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Udemyでの学びを起点に新たな区民サービスを提供。DX推進で重要な現場の理解を得るコツとは?|東京都世田谷区のUdemy活用事例【前編】

東京都世田谷区では庁内のDX化・DX人材育成にUdemy Business(以下、Udemy)をご活用いただいています。Udemyでどのように学び、実践に取り組まれているか生の声をお届けすべく、世田谷区 DX推進担当課 井上さん・金澤さんへのインタビューを全3回にわたってご紹介します。

前編では、世田谷区の「保育施設空き情報サービス」の機能開発にUdemyの学びが役立った事例と、同サービスをリリースするまでの背景について伺いました。

【話し手】
世田谷区 DX推進担当部 DX推進担当課
係長 井上 翔(いのうえ・しょう)さん
主任 金澤 史也(かなざわ・ふみや)さん

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世田谷区DX推進担当課の役割

―DX推進担当課は、どのような役割を持つ部署ですか。

金澤:私たちのチームは各所管課の業務改善・改革の伴走支援と、DX人材の育成が主な仕事です。それぞれの課から色々な課題が持ち込まれて随時プロジェクトに協力したり、庁内の取り組みでいいなと思ったものがあれば入っていったりする場合もあります。

庁内横断型のチームなので色々な所管課と関わることが多く、時が経つにつれてどんどん輪が広がっているなと感じます。私たちも過去には様々な部署を渡り歩いてきているので、庁内に散らばったかつての同僚から個別に相談を受けるケースもあります。

―今回、新たに「保育施設の空き状況サービス」をリリースされたそうですね。このサービスの概要を教えてください。

金澤:世田谷区の保育施設の空き状況を検索できるというもので、以前からあった「せたがや子育て応援アプリ(以下、子育てアプリ)」の機能を再構築してもっと使いやすくしたものです。

保育園には区立や私立、認定子ども園などたくさんの種類がありますが、そうした園の種類やお子さんの年齢を条件に入れて検索すると、区内の保育施設がマップに表示され、各園の場所や空き状況が一目でわかるというものです。LINEから利用できるので専用アプリをインストールする手間もなく、使い勝手も向上したと考えています。

LINEへの移行、地図検索などの新機能追加で扱いやすいサービスとなった

「保育施設の空き状況サービス」の開発背景

―LINEを利用した「保育施設の空き状況サービス」を開発するまでには、どのような背景があったのですか。

金澤:2年ほど前から、庁内では「もうアプリを個別にインストールする時代じゃないよね」という話が出ていて、子育てアプリをLINEに移行してはどうかと提案していました。

その流れの中で「アップデートしなければGoogleストアでの配布ができなくなる」「アップデートに多額の開発費がかかる」という課題が出てきましたので、これを機に現状のアプリからLINEにコンテンツを移行しようという話になりました。

関係各課も子育てアプリに対してもっと良い機能を提供したい、運用に手間やお金がかかるといった課題感を既に持っていたことから、開発にははじめから前向きに協力いただけました。

―なるほど、利用する区民の皆さんの利便性を考えてLINEを検討していたのですね。開発はどのように進められたのでしょうか。

金澤:子育てアプリの所管課である子ども・若者支援課から2名と、DX推進担当課から私ともう1名の計4名で開発チームを組みました。外部リソースを使わず、すべて自分たちで企画・設計・開発・テストまで実施し、開発期間5ヶ月ほどでリリースできました。それぞれの得意分野を持ち寄ったり、足りない知識はUdemyで補いながら進めました。

Udemyで学んだスキルは開発現場ですぐ実践

―すべて内部でリリースまでこぎつけたのは素晴らしいですね!サービスの開発において、具体的にどんな場面でUdemyが役立ちましたか。

金澤:開発手法を模索する中で「Microsoft Power BIで実現できるらしい」という情報にたどり着いたのですが、そのときは誰も使い方を知りませんでした。そこで井上さんがUdemyでMicrosoft Power BIを勉強してくれて、実現したいことを形にしていきました
他にも「これができるらしい、あれもできるらしい」という情報を仕入れては、Udemyで学びながら見よう見まねで作っていきました。

―井上さんがサービスの開発をするうえで、難しいと感じた部分はどんなところですか。

井上:実はサービスを作るということ自体は順調に進められていまして、それよりもデータクレンジング(データの正確性を高める作業)で苦労しました。

「保育施設の空き情報サービス」では、これまで庁内で蓄積していた保育施設に関するデータを利用しました。それらしいデータは一通りそろっているものの、その一部しか実際の業務で使われておらず、全体最適とはなっていない状況でした。

そのため、いざ使おうとすると緯度と経度が逆に登録されていたり、表示順が意図しない順番になってしまったり、地図に読み込んだときブラジルに出てしまったり(笑)することがありました。

一つひとつ実際に地図に表示させながら、誤りの箇所を見つけては関係各課に修正を依頼していたのですが、このやりとりの部分にかなり時間を使ってしまった印象があります。

―作るよりデータクレンジングや他部署との調整が大変というのは非常にリアルなお話ですね。世田谷区では他にもMicrosoft Power BIを使った新たなサービスをリリースされたとのことですが、詳細を教えていただけますでしょうか。

井上:区財政の情報をわかりやすく伝えるため、年度当初予算のデータを可視化する「世田谷区予算見える化ボード」を先日公開しました。

Microsft Power BIで開発・リリースされた『世田谷区予算見える化ボード』

予算には沢山の数値の情報があるのですが、それらの情報を少しでもわかりやすく伝えるという目的で取り組みました。
なお、こちらは当課が作成したものではなく、当課でレクチャーなどの支援を行いながら、財政担当部署の職員に作成してもらったものです。

サービスのプロトタイプを示し「DX実現後の姿」をリアルに伝える

―DX化でよく聞かれる課題として、現場の職員に抵抗感が生まれるというものがあります。今回のプロジェクト推進では現場の合意を得るためにどんな工夫をしましたか。

金澤:まず最初にサービスのプロトタイプを作って所管課の職員に見せに行きました。「こんなに素敵な見た目で使い勝手も良くて、職員の更新作業も楽になる」ということを手触り感を持って伝えることで、「区民の皆さんにとって使いやすいものに変えよう」という合意形成ができたと思います。

もしもプロトタイプや事前の合意形成がなく、いきなり「データのクレンジングをお願いします」と依頼するだけだったら全面的な協力は得られなかったかもしれません。

―現場の気持ちに寄り添った改革を進めていったのですね。

金澤:職員の更新作業が楽になる部分まで考えてサービスを設計していたため、そのことを理解してもらってからは特に現場からの抵抗はありませんでした。

これまでは保育施設の種類ごとに空き状況のデータを作る係が分かれていまして、情報の更新作業に何人もの職員が携わる手間の大きな運用となっていました。それを今回、データを一カ所に集めるように運用フローを見直し、関わる職員を減らしたり事務作業が楽になる工夫をしました。

―DXにあまり馴染みがない方ほど、「それをして何ができるの?」という疑問を持ったり、イメージしづらかったりすると聞きます。現場に対して「ここが便利になる」と示せば、一緒にやっていこうという気持ちに繋がるんだと思いました。

井上:世田谷区だけでなく、おそらく他の自治体でも、今話題に出たような「何でやらなきゃいけないの」とか「業務を増やしてほしくない」という声はまだまだ聞かれると思います。
DX推進は組織横断プロジェクトの場合が多く、難しい部分も多々あります。
その中でもしっかり目的や効果を所管課の職員に伝え、理解してもらうための工夫をするのが大事だと考えています。


中編】につづく