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[読書]世界で生きる力_国際バカロレアが子どもたちを強くする

日本でもいよいよ教育改革がはじまる。

まず大事なことは日本は明治維新を契機に欧米レベルまで国を発展させ、戦後の復興を遂げ経済大国になった国であり、その地盤となった教育には長い歴史がある。ノーベル賞受賞者の数も多い。日本の教育は成果を出し続けていたということを認識することだ。
しかし、時代の変化に追い付くために変化しなくてはいけない。そして大きな成功体験を持っているだけに改革は難しいということだ。人口も多い国なのでより困難なことになる。正直な意見を言えば、文部科学省のすすめる改革は大変になるだろうと思う。小さい子供を育てている親世代の人たちは心配が大きいのではないでしょうか?

さて、
教育改革の方針となるのが、主体的で深い学びを実現する「アクティブ・ラーニング」だ。
これまでの教育は答えのあるものを知識として覚える教育(知識伝達型授業)から、主体的に学ぶ力(生きる力)を学ぶ教育へ変化するということになる。

これはアクティブ・ラーニングの学習指導要領の方針や、アクティブ・ラーニング&カリキュラム・マネジメントサミット2019の資料を読んでも分かる。

アクティブ・ラーニングで国際的な長い歴史を持ち、実績もあり、文部科学省も導入を推進しているプログラムが「国際バカロレア」だ。

国際バカロレアとは国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が実施する国際的な教育プログラムであり、1968年に発足。同機構は国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)授与。認定校にたいする共通カリキュラム作成などを行っている。
国際バカロレア資格は長い歴史があり、平均点が毎年大きく変動しない(29点/45満点)ことと、高い評価を得ているカリキュラムが公開され、認定校への国際バカロレア機構の監査もあるんで、ハーバード大学やオックスフォード大学、ケンブリッジ大学などの難関大学も独自の基準を設定し、国際バカロレアを入学資格として認めています。
例えばケンブリッジ大学だと40-41点が受け入れラインで、他の要素と合わせて入学受け入れが判定されます。

日本においても文部科学省が国際バカロレア認定200校を2020年までに達成を目標に掲げています(残念ながら2020年の実現は難しそう)。また、国内の大学へも国際バカロレア資格の入学制度の整備が進められています。

国内の公立、小中高の学校をすべて国際バカロレア認定校にするのは無理でしょうが、アクティブ・ラーニング推進に向け国際バカロレアを参考にすることは多いにありそうです。ちなみに2020年6月時点の認定校は以下になります。

国際バカロレア認定校等数:159校(令和2年6月30日時点)
PYP  認定校43校 候補校等17校
MYP  認定校19校 候補校等16校
DP   認定校51校 候補校等13校

上記は同じ学校で複数のコースをとっているので重複がある
学校教育法第1条に規定されている学校 44校

引用 https://ibconsortium.mext.go.jp/ib-japan/authorization/


国際バカロレアのコース 

以下の4つがあり、日本の学校制度と合わせると、小学校がPYP、中学~高1がMYP、高2~3がDPになります。
DPの最終試験で45満点中24点を取れば国際バカロレア資格を得ることができます。

 PYP (Primary Years Programme) 3-12歳 精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラム。どのような言語でも提供可能。
 MYP (Middle Years Programme) 11-16歳 青少年に、これまでの学習と社会のつながりを学ばせるプログラム。どのような言語でも提供可能。
 DP (Diploma Programme) 16-19歳 所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能。原則として、英語、フランス語又はスペイン語で実施。
 IBCP (Career-related Programme) 16-19歳 生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を重視したキャリア教育・職業教育に関連したプログラム。一部科目は、英語、フランス語又はスペイン語で実施。

DPについて https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/dp/

国際バカロレアの学習者像

では、どんな人物に育てようとしているのでしょうか?国際バカロレアの学習者像が定義されています。
知識を詰め込むばかりの教育とは違い、まさにこれからの時代を「生きる力」を育てようとしているのが分かります。これだけできればどんな仕事でも即戦力だと思う。

探究する人
 私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。
知識のある人
 私たちは、概念的な理解を深めて活用し、幅広い分野の知識を探究します。地域社会やグローバル社会における重要な課題や考えに取り組みます。
考える人
 私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理的な判断を下します。
コミュニケーションができる人
 私たちは、複数の言語やさまざまな方法を用いて、自信をもって創造的に自分自身を表現します。他の人々や他の集団のものの見方に注意深く耳を傾け、効果的に協力し合います。
信念をもつ人
 私たちは、誠実かつ正直に、公正な考えと強い正義感をもって行動します。そして、あらゆる人々がもつ尊厳と権利を尊重して行動します。私たちは、自分自身の行動とそれに伴う結果に責任をもちます。
心を開く人
 私たちは、自己の文化と個人的な経験の真価を正しく受け止めると同時に、他の人々の価値観や伝統の真価もまた正しく受け止めます。多様な視点を求め、価値を見いだし、その経験を糧に成長しようと努めます。
思いやりのある人
 私たちは、思いやりと共感、そして尊重の精神を示します。人の役に立ち、他の人々の生活や私たちを取り巻く世界を良くするために行動します。
挑戦する人
 私たちは、不確実な事態に対し、熟慮と決断力をもって向き合います。ひとりで、または協力して新しい考えや方法を探究します。挑戦と変化に機知に富んだ方法で快活に取り組みます。
バランスのとれた人
 私たちは、自分自身や他の人々の幸福にとって、私たちの生を構成する知性、身体、心のバランスをとることが大切だと理解しています。また、私たちが他の人々や、私たちが住むこの世界と相互に依存していることを認識しています。
振り返りができる人
 私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く考察します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所を理解するよう努めます

引用 https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/dp/

日本の教育がどうなるか分からないけど、アクティブラーニングに対する不安そのものはだいぶ薄れたのではないでしょうか?
少なくとも国際バカロレアでは評価が標準化(運やエコひいきではない評価)され、海外のハイレベル大学も認める学習内容となっています。
親世代は国際バカロレア認定校に子供を通わせなくても、アクティブラーニングの成功例である国際バカロレアをよく知ることで、文部科学省やこれから子供たちが通う学校のアクティブラーニングの取組の評価をしたり、意見を言えるようになるのではいでしょうか?

さて、ようやくここから本書について

著者は本書発行時(2014年)に日本でインターナショナルスクールを運営し、国際バカロレア機構アジア太平洋地区理事でもある坪谷ニュウエル郁子さんです。
少し古いので本格的に参考にするには情報が新しいか確かめる必要があります。

事例としてPYP(東京インターナショナルスクール)、MYP(玉川学園)、DP(立命館宇治高等学校)の事例が紹介され、生徒の声も紹介されています。また巻末に下村文部科学省大臣(当時)からのメッセージがあります。

前半部分は国際バカロレアがなぜ求められているのか?そもそももこれからの時代を生き抜くチカラとは?に対する著者の考えが書かれています。
新しい時代を生き抜くチカラとして 21世紀スキルが紹介されています。

21世紀スキルは国際団体ATC21sによって定められた、デジタル時代となる21世紀以降必要とされるリテラシー的スキルです。

具体的には以下の4分類10項目のスキルで定義されています。

創造力とイノベーション
 批判的思考、問題解決、意思決定
 学びの学習、メタ認知(認知プロセスに関する知識)
 仕事の方法
情報リテラシー
 情報通信技術に関するリテラシー
 仕事のツール
コミュニケーション
 コラボレーション(チームワーク)
 社会生活
地域と国際社会での市民性
 人生とキャリア設計
 個人と社会における責任(文化に関する認識と対応)

著者は国際バカロレアは21世紀スキルを育む教育としています。

また、著者は学校の経営者でもあるので、その視点からの教師についても述べられています。
国際バカロレアの認定校への監査、外部評価制度による教師の生徒への評価の仕方の審査なども述べられています。

外国人教師は年俸は高いけど終身雇用ではないので結果的に費用が抑えられるということも経営者らしい意見だと思いました。これまで日本型教育で成果を出してきた先生たちの中には急に方向を変えられない人も多いでしょうから、終身雇用でない外国の先生を雇って、彼らから柔軟な考え方のできる日本の先生たちが学ぶことは効率的だと思います。

国際バカロレアの中核である「TOK知の理論」の本も読んだのですが、長くなったので別の機会で



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