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道徳における表現力を育てる

 本シリーズでは、道徳科の授業ではあまり重要視されていない表現活動について述べていきます。なぜなら、私は道徳における表現力を育てることが価値の理解を深めていくために必要な土台となると考えているからです。
その理由も含めて述べていきます。
シリーズの最後までお読み頂けると幸いです。

1 ある日・・・

 教師を始めたばかりのある日のこと・・・
 いつものように淡々とした道徳の授業を終え、「どうして、考え議論する道徳ができないんだろう」と反省していると、休み時間に私の周りに子どもが集まってきました。
 そこで、その一人の子どもに思い切って次のように聞いてみました。
本当に主人公は正しいと思う?」
すると・・・
「イヤ、本当は正しいとは思わない」
「でも、授業ではそう言わないといけないでしょ」
という応えが帰ってきたのです。その声に愕然としました。
と同時に次のようなことを思いました。
「子どもの中では、道徳の時間は正しく理想的な発言をしなければならないという考えが身に付いているんだな」
「いや、私たち教師が植え付けてしまっている」

 ショックを受けながらも、次のように会話を続けました。
「どうして、正しいと思わないの?」
すると・・・
「現実の世界で、あんなことしたら友達に何を言われるか・・・」
と言葉に詰まってしまいました。
そこで、
「それじゃ、あんな行動をしなければよかったんだね」
と尋ね返すと、
「私だったら、逆のことをするかも、どうせバレないから」
と答えました。すると・・・
隣で聞いていたAさんが、
「え〜、本当にそれでいいの?モヤモヤしない?」
と話を繋げてきました。さらに、
「実は同じような経験があって、その時は○○した方がいいと思っていたけど、それがずっと気になってモヤモヤしていたからイヤだったんだ」
と自分の思いを語り始めたのです。
すると、最初は「バレないから」と応えていた子も、
「確かに、それは残るよね〜」
と同調してきたのです。そんな姿を見て、
「このような本音のやり取りの中でこそ、理解が深まっていくんだ」
「これが授業でできれば・・・」

2 子ども開花する瞬間

 そうは言っても、授業で子どもの本音や内心を表出させることは簡単ではありません。
 特に、高学年になるつれ自分の本心を隠したり、全体の場で発言することを控えたりしてしまいます。

それはなぜか・・・
自己表現することに価値を感じていないからです。
「自分の本音をいうと笑われた」
「授業では先生の求められるような答えしか取り上げられない」
「黙っていれば恥をかくことはない」
などの様々な経験を通して、授業で自己表現することやめてしまったのです。
 しかし・・・
 今の自分のありのままを素直に表現することが、クラスの中で1番大切であり、価値のある行為なんだと気付いた瞬間から、子どもの自己表現力は開花します。
*その価値に気づかせ、開花させる方法については後々述べていきます。

3 道徳的な表現力とは

 子どもが自己表現力を発揮し、素直に語り始めるとふと気づくことがあります。
 それは・・・
 その自然で素直な語りの中に、「道徳における見方・考え方が潜んでいる」ということです。
 しかし、子どもの表現はまだ拙く(つたなく)完成されていないものです。
 そのため、授業では、
「ん〜、なんて言ったらいいんだろう」
「言いたいけど、言えない」

など、言葉にならない言葉でなんとか伝えようとします。
 そこで教師が、「少し考えがまとまってから話してね」と言ってしまうと、その子ども大切な考えの芽を摘んでしまうだけでなく、価値を深めるための火種を一瞬で消し去ってしまうようなものです。
 なぜなら・・・
 その完成されていない声こそが、子どもの思考が一番活性化している時であり、考えが深まる重要な瞬間だからです。
 東京大学名誉教授の秋田喜代美氏は次のように述べています。

たどたどしく、途中で言い換えたり、切れ切れで、袋小路のように行き詰まったりすぐに方向性が変化したり仮説的に述べらる発話を「探索的な言葉」という。これは新たな考え方に接近している最初の段階によく見られる。学習の主体として、以前の考えから新しい考えを生み出す手段として言葉が働いている時の言葉である。

秋田喜代美「教育科学国語教育」2011年6月号

 私は、この子どもの辿々しく、言葉にならない言葉だが、新たな考えに新しい考えを生み出そうとしている言葉のことを「道徳的な表現力」と捉え、その表現力を育てることで、少しずつ道徳の授業が「考え、議論する授業」へ変わっていったのです。

 そこで、本シリーズでは私の考える「道徳的な表現力」を育てると同時に、子どもの自己表現力を高める方法について述べてまいります。

次号では、その方法について迫ってみたいと思います。

*私のnoteでは、2週間に一度、「道徳科の授業づくり」について書いております。興味のある方はフォローして頂けると幸いです。

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