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第3章 1話 居心地スペクトル(1/3)

誰にでもある心の中に抱えている不安や恐れの原点を昇華するためのストーリー。ノンフィクションを元に宇宙法則に則ったストーリーにしてあります。

ストーリースタート

携帯がぱっと16:15から16:16に変わった。その瞬間

「あなたのお気に入りの苦しみって、確かこれよね。」

 ひとりでコーヒーを飲みに来ているはずなのに、目の前に知らない女性が座っていた。

 相席?かと思ったけれど、お店はガラガラ。ほとんど貸切の状態。

 これが脚本なら「あなた一体誰ですか?」というセリフが必要だ。

 しかし、その冒頭一文は、あまりに今の私の心境に必要な求めている答えを含んでいるので、私はこのおかしな状況を無視して

「はい、そうです。」

 女性の目を見てそう答えた。
しかも「お気に入りの苦しみ」って、ちょっとウィットに飛んだ言い方で気に入ったこと、女性がとても自然体で押し付けがましさを感じないことも、状況を飛び越えられた理由だった。

 私は、たった今もそのお気に入りの苦しみを居心地悪く感じていて、なんとかそこから抜け出そうと気分が変わるyoutubeを漁っていたところだった。

 そのお気に入りの苦しみとは。
名称を特定できない。けれど、特に最近私の心を占領している。
甘くもあり、苦くもあり、えぐみもあり直視すると、とことん落ちてゆく。どこに落ちて行ってるのかさえ分からない不安と恐怖心とに飲み込まれる。
 万が一病院に行けば、「鬱の前兆でしょうね」と、きっと抗うつ剤を処方されるだろう。

 目の前の女性が
「確かこれよね」
と見せてくれたのは1枚の絵だった。瞬時にその絵は今の私の状態を言い当ててると感じたものの、絵の意味を言葉にしようとすると深考を必要とした。

 それは同じ人の3つの顔がキングギドラのように別々の表情をして別々の方向を見ている。その一部は重なっていた。
 どの顔も透けていて重なった部分は濃くなっていた。

 真ん中の顔は正面を向き真顔、左側の顔は、ちょっと不安そうな表情で、右側はガッツポーズをしていそうな満面笑顔だった。

 不安そうな表情の顔だけ、手ブレした写真のように輪郭がぼやけている。

 どういう意味なんだろう?
答えを聞く前に自分で解釈を考えてみようと、黙って絵を見つめた。
 じっと、食い入るように。

 60秒を過ぎた時、左側の顔の輪郭はブレたまま、目だけがこちらを見て、私と目が合った。

「へ?」
 この女性の出現の延長線上にはあり得る展開だと納得して、叫ぶこともなく、私は何故かその絵に話しかけていた。

「あなた、誰?」

 本当はさっき言うべきセリフを今、絵に向かって言った。

 その絵の右側の顔が、ゆっくりと口を開いた。

2話に続く

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