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ハマり体質健在


以前「ハマり体質が世の中を変える」というタイトルで記事を書いた。

今なら「オタク」というのかもしれない。

でも私は「ハマり体質」の方がしっくりきて、この言葉を使っている。

自分がハマり体質であることは、子供の頃からなんとなくわかっていた。
ハマり体質のいいところは「集中力」と「継続力」(継続力は全員ではないかもしれないが)
だが、悪いところは「同時進行が苦手」「周囲が見えなくなる」ということだ。

小学校1年生の時の、優しい、新人ながら素晴らしい洞察力を持っていた、私の担任の白石先生は、私のこの「どハマり体質」を1学期間で見破り、保護者面談の際に母に
「算数の授業が終わっても、切り替えができなくて、次の国語の授業の時にもまだ算数の教科書を開いています」と言ったらしい。

ただ、この先生の素晴らしいところは、「ただ、私はこの集中力は悪いことだと思ってません。
それでも集団行動をする際に、もう少し切り替えがうまくなるといいなと思っています」と伝えてくれたことだ。

それを私は母から聞いて、小学校一年生の時のことをいまだに覚えているのだから、きっと「この先生は私のことを理解してくれている」と嬉しかったのだと思う。

この頃お昼休みに、外遊びに夢中になり、上級生が使っている遊具が空くのを仲良しの友達と他の遊びをしながら待ち続け、ようやく空いたと思って、歓喜の中
ブンブンと遊具で遊んでいたら、校庭には誰もいなくなっていて、慌てて教室に戻ると
「後ろに立ってなさい」と白石先生に言われ、
男子しか立たされている生徒がいない中、
仲良しのSちゃんと二人で立っていると、
「廊下に私はあなたたちを立たせません。なぜなら、遅れてきてもあなたたちにも授業を聞く権利はあるからです」と、小学校一年生にもわかるように、納得の理由をちゃんと伝えてくれる、そんな白石先生が大好きだった。

白石先生についても、記事を書いたことがある。

白石先生

今思えば、校庭に人がいなくなっていたのは、始業のチャイムが鳴ったからなのだけど、Sちゃんと私は完全なハマり体質で、夢中になっていて全く気づいていなかった、ということらしい。

その性格は大人になって、改善されたのだろうか?

少しは改善されたように思う。
多分それは客室乗務員という仕事に就いたおかげだ。
少し長くなるのですが、私が魔法の力を手に入れたお話を少しさせてください。

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新人時代に先輩方によく言われていたのが、「視野を広く持ってください」だった。

目の前のお客様へのサービスに夢中になっていると、すぐ隣のお客様や、ましてや私の後ろで私のサービスがひと段落するのを、ご親切に待っててくださるお客様のことなど、全く気づきもせず、目の前からやってきた先輩から「後ろ、お客様」と耳打ちされて気づく、という有様だった。

でも、どうやっても周囲の様子に気づくことができない。
一方先輩方は、カートを引いている時に、一度も後ろを振り返っていないのに、後ろにお客様がいることに気づき、カートを左端に寄せ、ようやく後ろを振り向くと「どうぞ」と当然のようにそこにいるお客様に通路を通っていただく、
ということを、当たり前のようにしていた。

「一回も後ろを見てないよね?先輩たちは魔法使いなの?」

と、真剣に思ったりもしたが、そんなわけもなく、
「なぜ先輩たちは後ろのお客様に気づくのか」を、
真剣に考えるようになった。

もちろんその前に、なんでも質問をする私はいろんな先輩方に聞いた。
「どうしたら、視野を広く持てますか」と。

それぞれの先輩がそれぞれのアドバイスをくださったが、中でも印象的だったのは、
「人間の視野って、どのくらいあると思う?」
と聞いてくれた先輩の言葉だ。

「え?」

「人間の視野はね、180度以上あるのよ。つまり、
あなたが両手を真横に広げて、まっすぐ見てご覧なさい。まっすぐ見ているはずなのに、あなたの指先が見えるでしょ?ということは、私たちはまっすぐ見ていても、180度までは視界に入っているのよ。あとはその視界に入っているものに気づくかどうかですよ」

と。

この先輩がどの先輩だったのかは、もう記憶が定かではないのだけど、なぜこの先輩がそんなことを知っていたのか、今でもわからないし、客室乗務員の人たちの中には不思議な力があった人や、思いもかけない知識を持っている人が案外多かったのは、とてもよく覚えていて、私にとってはとても恵まれていた職場だったと言える。

その言葉を聞いて、実際に180度見えることを体験すると、だんだんとまっすぐ見ていても、隣のお客様、少し離れた席のお客様が動くことに気づくようになってきた。

でも、「後ろに立っているお客様」のことは、180度以上の視野、すなわち270度なのでこの先輩のアドバイスでは解決ができない。

そして、先輩方は「後ろにも目を持ってください」

と、謎の言葉を口々に言うのだ。

「後ろに目を持つ」と言うのは、どう言うことなのか?
「そんな異常なことを、普通にみんなが言うってどう言うこと?」

そう思っても、なんとなくこれ以上は先輩たちに聞くことはできない気がして、自分で考えてみた。

「意識してください」

と、なんとも曖昧なアドバイスをくださった先輩方がとても多かったのだが、じゃあ、意識してみようと思い、通路に立っている時にいつもよりも神経を過敏にしてみた。(そのつもりだった)

すると、妙なことに気づいた。

飛行機の床というのは「ハニカム構造」と言って(訓練中に整備士出身の教官から学んで、今でも忘れない言葉だ)飛行機をできる限り軽量化するために、細い針金のようなものを蜂の巣のように組み立てて、軽いけど強い、という構造になっている。

だから、飛行機の通路を歩いたことがある人(全員歩いているはずだが)は、
「なんか飛行機の床って、柔らかいな」と思ったのではないだろうか。
コンクリートのように硬くないのだ。

ということは
「人が歩くとその振動が足の裏に伝わる」ことに気づいた!!
大発見をした感じだった。

ただ、立っているだけで人が歩いているのがわかるのだ、「意識をすれば」だ。

ただ、歩いていることはわかっても、ちょうど私の真後ろにお客様が立ち止まった瞬間はわからない。

後ろを一度も見ないで、どうしたらわかるのか?

さらに私は神経を研ぎ澄ませた。

すると、背後、つまり自分の真後ろに人が立つと、「温度」が少し暑くなり、
「気配」がするのがわかったのだ!!

これも世紀の大発見とばかりに、早速試してみた。

他のお客様へのサービス中に、
「あ、今誰かが歩いてきている」
というのを、足の裏で感じ、予測をする。

さらに足音が止まり、今私の後ろに人が止まったと感じた瞬間に初めて後ろを振り返る。

とそこに、男性のお客様がいた!!!

当たり!!

先輩と同じように、魔法が使えた!!

それ以降私は、先輩方と同じように私の後ろにお客様が立ったことに気づき、
カートを左側によけ、「どうぞ」と余裕で、満面の笑みで言う。

当然一度も後ろは振り返っていない、という芸当ができるようになったのだ。

これで、私の「ハマり体質が少しは改善した」と私も思っていたが、図書館で本を借りるという、禁じ手に手を出してしまい、200ページを超えるハードカバーを2日で読み切った時、

「結局、何にも私は変わってないのだ」

と思い知らされて、悲しいやら、ほっとするやら、嬉しいやら、複雑な心境の日々を過ごしている。

そして今日も私は図書館に行こうとしている。


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