怖い話

オカルト仲間で、そういった画像や動画の収集癖がある友人から
「おい、今まで観た中で一番怖い映像を手に入れたぞ」
と連絡が来た。
「一番って誰調べだよ」
「もちろん俺の中でだけど、観たらお前も一番だって言うだろうな、とりあえず今から向かうわ」
LINEでそんなやりとりをし、私は彼を待った。
三十分経たずにそいつは部屋に上がり込んできた。挨拶もそこそこに、バッグからなにも書かれていないDVD-Rを取り出し、それを私のPS4の中に半ば押し込むように挿れた。
「今回はどんなインチキ映像仕入れたんだよ」
「いいから黙って観ろ」
普段、顔を合わせれば冗談を言ってくるような奴が、真顔で画面を見つめている。私もそれ以上茶化すのはやめ、DVDが再生されるのを待つ。

画面に映し出されたのは、薄暗く、狭いホールのような場所。そこに恐らく十代の男女二十人が、横二列に並ばされている。後列の足元には台が置かれているのだろう、定点カメラは二十人全員の顔をしっかり映し出しているが、彼らは一様に痩せ細っていて、どろりとした生気の無い目を虚空にさまよわせている。
数十秒ほどの沈黙。直立不動のままほとんど動かない二十人の少年少女たちから目を離せずにいると、その中の一人が突然、叫ぶように声を出した。
『今日、◯年◯月◯日、僕たちは、巣立ちます』
卒業式の群読? だとしたらもっと明るい場所で、BGMでも流しながら行うはずだ。私の疑問を置き去りにして、また別の一人が叫ぶ。
『今日まで、毎日優しくしてくださった』
『先生方』
『そして、楽しかった』
『先生方』
何かおかしい。
『色々なことを教えてくださった』
『先生方!』
『いつも私たちを殴り、蹴り、痛めつけてくださった』
『先生方!!』
『私たちのようなゴミに言葉や礼儀や何が幸せであるかを教えてくださった』
『先生方!!!』
彼らの声は次第に大きくなり、しかしそれに反比例して抑揚を失っていく。まるでカルト宗教団体のセミナーのように「先生方」への感謝を伝える合唱が続いている。
「おい、これなんなんだよ!」
我慢出来なくなり友人を見ると、奴は画面から目を離さずに言った。
「あるんだよ、日本にまだこういう施設が。親に虐待されたり、両親が死んだりした子供を引き取って保育するって名目で、こんな風に洗脳しちまうような場所が」
「…それがこの映像の“怖い所”なのか?」

てめぇその程度の言葉も言えねぇのか!

突如響いた怒声に私は飛び上がった。
画面に向き直ると、群読の台詞を飛ばしてしまったであろう生徒が、例の「先生方」の一人から暴力を受けている所が映し出されていた。
私は決して怒声自体にビビったわけじゃない。その怒声が一瞬「どこから聴こえてきたかわからなかった」事に恐怖を覚えたのだ。
『感謝の気持ちが足りてねぇんじゃねえのかオイ!』
そう言いながら痩せた少年に暴力を振るう「先生」のその声が、今私の隣で一緒に映像を観ている友人の声と、よく似ていたからだ。
定点カメラが、血を流した少年を引きずりながら画面外へ消えていく「先生」の顔を一瞬捉えた時、それは確信に変わった。
私は恐る恐る友人の方を見る。奴は無表情のまま、私を見て言う。
「今までで一番怖いだろ」

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