[読書] フィンランドの教育はなぜ世界一なのか
フィンランドは人口550万人の小国だが、世界トップの教育レベルだ。しかも従来の競争型教育ではなく、これからの時代に必要な協調型の人材を生み出す教育になっている。
本書は息子さんを小学3年まで日本の教育。大学卒業までをフィンランドの教育を受けさせた著者の考察だ。主観的な意見なので参考になる部分も多いだろう。
国の政策
フィンランドは99%が公立の学校だ。私立の学校というのはごく一部にしかない。さらに授業料は大学に至るまで無料だ。さらに学校でのサポートが充実しているので塾もない。
そして教育にかける時間は日本の半分程度。それでいて学力は高い。
フィンランドが国策として教育に投資を惜しまずに取り組んだ結果だ。教師になるには学士ではなく博士である必要があり、弁護士などと同じステータスがある人気職業だ。
さらに自治体、学校への権限移譲が進んでおり国が一律の方法で教育を推し進めていない。教科書検定制度なども当然ない。
つまり優秀な人材への権限移譲というビジネスでも有効な手段を使っている。
効率的な教育
フィンランドの授業時間は日本の半分程度だ。教育に不要なものは行われない。例えば入学式もなければ運動会もない。クラブ活動もない。(高校の卒業式だけは盛大に行われるらしい)
小学校のころから様々な言語が学べる。フィンランド語で授業は行われるが、小学校3年でイギリス英語、5年でスウェーデン語、6年でフランス語・スペイン語・ドイツ語を選択して学べる。
また、よき社会人となるための「人生観の知識」という授業が小学、中学、高校まである。この内容は本書でも数ページに渡って説明されている。アリストテレスからカントまでヨーロッパを代表する哲学についても学べる。協調型の人材育成に重要だと感じた。
法・権利・平等
フィンランドでは学校では法律が遵守されている。
当たり前のようのことのように感じるかもしれないが、日本の学校は法律が遵守されていると言い切れないように感じている。
誤解を恐れずに言えば日本の学校の一部は事実上の治外法権状態なっているのでは?とすら思うところがある。
巨大な組織なのに、それを規定する法律がないPTA。
暴力行為や軽犯罪は学校内で処理することが多いのではないだろうか?
校則の中に違法なものはないだろうか?
フィンランドにもいじめ問題はある。でも日本とは違い「いじめ」は法的な問題である。
そして、フィンランドでは「教育を受ける権利」がある。日本は親が子供に「教育を受けさせる義務」正しくは「学校に行かせる義務(就学義務)」がある。だからフィンランドは親の経済状況に影響を受けずに平等に教育を受ける権利があるのだ。
だから、大学まで授業料は無料であり、高校までは給食も無料なのだ。
フィンランドでの「教育を受ける権利」は同時に「義務」も伴う。権利だからと言って教育を受けなくていいわけではない。
著者の息子さんはフィンランドで応用科学大学(より実務に近いことを学ぶ大学)を卒業した。応用科学大学での費用について詳しく説明がある。
まず授業料は無料だ。さらに経済条件に寄らず学ぶことができるための「学習支援」がある。
「学習支援」は給付型奨学金、学習ローン、家賃補助から成り、返却する必要があるのは学習ローンだけだ。
著者の息子さんは合わせて月額120,900円の学習支援を受けており、社会人になった後は月額26,000円を8年で返却する見込みとのことだ。ただし、給付型奨学金と学習ローンの比率が変わったので、息子さんの頃より返却は厳しくなるようだ。
とは言っても授業料無料に加え、これだけの支援があれば、親の経済状況に寄らず平等に教育を受ける権利があると言ってもいいだろう。
まとめ
本書に書いていないことを少し。
WindowsやOffice製品で世界的企業になったマイクロソフトはかつて、ライバル会社との殴り合いの競争を制する企業として有名だった。ビルゲイツが本格的に引退するときに残したという今後の在り方のメモを元に、現CEOのナデラが方向転換を果たしたマイクロソフトは他企業にも従業員とも協調し合う協調型企業へと変換した。あのマイクロソフトですら協調型の企業になったのだ。
当然、これからの世の中は他人を蹴落とす競争型の人材より、協調型の人材が重要になる。フィンランドの教育はそれを見据えている。
アジアでも台湾はフィンランド型の教育へ梶を切っている。
また、IT立国国家として名高いエストニアも同じ方針での教育に力をいれている。
日本の教育には長い歴史があり、実績も残してきた国だ。方向転換が難しいのはわかる。でも、いずれどこかで梶を切る必要があるのではないかと思う。
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