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[読書] ハーバード流 "NO"と言わせない交渉術

この本は以前に読んでnoteにも書いた 「週4時間だけ働く」で勧められていた本だ。煽り気味の書名には良い印象を持てなかったが、実際に読んでみると内容はとてもしっかりしている本だった。


日本人は欧米諸国と比べ交渉下手だと言われている。欧米諸国では学校でディベートなどを学ぶからかと思っていたがそうではないらしい。この本ではディベートと全く逆のことをやるように薦めている。つまり交渉は自分が勝利して相手が負けるような対立ではなく、協力だということだ。
相手との信頼関係を作ることが交渉においても、その後においても大切なことなのだ。

この本は交渉における5つのトピックで説明してある。それぞれを簡単にまとめてみた

自身の感情コントロール

交渉とは得てしてうまくいかないものだ。腹をたてることもあるだろう。そんな時に「反撃」「譲歩」「断交」のような反射的な反応を見せてはいけない。まずは自分の感情をコントロールする必要がある。これをバルコニーに上がるという。バルコニーに上がり視野を広げて対策を練る必要がある。

まずは時間を置く。
「怒りを感じたら口を開くまで1から10まで数える。ひどく怒りを感じたら100までだ」とは、アメリカの第三代大統領のジェファーソンの言葉。その場で結論を出さずに一晩おくのも良い考え方だ。

また、振り返りも効果的。交渉内容を振り返ったり、
「あなたがおっしゃっていることを私が正しく理解しているか確認させてください」などと言ってメモを取ったりする(メモはその後の交渉の武器にもなる)。

そうしているうちに相手の背後の状況や、「妨害」「攻撃」「詐欺」などの戦術が見えてくる。冷静に対応すればよい。

自分の最良の選択は3つある。
・相手との交渉を切り上げて自分1人で決める「逃避的選択」
・交渉相手に自分の条件を認めさせる「相互作用的選択」
・第三者に託して自分の要求を通す「第三者委託的選択」

交渉には必ず期限を設けておくことも大切だ(しかしそれは厳守すべきデッドラインではない)。

大切なことは相手に対して腹を立てたり、仕返しをしようとする代わりに、自分の望んでいる最高の目的をかなえることを考えるだ。

相手の武装解除

まず相手を尊重する必要がある。相手に圧力をかけたり、抵抗したりせず、相手の話を聞くようにする。「私があなたの立場なら、そうでしょう」と相手を尊重する言葉を使う。
・「他につけくわえることはありませんか?」
・「なるほど、よくわかります」
・「それからどうしました?」
有能な交渉者は自分の何十倍も相手に話させる。相手になるべくイエスと言う。そして動作も相手に合わせる。
・「しかし」という言葉のかわりに「はい、そして」という言葉を使う。
・相手の言葉を言い換える。
・主語を「私は」に変えて言ってみる(相手を非難するのではなく、自分の立場(悲しい、つらいなど))。しかし相手の論点を変えてはいけない。あくまで尊重だ。

相手意見と自分意見のどちらかではない。どちらもだ。同意できる1%に焦点を当てる。

基本的な考え方は「相手は敵ではない。お客さまだ」だ。もちろん自分に不利な譲歩とは違う。

ゲームのやり方を変える

お互いの感情的な対立を超えても交渉が難航する場合はゲームのルールを変える交渉に切り替える。

相手の立場は相手個人のものではないこともある。背景にある組織全体に目をくばる。相手になるべく答えさせるような質問をする。
・相手の論理的根拠はなにだろうか?
・YesかNoで答えられない質問をする。
・1つか2つは相手が満足するような質問を用意する。
相手が沈黙したら解決に糸口が見つかる予兆かもしれない。沈黙をやぶるためだけに自分から言葉を発してはいけない。

相手は圧力をかけてくる場合もあるだろう。視点をずらすことを考える
・相手の圧力を再解釈する。
・相手のデッドラインを気にしない(単なる駆け引きだ)。
・相手の圧力をかけている部分に第一焦点をあてない。
・相手の個人批判は攻撃は徹底して無視する。

自分のプランとしては、常に懐に対策案を持っておくことが大切だ。また、一度は相手に面子を立てさせるなどの対策も。
「あなたと私」ではなく「私たち」に変える必要がある。

以上が、お互いの主張をめぐるやりあいをルールを変えて再構築する方法だ。

相手がYESと言いやすいように

考え方は相手の立場から最善策を探ることだ。
相手への金の橋を渡してあげることで、相手はYESと言いやすくなる。

まずは相手の立場に立つことだ。相手の神経を逆なでしているものは何なのか?相手の表には表れない根本的欲求は何なのか?相手の面子は立つのか?

そして、相手の立場を保つ方法を考える
・相手に勝利宣言させ、同時に自分も勝利もできる方法は?
・相手の周囲の目と耳に注意し、相手が譲歩したように見えないようにするには?
・相手が譲歩しやすくなるように第三者をたてることも有力は方法だ。

そのためには、相手を当時者として巻き込む。相手の意見に+アルファする。自分が相手からのフィードバックを求めていることを強調する。

小さいことから解決してはずみをつけることができるなら、そこからはじめるのも有力だ。

相手がNOと言いにくいように

考え方は「力づくの勝利は大利を得ない」だ。力の行使は使わない、または最小限にすることを考える。

決定的な対立のまえに相手に助け舟をだしてあげる必要がある。警告と脅迫は違うのだ。
・二者一択にしない。
・圧倒的な有利な状況でも手順を踏む。
・第三者をたてることも有力な方法。
・最良の選択だけにこだわらない。
追い詰めないことだ。

警告には3つの質問が効果的だ。
・われわれが同意しなかったらどうなる?
・私はいったいどうしたらいいと思うか?
・あなたならどうする?

こちらが有利でも力は見せるだけでいい。感情的に相手との関係を破壊することは結局はコストが高くなるものだ。

感想

相手の立場を尊重するというスタイルが本を読む前の想像とは異なっていた。

僕は交渉は得意とは言えないので、この本のようにノウハウだけではない考え方から教えてくれる本は貴重だと感じた。上記のまとめは箇条書きだが、本書では実例とともに詳しく解説されている。もし興味がでたら読んでみてほしい。

本書を読んでいて、交渉についての日本の歴史を思い出した。
どうも昔から日本人は交渉力がないイメージがあるが、幕末・維新時の薩摩人は何故か交渉が得意だった。

戊辰戦争で庄内藩が降伏したとき。戦後の交渉にあたった西郷隆盛はまるで自分たちが降伏したような態度をとって見せて相手の立場を尊重した。庄内藩の人々は面子を守ってくれた西郷に感謝し戦後処理に協力した。
その辺の機微がわからない他藩の新政府軍の役人は降伏を打診してきた諸藩に横暴な態度をとったために徹底抗戦されてしまった。西郷は交渉というものがよく分かっていたのだ。

明治になり、日本(薩摩)の支配を受けながら清(中国)へ朝貢していた琉球(沖縄)の帰属問題がでたときに、台湾(清に帰属)した琉球の漂流民が台湾の住民に虐殺される事件が起こった。これに対し明治政府は台湾へ出兵した。つまり、まだ日本国民か決定していない民の報復として外国(台湾:清)へ軍隊を派遣し軍事行動をしたのだ。しかも清にも通達もせず、当時巨大な影響力を持っていた列強にも根回しもせずにだ。当時でも大問題となった。

この難しい交渉を北京に出向いてまとめたのが薩摩出身の大久保利通だ。なんと清に見舞金の支払いを払うことに合意させた。そして、清が日本の軍事行動を認めたことにより琉球民が日本人ということになり琉球の日本帰属が国際的に承認されることとなった。
列強諸国や清国内事情を見抜いた上での交渉であったらしい。
当時の薩摩人の交渉力は現代の日本人を含む、その後の日本人の交渉力以上のものだったことが伺える。


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