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9歳の壁と中学受験

 中学受験を意識し、塾に行き始める時期として、都内では早い生徒は小3、大多数は小4、遅くても小5には通塾し始める。
当該地区でも、小5あたりになってから受験を意識しはじめることが多い。
 いずれにしても小4、5年というのは、いわゆる9歳の壁なるものに遭遇する。
その時期にいったい何に気をつけたら良いのか、考えてみたい。


1.9歳の壁


 まずは9歳の壁について、様々な研究や文科省での定義を整理しておきたい。

・子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題:
文部科学省
 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

・「10歳の壁」「9歳の壁」「小4の壁」とは? 子どもの発達段階を意識した4つの対処法
:StudyHacker こどもまなび☆ラボ 編集部
https://kodomo-manabi-labo.net/10years-old-wall


・シュタイナー教育について学ぼう。世界中で取りれられる教育メソッドの目的や授業内容を解説
:HugKumはぐくむ
https://hugkum.sho.jp/136743


・公認心理師が解説する「9歳の壁」。わが子の”壁”を親はどうフォロー
:ソクラテスのたまご
https://soctama.jp/column/63384

 上記であげた資料にも分かるように、該当学年の児童は、精神的にも身体的にもアンバランスな時期に入り、いわゆる反抗期を迎える。
 この壁を上手く乗り越えられるかどうかによって、その先の学力の伸び方に大きく差が生まれてくる。
 というのは、小4までは知識を養うタイプの問題の割合が多いのに対し、小5では思考力を養う問題、単元が増え、内容もボリュームも増してくるため、授業で一度聞いても理解しきれないところが増えていく。

 家庭学習の意味をしっかり理解し、普段から勉強習慣のついている家庭であれば、家に帰ってからその日の勉強内容を確認し、学校から出されている1人勉強ノートに、その日できなかった課題について、なぜ間違えたのか分析しながら復習し、提出することが自然とできている。
 しかし、反抗期だからといって子どもに全てを任せきりにすると、勉強の仕方が分からず、単純作業に陥りがちな漢字練習や計算問題、プリントの丸写しなどの方法しかわからないため、丸暗記による勉強法、つまり、理屈を理解せずにそのまま問題通り、文章通りに記憶しているだけの状態に陥っていることがある。
 さらに厄介なのは、新しい問題に取り掛かるのを何よりも良しとし、肝心のわからなかったところ、間違えていたところを見直して丸つけするということもなく、そのまま放置していることが多い。
 当然このようなやり方では勉強にはならず、思考力は育たないのだが、時にこう言う状態のまま、あちらこちらの塾を渡り歩き、伸び悩んでいるという相談をしばしば受けることがある。

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2.丸暗記学習の弊害


 小学校の中高学年に受験を意識して学習指導を開始した際に違和感を感じるのはこのような学習を積み重ねてきてしまった場合である。
 入塾に際して学習歴などの聞き取り面接、そしてその申告に基づいて確認テストをしてみると、なんらかの教育機関でかなり先取りして勉強をしてきた割には、なんら身についていないことが良くある。例えば英語など小学6年までに英検5級や4級を習得しているが、いわゆるフレーズの丸暗記による勉強法で、文法など問題の理屈を理解せずにそのまま文章の丸記憶をしているだけの状態であるというようなことがしばしば見受けられる。
 このような生徒は、一見コツコツ真面目に勉強しているので、見かけの成績もよい。しかし、単なる丸暗記のため、応用が効かず、問題形式が少し変わってしまうととたんに得点できなくなる。
 また、短時間の面接においても、自分の用意した原稿内容そのままトレースして言うことしかできず、用意していなかった質問をされると、答えに詰まってしまうのだ。

 このように誤った方法で勉強し続けてても、小学校高学年、遅くとも中学には伸び悩んでしまう。さらにやり方を誤ると、また一から指導しなおさなければならなくなる。それが365日、それが何年も積み重なってしまっている場合には、まずは誤った既成概念を解体し、小学校の基礎からやりなおさなければならない場合が多く、非常に時間もコストもかかる場合が多い。

 本番に強く、実力テストで得点できる生徒、そして、それが先々まで通用する力となっていけるかどうかは、こうした幼少期からのちょっとした日々の意識の差、勉強習慣の差、勉強の方法の差から生じているのだ。
 小学生の勉強、とりわけこの9歳前後からの学習が将来の道を左右すると言って過言ではない。

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3.自己肯定感を育む


 この時期に勉強や人間関係においてつまづいてしまったり、できないというネガティブな意識を積み重ねてしまうと、子どもの自己肯定感の成長を阻んでしまう。そして、その先にあるのは、ネガティブな思考であったり、他者に向けての加害行為へと変容することもあるので、より注意が必要だ。

 〇〇さんはこう言っていたけど、△△さんはああ言っていたんだよね、おかしい、変だよね?

 家庭で子どもがこのように、友達のことを悪く言うような言動が増えたら赤信号だ。それが学校においても実際に言葉や行動に出てくるようになれば、それはもはや言葉の暴力になりうる。

 このように非常に難しい時期に差し掛かる4、5年生においては、学校の先生方も学級経営も非常に難しい時期だ。自己肯定感の低い生徒の集団になると、学級崩壊へ向かっていきやすい。こうなってしまうと、加速度的に勉強する環境が悪化してしまう。

 では、自己肯定感の低い子どもにならないようにするにはどうしたらよいのだろうか?

 まずはわからないところはその日のうちに復習し、わかるようにするという習慣づけからはじめよう。
 そしていろいろなことにチャレンジして小さな成功体験を積み重ねることが大切だ。
 現実問題として、つい子どもに毎日叱りっぱなし、怒りっぱなしになりがちだ。私も実際、毎日叱りっぱなしである。世に言う褒めて伸ばそうなんていうのは絵空事だとすら思っている。しかし、良かったと思えるところは必ず言葉にして褒めている

 あ、今日はこんなところ覚えたね⁉️
 前回より⭕️増えたね⁉️
 勉強わかるようになってきたね⁉️
 早くできるようになったね⁉️

 このようなささいな言葉が、子どもにとって何より嬉しい言葉になる。人間は、自己肯定感の実感があるからこそ、つらいことにも立ち向かっていける勇気を持ち続けられる。
 多くはいらない、一日に一回でいいので、子どもを褒め、励ますように心がけてみよう。その積み重ねが、勉強へのモチベーションにも繋がるだろう。



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4.中学受験に向けて


 何より大切であるのは、親子の信頼関係である
 何らかの原因で自らの意志を持って中学受験をすると決めて勉強し始めた子は、自発的に勉強するため、課題を自ら探し、自己分析し、課題の提示を願うまでに、短期間で成長を遂げる。
 逆に親の意志によって受験をさせられている生徒は、何事も受動的であるため、成績もいまひとつ伸び悩む。
 指導側として望みたいことは、親は子を見守ってサポートに徹して欲しいということだ。地面にあるトラップを一つ一つ先回りして除くのではなく、子がそれを見つけ出し、除去できるような力を身につけられるように、そっと後方からサポートして欲しい。
 そうして自ら判断して行動して勝ち得た勝利は、きっと生涯の財産となり、己の力と成りうるだろう。

 これからいよいよ中学受験シーズンも佳境だ。それぞれの目標に向かって頑張って欲しい。


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