[読書]パフォーマンス・マネジメント -問題解決のための行動分析学-
パフォーマンス・マネジメントとは
組織において、先行条件や結果などの環境を操作することによる行動の変化を測定し、両者の因果関係を見出すものだ。
例えば、学校で廊下は静かに歩こうとレクチャーした後に
* 廊下で(先行条件)
→ 静かに歩いたら(行動)
→ 先生に褒められた(結果)
* 廊下で(先行条件)
→ 静かに歩いたら(行動)
→ 先生に褒められなかった(結果)
と、先生が結果を操作したときに、生徒の行動がどう変化するのか?どうすれば良い行動を導きパフォーマンス(行動の成果 達成)を上げられるか?先行条件の方を操作したらどうなるのか?と、いったものだ。
歴史
行動分析学がベースとなっている。動物などの行動の研究からはじまる(実験的行動分析学)。やがて社会への適応が始まり、障害児教育で最初の成功を収める(行動修正)。その後、アメリカのコンサルタントが大手企業に導入したことで組織への応用されるようになった。
研究で実証された手法を実践の問題解決に使い、パフォーマンスが向上されたか検証する。
分析手法
例でも示した、
・先行条件[Antecedent](~のとき)
・行動[Behavior](~したら)
・結果[Consequence](~になった)
を行動随伴性と呼ぶ、行動随伴性の分析方法の一つが本書で解説しているABC分析という、それぞれの単語の頭文字をとったものだ(流通業で使われているABC分析とは当然ながら別物)。
例での「褒められた」のような行動を強化する"何か良いこと"を[好子 こうし]と呼び、逆に「褒められなかった」のような"何か悪いこと" を [嫌子 けんし] と呼ぶ。
行動随伴性にはいくつかの原理がある。いくつか例をあげる
* 強化の原理: 行動することで、何か良いことが起こったり、悪いことがなくなったりすると、その行動は繰り返される
* 弱化の原理: 行動することで、何か悪いことが起こったり、良いことがなくなったりすると、その行動は繰り返されなくなる
* 派生の原理: 好子や嫌子が現れると、そのとき、そこにいた人やそこにあったもの、状況などが、好子化したり、嫌子化したりする
* 反発の原理: 嫌子が出現したり、急に行動が消去されると、反発したり、相手を攻撃する行動が起こりやすくなる
* 分化の原理: 強化される行動は、強化されない行動に比べて増えてゆく、弱化される行動は弱化されない行動に比べて減ってゆく
最初の例だと、静かに歩いたことで(行動) 先生に褒められる(結果)と、強化の原理が働き、静かに歩くという行動が強化されるということだ。
また、以下の例の場合
* (A先行条件)廊下で
→ (B行動)大声で歩いたら
→ (C結果)先生に激怒された ↓[嫌子]
反発の原理が働き、先生に反発したり、口答えなどの攻撃が起こりやすくなる。
* (A先行条件)先生に激怒されたら
→ (B行動)先生が困るように言い返した
→ (A結果) 先生が困ったので気分がすっとした ↑ [好子]
さらに、派生の原理が働き先生の顔を見ただけで嫌悪感を抱くようになるかもしれない。
* (A先行条件)先生に激怒される
→ (B行動)嫌な気持ち
↓↓ 派生の原理
* (A先行条件)先生の顔をみる
→ (B行動)嫌な気持ち(条件反射)
※結果がないのは、レスポンデントという反射行動だから (結果がある行動はオペラントと呼ぶ)
では、どうしたらいいのか?今度は、先行条件の操作が必要になる。先行条件を増やすのだ
* (A先行条件) 先生が廊下で静かにあるくことを説明し、実践してみせる : 廊下で
→ (B行動)静かに歩いたら
→ (C結果)先生に褒められた ↑
うまくいったら、先行条件を徐々に減らしてゆく。
組織での応用
先ほどの例は、学校での先生と生徒というシチュエーションだったが、組織での仕事だった場合はどうだろう?
最近はあまり見かけなくなったが、昔は、無意味に怒鳴り散らしたり「俺は部下を褒めない、褒めたら成長しない!」と言い出す人がいたけど、最近は見なくなった(企業の研修って割と効果あるのですね)。
では、ちゃんとマネジメントできているかと言えば難しい。
例えば、以下のように無意味に褒めたら、行動がどんどん悪化しそうだ。
* (A先行条件)仕事中に
→ (B行動)適切な行動をした
→ (C結果)上司から褒められた ↑
* (A先行条件)仕事中に
→ (B行動)不適切な行動をした
→ (C結果)上司から褒められた ↑
* (A先行条件)仕事中に
→ (B行動)何もしていない
→ (C結果)上司から褒められた ↑
※ 訂正 先行条件「仕事中に」のところに「〇〇という仕事をしたら」と行動を書いていました。コメントで教えてくれた高橋さん。ありがとうございます!
また、以下の場合はどうだろう?「忙しそうに見える(行動)」が強化され、「問題を解決する(行動)」が弱化されてしまう
* (A先行条件)解決すべき問題があるとき
→ (B行動)会議を開く
→ (C結果)仕事が続く↑ 上司から褒められた ↑
* (A先行条件)解決すべき問題があるとき
→ (B行動)問題を解決した
→ (C結果)仕事がなくなった ↓
そして、特に注意したいのが「個人攻撃の罠」だ。
今回の「行動分析学」でも「マネジメント」でもいいが理屈で考えておかないと、仕事上のうまくいかない要因を個人の資質とか仕事への態度とかに転嫁しやすい。これを個人攻撃の罠という。部下から上司でも不幸だが、上司から部下だと目も当てられない。
よい行動を強化するための「A先行条件」と「C結果」を良く考えて組織が回るようにすべきだ。
本書では、いろいろなパターンの説明があるし、根拠となる論文の掲載もしてあるのでお薦めできる。
最後に「行動」について、「B行動」とは「~したら」の部分だけど、範囲は「死人にはできないことすべて」になる。行動かどうかを判断するには死人ができるかできないかで判断すればいい(死人テスト)
・あいつは、仕事をしていない
・あいつら、何にもしていないんだよ
のようなセリフが出てきたら要注意だ。
死人は仕事をできないし、何もできないことができる。
先ほどのセリフは「行動」について話していないということになる。
追記 ずっと好子を与え続けなくてはいけないのか?
よい行動を強化するためにずっと好子(例えば褒める)を与え続けなくてはいけないのか?与えるのをやめたら良い行動もなくなるのか?と、いう疑問が出てくると思います。
それに対しては本人の価値観まで昇華させれば良いようです。
価値観: 過去の行動随伴性から派生の原理が働き 好子として機能することになったもの
つまり、上の例だと「静かに歩くこと」で褒められることが重なり、やがて「廊下は静かに歩くものだ」という価値観になれば褒めなくても静かに歩くし、他の子どもにも良い影響を与えることになる。
価値観は行動なのか?という疑問に関しては死人テストをしてみてください。死人は価値観を持っているのか?持っていないのか?死人ができないことは行動です。(あくまで行動分析学上での定義です)
同じ著者の本。より組織に特化した内容です。
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