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BtoB企業の会社HP構築 : 業務とシステムの両面から構築する必要性

Webの普及・Webの進化にともない、BtoB企業の会社HPも見込み客を営業に供給するマーケティングツールとして位置付けるような企業も増えてきて、充実したコンテンツと機能を備えたものも増えてきました。

 ただし、どこまでのコンテンツをWeb上に用意するとよく、どのようなUIでみせるとよいか、ホワイトペーパや設計図ファイルなどどこまでユーザに提供するものとするとよいか、Marketing Automation機能まで実装したほうがよいか、Web以外の用途も含めたコンテンツの一元管理まで行ったほうがよいか、などさまざまな選択肢がある中で、ある企業の会社HPとしてはどのようなものとするのがよいか判断するのは、いくつもの観点での評価が必要となってきています。

 基本的に、会社HPはその企業が対外的に発信するツール/メディアで、広報や採用目的などもありますが、BtoBの製造業の場合であれば自社の製品を法人顧客あるいは見込み顧客に対してアピールすることが最も重要となることが多いのではないでしょうか。別の表現の仕方をすればマーケティング目的が最も重要で、下記のようないくつかのマーケティングステージでの機能が求められます。

a.     まだ顧客ではないものの購買ニーズはもっている見込み客ユーザに対して、どのような製品を販売しているか情報を提供する

b.     ある程度自社の製品に興味をもってくれた見込み客ユーザに対して、継続的な情報提供を行ったり、会社HPへの再訪掲載に従った関連コンテンツを提供する

c.      既存顧客に対して、自社で取り扱う製品の辞書的な最新情報を提供するとともに、ひとつの製品にニーズがある場合には合わせて購買ニーズが発生することが多い関連製品などの情報を提供する

BtoB企業の会社HPとして、高いパフォーマンスを発揮するものを限られた予算・期限内に作り上げるためには、当該BtoB企業の「業務」とWebの「UI・システム」に関する知識の両面が必要となります。

ここでの「業務」とは、以下の三つの側面があります。
1.     当該企業の製品のマーケティングプロセス (顧客の購入までのプロセス)
2.     当該企業の製品の営業プロセス (当該BtoB企業の販売プロセス)
3.     当該企業の会社HPの運用プロセス (Webページの更新など)

当該企業の「業務」とWebの「UI・システム」に関する両面に関する知識をもっていれば、予算・スケジュール制約の中で、どのような会社HPを構築することがベストであるか、高いレベルでの判断が可能となります。

そのためには、WebのUIに関しての知見、システム開発に関しての経験・知見などのほかにも、近年増えてきていてる、CMSやノーコードツール/ローコードツールあるいはSaaSなどの各種サービスについての知識なども重要になってきています。一からシステム開発しなくとも、ツール/サービスを利用することにより迅速に安価にある機能を実現できることが増えてきました。

 一方で、業務に関しての知識としてはマーケティング・デジタルマーケティングやMarketing Automationに関する知見なども重要ですが、当該BtoB企業の業界・分野では製品がどのような使われ方をするのか、どのような用途の種類があるのか、どのような性能がどの用途には重要となってくるのかなどの、当該BtoB企業のマーケティングプロセスに関しての知識があることも、WebサイトのUI設計やMarketing Automation導入などにも重要となります。これらの知識は各業界・企業によっても異なってくる面が多いため、当該企業に寄り添ってヒアリング・コミュニケーションしながら設計するスタンスの有無もひとつのポイントです。

 本記事では、BtoB企業、特に製造業の会社HPを構築するにあたり、「業務」と「UI・システム」の両面から要件定義・設計・構築を行うことが、どのように重要となってくるのか、三つの例を取り上げて解説していきます。

  1. 製品の掲載の仕方・カテゴリ分類・製品検索機能

BtoB企業の会社HPで多くの場合に最も重要な、製品の紹介に関して、ユーザに対して適切にわかりやすく各製品の内容を説明するとともに、製品の特長をひと目でアピールして興味をもってもらうのに重要なのが、会社HP上で製品をどのように掲載・並べて、どのようにカテゴリ分類して見せて、製品検索機能などを提供するかどうかという点にあります。

BtoBの製造業の場合には、取扱い製品数も多くなることも多く、各製品ページを静的なページとして作成するよりも、製品情報をシステム登録して、各製品ページもシステム的に生成・表示させるとともに、製品検索機能なども実現している場合も多いかと思います。ただし、製品の特長をアピールして、他社との比較優位な点も理解してもらって、より詳しい話が聞きたいと思ってもらい、問い合わせをしてもらうところまでを実現するのが会社HPの目的であるところを考えると、定型的に各製品を同じフォーマットのページとして、同じように決まった項目についての情報が掲載されている形態では、当該企業の重要製品についての掲載内容としては物足りないということになることも多いです。

典型的な製品ページ構成

一般的にBtoBの製造業の会社HPの製品ページのフォーマットとしてよく見られるのは、各製品ごとに「機能」「仕様」「カタログ」などのページを用意して、各製品をカテゴリ分類して会社HPの製品ページTOPからまずカテゴリを選択してもらって、そのカテゴリ一覧ページから該当の製品を選んでもらい、その製品のページ群をみてもらうという構成かと思います。下記の富士電機の低圧インバータ製品「FRENIC-VG」のページについても、画面の左メニュー「低圧インバータ」のところの一番上の製品が「FRENIC-VG」で、いま表示・選択されているのが「FRENIC-VG」のページであるのがわかります。また、この製品のページとして「主な機能・特長」「共通仕様」「形式一覧」「FAQ」「カタログ」「ダウンロード」のページがある構成となっています。

低圧インバータのようなBtoBの製品の場合には珍しくありませんが、下記の「主な機能・特長」のページにはそれほど詳しく、他社の競合製品と比較しての優位性やどのようなニーズがある場合にはどのようなメリットがあるかなど詳しい説明までは掲載されていません (2023年5月現在)が、ある企業の取扱い製品の中でも、ほかの製品より圧倒的に重要な製品があり、見込み客にも読んでもらいたい特徴・他社優位性がある製品があって、その製品についてはほかの製品とはページ構成を違うものとしたい場合などあります。

そのような特別扱いしたい製品がある場合に、システムで製品ページを生成・表示している場合に、そのシステムが製品によってページ構成やページレイアウトを違うものとすることが難しいと、多額の追加費用をかけてシステムをカスタマイズするか、特定の製品のみ特別扱いすることをあきらめる必要がでてくる場合があります。Webサイトのページとしての内容・UIに対するニーズを決めるマーケティングプロセスとシステムの両面を踏まえて検討することが必要となるひとつの例です。

富士電機 会社HP FRENIC-VG (https://www.fujielectric.co.jp/products/inverter/frenic-vg/)

 一方で、工場で使われるセンサ類を扱っているメーカ企業の会社HPをみると、センサというと製品数多いだけでなく、計測方法がいろいろあったり、用途によってセンサ形状から性能がさまざまあったりするために、「製品系列」ごとのカテゴリ分類もあるのですが、それとともに「用途」ごとの分類も合わせて用意されていることが多かったりします。製品の数も多く、製品ラインアップも多く、製品ラインアップはある計測方法のある用途向けのものとなっていることは多いものの、センサ製品を扱っている各メーカごとに製品ラインアップは異なるために、顧客側としては、その企業の製品ラインアップに詳しくない場合も多いために、「用途」から製品を探していくことができるようにしています。

 つまり、ひとつの製品ページが複数のカテゴリに含まれている形態となることもあるということです。また、センサなどの場合には、計測方式ごとの特徴 (どのような対象物の計測に向いているか、どのような計測環境での計測に向いているか等) も購入にあたっての重要な情報ともなりますので、製品ラインアップごとの計測方式についての詳細な説明を可能とするWebページとすることが求められることがあります。

 このように、BtoBの製造業の会社HPの製品ページとしてどのような内容のものとするのが適しているのか、その業界における製品選択基準なども考慮する必要がありますし、もちろん当該企業の製品の強みがどこにあるのかにもよる面があります。そのような製品マーケティングプロセスによる要望をどのように実現するのがよいか、各システム方式ごとの柔軟性・機能による面があります。WordPressベースがよいのか、HubSpotのようなMarketing Automationツールがよいのか、NORENのようなCMSがよいのか、各システムのできることの詳細とマーケティングプロセスからのコンテンツ・UIに対する要望の両面から決まってきます。

WordPress (https://ja.wordpress.org/)


2.会社HPのマーケティングツール化

BtoB企業の会社HPに求められる役割が単に製品情報を掲載するところから、営業部隊に対して見込み客 (リード) を供給するマーケティングツールとなってきている面があります。

会社HPのマーケティングツール化

BtoBの場合であれば、新規の顧客開拓のマーケティング活動として、イベント出展やセミナー開催などもあり、それらのオフラインでのマーケティング活動から直接見込み顧客リストが営業に提供される場合もあるわけですが、すぐに営業の話を聞いてくれない見込み顧客も多数いますので、それらの人たちにはまずオンラインでのアプリローチ先として登録されて、メールでの案内送付などを行っていくことになります。

また、会社HPにアクセスしてきてくれた見込み客に対して、メールアドレスを取得して継続的なアプローチを行いたいわけですが、そのために、メールアドレスなどの登録を行うことにより提供するベネフィットを用意することもよく行われます。ベネフィットとしては、その業界についての調査レポートのようなホワイトペーパ系のドキュメントファイルをダウンロードできたり、各製品の設計資料などをダウンロードできるようにする場合などがあります。

KEYENCE社HP資料ダウンロードページ(https://www.keyence.co.jp/download/download/confirmation/?dlAssetId=AS_129640)


 その他にも、登録はまだしてくれていないユーザであっても、会社HPに再訪してくれた場合には、より興味をもってくれたユーザということで、再訪者向けのコンテンツを表示するようなことも行われることのある手法のひとつです。

 そのような会社HPを訪問してくれた見込み顧客をナーチャリング (育成) して、メールアドレスなどを登録してもらい、会社HPに対する反応をスコアリング (記録) して、一定の基準に到達した見込み顧客の一覧を営業部隊に供給することが、BtoBにおける会社HPのマーケティングツール化のプロセスかと思います。

 このような会社HPのマーケティング化の観点からも、どのようなコンテンツを用意して、見込み顧客がどのような行動をとった場合に、どのようなアクションを行うべきかをプランするためには、当該BtoB企業のマーケティングプロセスに関する理解が必要です。

 また、このような仕組みを作るシステムとしては、MA (Marketing Automation) ツールを使うのが一般的ですが、どのようなシステム構成とすべきかは、1. の製品の掲載の仕方や製品検索としてどのような内容が求められているか、3. の会社HPの更新・運用における部門ごとのアクセス制限などの求められる運用要件も考慮して決める必要があります。会社HPをマーケティングツール化したいということでメールアドレスの登録機能は求められていても、それ以上のスコアリングやナーチャリング機能は特に求められていなくて、一方で部門ごとのアクセス制限などの運用要件が重要な場合には、MAツールを用いないシステム構成もあり得るかと思います。

HubSpot (https:// www.hubspot.jp)


3.大企業での会社HPの更新・運用 (部門ごとのアクセス制限)

 最後の例が、大企業の会社HPの更新・運用に関して、部門ごとのアクセス制限を求められる場合です。大企業で会社HPのページ数が多くなっており、広報部門だけで更新はできないので、製品ページなどについては各担当部門のWeb担当者が更新するという運用をしているところはよくあります。

 そのような場合に、各部門のWeb担当者はWebの専門家でもなく、Web制作の経験もない人が担当することもよくありますので、各部門の担当者が更新できる範囲はシステム的に限定しておくことが重要となります。システムの重要な箇所は参照できないようになっていて、更新できるページも担当部門のみに限定できるようにしておくのが好ましいです。

 会社HPをWordPressベースで構築するのであれば、ユーザごとのアクセス権限を設定することによって、部門ごとのユーザに当該部門のページのみを更新できるように制御するために、Advanced Access ManagerあるいはUser Role Editor のようなプラグインを追加する必要があります。WordPressは広く使われているツールで、プラグインもさまざまな用途のためのものが存在するので、さまざまな運用ニーズに対応することができやすいと思います。

 一方で、部門ごとのアクセス制限のような機能については、HubSpotなどのツールでは対応していないこともあるので、BtoB企業の会社HPをマーケティングツール化したいという要望はありつつも、大企業のため部門ごとのページ更新運用を想定している場合には、そのためのアクセス制限のようなことまで、考慮に入れる必要があります。

NOREN (https://noren.ashisuto.co.jp)


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