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歩幅

 中古車購入の契約をする。歩くのが好きで、少し遠いぐらいなら大抵歩いてた自分には、結構な決断だと思う。とはいえ、月日を重なるにつれて、歩きから、自転車へ、電車へ、バイクへと、移動の手段を変えてきた。あの日に比べて、簡単に遠くまで行けるようになったけれど、近くのものを見落としていないか気になる。

 放課後デイサービスのアルバイトをしているので、ベビーカーを押したり、小さい子どもと手をつないで歩いたりする。少し遠いぐらいなら大抵歩いていた自分には、その歩幅の小ささにびっくりする。体が大きくなってからは、知らずに一歩が大きくなっていたと気がついた。子どもと笑いながら、隣を流れる河を覗き込む。鴨がしずかに泳いでいく。

 介護の仕事をしていた頃に、もともと競歩の選手だった利用者がいた。突然思い立ち、年齢を感じさせない勢いで歩いていく。ついていくのに必死になりながら、歩く速度が一定なことに気がついた。遠くまで歩き続けるには、同じ速度で進むことが大切なのかもしれないと思う。小走りになりながら、1、2、1、2、と一定の歩幅を刻んでいく。

 久しぶりに暖かかったので、田舎道を散歩する。考えながら歩いていると、自分の人生の歩幅の小ささにびっくりする。会社の同期や地元の友人など、同じくらいの月日を重ねてきただろう人たちは、ずいぶん遠くまで行ってしまった気がする。簡単に遠くまで行けないから、近くのものがはっきり見えて気になる。とはいえ、1、2、1、2、と一定の歩幅を刻んでいく。雲がゆっくり流れていく。


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