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消費者政策の新展開を読み解く~デジタル化と消費者の「脆弱性」~【全1/7回】

パブリック・アフェアーズ活動の一環で、普段から関係しそうな省庁の更新情報などを追いかけています。そんな中、昨年末の内閣府の更新情報にあった「消費者法制度のパラダイムシフト」という言葉が目に留まり、なんとなく気になっていました。さらに、今春には「消費者をエンパワーするデジタル技術」なんて言葉も。これは、何やら面白い議論が動いているのではないか…ということで、これらのキーワードが出てきた背景や、足元の議論の状況などを追いかけてみました。


今回のポイント


イントロにかえて(議論の出発点を私なりに)

インターネットでなんでも買えるし、いらなくなった中古品の取引もできる。レコメンド機能のおかげでついつい色々買っちゃうけど満足しているつもり。いろんなアプリも出てきて、スマホ1つで1日楽しめる。
ただ、いつの間にか契約しているサブスクサービスは増える一方だし、いざ解約しようと思ってもその方法がよくわからなくて結構手間。最近はSNSを見ていても、投稿なのか広告なのかよくわからないものが増えてきたなーなんてことを思いながらも、色々スクロールしているうちに時間が過ぎていってしまった…

さて、1つくらい、思い当たることはないでしょうか。インターネットやスマホの普及で便利になったのは間違いないはず、なのですが、私たちは本当に自分の欲しいものを見つけて、正しく消費の意思決定ができているのか。自分が思うように時間を使えているのか。改めて考えると少し不安になりませんか。

インターネットを通じて詐欺にあった、などというニュースは毎日のように耳にします。詐欺とまではいかなくても、広告やレコメンドにつられて買ってはみたものの開封したきりになっている物、使いもせずにオークションサイトに出品してしまった物、さして使っていないのに契約したままのサブスクはないでしょうか。情報やサービスへのアクセスが簡単になった一方で、あふれる情報の中で正しい意思決定をすることのハードルはどんどん高くなっているようにも感じます。

前置きが長くなりましたが、そんな中で、この半年ほどの間に政府の消費者委員会に「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」「消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会」と、ちょっと気になる名前を冠した検討の場が立て続けに設置され、議論が始まっています。

なぜ「パラダイムシフト」なのか、なぜ「エンパワー」なのか…政府の公開資料などを読み解きながら、順を追って見ていきたいと思います。

大まかな流れは、次の通りです。
まず、これらの専門調査会設置に先立ってまとめられた、消費者庁「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会の議論の整理」(2023年7月公表)を見ていきます。
続いて、それぞれの専門調査会について、そのスコープや議論の進め方などを見ていきたいと思います。いずれの会合もまだスタートしたばかりですが、委員や有識者の方から興味深いプレゼンテーションが行われています。
最後に、なぜ私たちマネーフォワードがこの議論に注目しているのか、といったところをご紹介できればと思います。

「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会の議論の整理」

と、いうわけでまずは「議論の整理」の目次を見ていきます。「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える」というタイトルだけあって、消費者法の目的や役割、消費者概念の再考など根本的な課題から論じられています。

1.消費者法で何を実現するか
 (1)消費者法の目的
 (2)消費者法の役割
2.消費者法の対象主体とその考え方
 (1)消費者概念の再考
 (2)事業者多様性の考慮
 (3)対象主体の広がり
 (4)国(行政)の役割、事業者団体や消費者団体といった民間団体の役割の再考
3.消費者法に何が必要か
 (1)デジタル化の進展が法にもたらす影響
 (2)社会の多様化・複雑化に対応して新たに必要になる規律
 (3)様々な規律手法の役割分担と関係性の検討
4.消費者法の再編・拡充にあたって

消費者庁「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える 有識者懇談会における議論の整理」(2023年7月)

この懇談会が開催された背景については、「議論の整理」の冒頭で示されています。こちらも少し長いですが引用します。

高齢化の進展により認知機能が不十分な消費者の割合が拡大している。また、デジタル化やAI等の技術の進展により、人間の限定合理性や認知バイアス等が容易に攻撃され消費者に不利益で不公正な取引が広範に生じやすい状況が生じるとともに、消費者が国境を越えて取引する消費者取引の国際化も急速に普遍化している。
デジタル化とそれに伴う情報過剰社会の進展は、消費者が金銭を支払う消費行動だけでなく、情報や時間、関心・アテンションを提供して生活する新たな消費者取引も拡大させており、これらを含むデジタル消費者取引の在り方は、多く法律でなくデジタル技術によって規律されている。
このような消費者を取り巻く取引環境の変化に対応するため、消費者法を、その理念から見直し、その在り方を再編し拡充するための検討が必要になっている。
以上を踏まえ、本有識者懇談会は、現状において消費者法は何が実現できており何ができていないかを検証し、消費者法で何を実現するか、消費者法の対象主体をどのようにとらえていくべきか、消費者法に何が必要かといった観点から、将来の消費者法の可能性を議論したものである。

同上

ポイントの1つはデジタル化の進展、もう1つは高齢化の進展による認知機能の低下、とされていますが、人間の限定合理性や認知バイアスに対する攻撃という点にあると理解しています。

結論を先取りすれば、これまでの消費者政策は、消費者自身も自立(律)し、合理的な意思決定が可能であることを前提としてきていましたが、デジタル化の進展はそれを難しくしています。高齢化がその状況に拍車をかけているのも事実でしょう。こうした消費者の人間らしさ、弱さー「脆弱性」―を正面から認めて、消費者法制・消費者政策の在り方を考え直そう、というのが一連の議論の背景です。

次回以降、「議論の整理」の内容を順を追って見ていこうと思います。(続く)


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