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スタートレック・ネクストジェネレーション 「昆虫類の通達」

 ここ1年の間に「スタートレック」が好きと言う人に3人出会った。最初のシリーズをちょっと観て、最近の、クリス・パインが若き日のカーク船長を演じる映画版2本を観ていたくらいだが、気になっていたシリーズではあった。やはり昨年「ツインピークス」が大好きな友人にDVDを借りて観た経緯もあって、それなら「スタートレック」にも挑戦しようかなと思っていた所、3人のうちの1人、マンガ家の田中圭一さんが「ネクストジェネレーション」をBOXで貸して下さり、おまけに「全部観るのは大変だろうから」と、田中圭一セレクションのリストが付属されていたのだった。ありがたいなあ!

 そういったわけで現在少しづつ観賞しているのだが、とても面白く泣きそうになったり、泣いたりしながら観ている。回を追うごとにそれぞれの登場人物達に対する思い入れが深まってゆき、丁寧に作られた脚本も相まって、SFという設定の良質な人間ドラマが展開している。私にとっては馴染みのないキャスティングにあって、ピカード艦長を演じるパトリック・スチュワートは私の好きな映画シリーズ「Xメン」のプロフエッサーXを演じており、親しみがあった。

 さて、登場人物の中に、人間になろうと人間についてあらゆる側面から学んでいるアンドロイド、データ少佐がいる。人間の持つ感情や矛盾などに翻弄されながらも常に努力をする、愛すべきキャラクターなのだが、時折誤った表現をする事がある。例え話、比喩的表現、皮肉などは彼の苦手とする所なのだ。

 シーズン4の185話「ヒューマンアンドロイドデータ(原題 DATA`S DAY)」というエピソードに件のデータ少佐とドクターの会話があった。

データ「私の第六感というか・・・昆虫類の通達です」

ドクター「・・・虫の知らせって言いたいの?」

これは吹き替え版でのセリフ。面白い表現だったが、「虫の知らせ」は日本語の表現だ、原語版では何と言っているのか気になった。

ちなみに日本語字幕では、

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 データ 「これは確かな根拠のない推量です」

ドクター 「つまり 直感って事?」

おんや?ちょっと雰囲気が違っているぞ?果たして原語版は?

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データ 「I could be chasing an untamed ornithoid without cause」

ドクター「A wild goose chase?」

ワイルドグース?これは「虫」の「む」の字、いや「インセクト」の「イ」の字も出ていないようだ?翻訳ソフトにかけてみると、「ornithoid」という単語に引っかかって上手く訳してくれない?

 先にご紹介した、スタートレックが好きで英語を話せる人に確認した所、こんな訳になりました。

データ 「支配できない鳥脚類(恐竜) を意味なく追いかけて
                 いるようなものです。」


ドクター「野生のカモを追いかけているようなもの?」

 これは、前段の会話の流れを考えないと理解し難い問題で、データとドクターは、ある事件の謎を解明すべく調査をしていたが、結果は思わしく無く、暗礁に乗り上げていたのだが、そこでデータはドクターに訪ねる、

データ 「この方法を試して見ましたか?」

ドクター 「いいえ、普通その方法では調べないけど、何故?」

・・・・と、ここまであって先の会話に繋がるのだ。つまり原語では「調査の方法が見当違いの方向を探っていた」という事に焦点が当てられ、日本語では「試してない方法を思いついた」という事に焦点が当てられていたのだった。翻訳の仕事の難しさと面白さの一端を垣間見た。特にデータの表現は少し人間離れしているので、オリジナルのセリフにも工夫があるだろうし、翻訳もやり甲斐がある事だろう。

 この事例に限らず、翻訳者が工夫を凝らし、他言語を分かりやすく日本語訳して下さるお陰で、私達は外国の物語を楽しむ事が出来るという、今更ながらの当たり前の事実に、改めて敬意と感謝を捧げたい。

 ありがとう!翻訳者の皆様!




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