」方法もある。都市部では街中を走りながら、手を上げているお客さんを見つける「流し営業」も一般的である。
この「流し」でタクシーを走らせている場合、「必ず先頭を走る」というのが鉄則だそう。複数台タクシーが走っていたときにお客さんを見つけて止まれるのは最初の1台だけ、だからだ。ゆえに信号機の加減や他の車との位置を見極めて、常に自分が車列の先頭になるように調整しているのだそう。
この思考法は、自社の強みを活かしてニッチな市場を取る「ニッチトップ戦略」にも通じる。あるどこかの集団で先頭を走っていれば、お客さんを捕まえることができる、と。位置的に車列の先頭になれない場合には、その集団から離れて自分が先頭になる車列を作ればいいわけだ。集団から離れて、自分の強みを活かすのは「越境」である。
例えば、新聞記者ならば、新聞社内では「書く」能力でトップになるのはライバルも多く大変かもしれない。でも、一歩外に出て。例えば、事業会社の広報担当だったり、コンテンツマーケティング担当であれば「書く」ことで無双できたりする。
官僚の場合でも「政策立案能力」において省内で競い合っている。けれど、一歩外に出てスタートアップ業界に入り、省庁にロビイングしながら資金調達に効く一文を盛り込む政策立案に携わる、という事例もある。
個人だけでなく企業のポジショニングも「集団を再定義」すればいい。石鹸メーカーの場合、洗浄力を競って大手消費財メーカーとドラッグストアで棚争いをしても価格争いのグローバル競争に巻き込まれるだけ。「環境に優しい」「天然素材」と再定義して、雑貨屋さんに卸して売ってもらうケースもあったりする。
もちろん、「その集団でトップであること」はあくまで一つの手段。タクシーの目的は「お客さんを乗せて走る」ことなのだから。
(2)実車率は60%を目指す
タクシーのビジネスモデルの場合、お客さんを乗せて走っている時間と距離が長いのが理想。だからこそ、長距離のお客さんを捕まえるために、ターミナル駅で待っていたりする。
しかし、県をまたぐ長距離の場合には別の問題が発生する。タクシー免許はその都道府県内のみで発行されるので、発着地のどちらかは免許を交付された都道府県内でないとならない。定めておかないと、神奈川や埼玉のタクシーが東京都内で営業できることになる。需給バランスが壊れてしまうわけだ。
例えば、東京都で免許を受けたタクシーが東京駅で成田空港まで行く長距離のお客さんに乗ってもらった場合、帰りは成田空港から千葉県内で降りるお客さんを乗せてはいけない。空車を見つけても行き先を告げると「乗せられません」と乗車拒否になるのはこのパターンだ。
そして、実車率は60%くらいを目指すという。ただ、高ければ高いほどいいわけでもない。実車率を高めるには無駄をなくすこと。つまり逆に「予約以外走らなければいい」という結論になってしまう。これでは稼げないそう。また、常に乗車率が高くお客さんがいる状態は「いつ帰れるか分からない」という心理になるだそうだ。
だからこそ。予約が入っているときには、その1時間前には切り上げて現地に向かい、流しのお客さんは取らないそうだ。これもワークライフバランスを守るために必要なことである。
「売上効率」や「実車率」などの数字をKPIに置くとき、この数字が高まれば高まるほど本当に嬉しいのかをよくよく考えること。得てして、ビジネスは複雑なので、一つの数字を上げれば万事解決ということはない。
(3)同業他社からの紹介は絶対に断らない
個人でタクシーをやっているなかでは、同業他社の横の繋がりも大事にするという。同業他社は出し抜くライバルというよりも、協業する相手である。
自分がお客さんから予約を受けたとき、どうしても日程がバッティングしてしまうことはある。そのときに「自分は予定が入っているんですが……。信頼できるドライバーをご紹介しますね」と伝えられれば、太いお客さんを逃すことはない。
反対に同業他社から「この日時で予約を受けてもらえない?」という連絡が来た場合は絶対に断らない。というのも、一度断ると2度と紹介を受けられないから。自分のスケジュールが空いていなければ、なんとか代わりのドライバーを手配して報いるそうだ。
自分や自社の売上や利益にならないならば、お客さんを断る……というのも一つの考え方だけれど。損をして得を取る。双方でお客さんを紹介し合い、業界全体のパイを大きくすることも大切なのだ。
自分にとって馴染みの無い業種業界の話は本当にためになる。翻って、自分の行動をどうすればいいのかを考えるきっかけになるなぁと改めて思う。
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