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青春の1ページに残る曲を探して

暑い夏の日差しの中、横浜特有の急な坂道を、部活仲間と2人で歩いた高校時代のある日。

部活関連の行事で、普段来ることのない横浜・みなとみらいに、私たちは少しはしゃいでいた。とは言え、夏休みの最中である。
青い空と照り付ける太陽は当然暑く、私たちは「電車に乗る前に少し散策しながら凉もう」とランドマークタワーに寄ったのだと思う。
キンキンに冷えたランドマーク内を歩いていると、高い高い吹き抜けの真ん中に広場のようなスペースがあった。

今は分からないが、行った当時は端の方にピアノが置かれており、ストリートピアノというわけではなく、時間でプロのピアニストさんが演奏しに来る形だったかと思う。その時はお姉さんが何曲か続けて演奏をしていた。

広くて、オシャレで、高級感のあるスペースで、思い思いに休憩する買い物中の方々に交じって、私たちものんびり座って、部活の今後の話をしていた。
その間もお姉さんは何曲か弾き続けていた。

「この曲は何て曲ですか?」

ある曲が終わってすぐ、私と部活仲間はピアノのそばに駆け寄った。2人揃って、思わず会話が途切れてしまう程に聞き入ってしまったその曲のメロディを、私は思い返すことができない。


それから10年以上の歳月が過ぎた。
あの曲は何という曲だったのだろうか、と時折思い返しては検索をかけるもなかなかヒットせずにいた。


私が覚えているのは

  • 曲名は『海の見える丘』だった気がする

  • 作曲者さんのお名前がカタカナだった気がする

というあやふやなものである。


ただ『海の見える……』という曲名では久石譲さん作曲、映画『魔女の宅急便』のBGMの1つ『海の見える街』が出てくるばかりで、曲名に対して自分の記憶に自信がない。
こっちもこっちで大好きな曲だが、こちらであればすぐに「魔女の宅急便の曲!」となっていたはずなので違う。

また『海が見える丘』でも何曲かヒットはするものの、発表された年代が新しかったり、楽器構成からして違うであろう曲が出てくるので、数年おきに検索しては挫折するを繰り返していた。


そして今日も何回目かの捜索を行ったところ、遂に発見に至った。
きっかけは直近1年内に、同じ曲名の曲をyoutubeにアップロードされている方が複数人いたからだ。


作曲者はAndré Gagnon
曲名は『Vue Sur La Mer』……日本語で『海の見える丘』
2001年に発売されたCDに収録されていたようなので、年代的にも矛盾はない。


十数年ぶりに聞いたので「こんな曲だったかな……?」と思ったのだが、ランドマークタワーの内観をはっきり思い出したところで、この曲だと確信を得た。


夏の青い空と、心地の良い潮風の桜木町。
火照った体を冷やす冷房の涼しさ、田舎者の私には厳かに感じたランドマークタワーの吹き抜けの明るさの中で、部活仲間と話をした記憶。

あの日たった1回だけ聴いた曲は、やさしく、けれどどこか切ないメロディで、16歳の夏の日を、色鮮やかに思い出させてくれた。

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