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旅のよりよいチョイスを考える

さて、今回は旅の自然環境への負荷を下げるためのよりよいチョイスについて考察していきたいと思います。

旅の環境への影響を概観する

総論として、旅と自然環境への負荷の関係をグラフにするとこんなかたちになるのでは、と考えています。
横軸が旅の段階、縦軸が環境への影響のプラスマイナス(プラスがいい影響、マイナスが悪影響)です。

旅と環境へのプラスマイナス

恐らく現状では、環境にプラスの影響を与えるような日常生活を送ることができている人はごく稀かほとんどいないのではないかと思います。
それなのでベンチマークとしての「日常時の環境負荷」は環境への⊖の方向に設定しています。(図中の茶色の実線)

旅の段階は移動中(行きおよび帰り)と旅行先での滞在中、帰ってきた後の4段階に分けていて、その間の環境への影響を黒の実線で示しています。
旅に関するチョイス次第で変わりる環境への影響を示しているのが点線で、改善する場合を緑の点線、悪化する場合を茶色の点線で示しています。

一般的に考えると移動中は環境への負荷、すなわちマイナスの影響が大きくなりやすいと考えられます。

これに対して滞在中は、屋外で活動したり宿泊先で光熱を集合的に使用したりするため、日常生活よりマイナスの影響が若干少なくなるかもしれませんが、旅の要素(宿泊先、移動手段、参加するアクティビティ)の選択によって大きな差が生まれやすいと推察されます。

そして帰宅後は日常生活に戻っていくわけですが、もし旅先での経験からよい行動変容が生まれれば、日常生活において環境への悪影響を和らげるような選択をするようになる可能性があります。
(裏を返せば悪癖を身に着けてしまうと、悪化することもありうるわけですが・・・)

ここまでの総論をまとめると、よりよいチョイスの方向性として、
・移動中のネガティブ・インパクトをなるべく小さくする(図中①)
・滞在中のインパクトをなるべくポジティブに近づける(図中②)
・帰宅後のよりよい行動変容につながる体験をする(図中③)

の3つが考えられます。

それぞれの具体的な方策について、以下考えていきましょう。

①移動中のネガティブ・インパクトを小さくする

移動が環境に与えるインパクトは、「単位距離当たりのインパクト」×「移動距離」で表されます。

そこで移動中のネガティブ・インパクトを小さくするための方策としては、

近くに行く
単位距離当たりの環境への負荷が小さい交通手段を選ぶ

の2つの方向性が考えられます。

①の「近くに行く」は、シンプルで分かりやすく確かに効果的です。
ただ近場ばかりではいつか飽きてしまうでしょうし、どうしてもここへ行きたいという目的地もきっとあると思います。
環境のことだけを考えて旅は近場しか行かない、というのもなんとも味気ない・・・

そうなると①も考慮しつつ、遠出する場合には②の交通手段を選ぶというアプローチを採用することになるでしょう。

「単位距離当たりのインパクト」とは、例えば人が1km移動する際に環境に及ぼす影響のことです。
その中身として一番注目されているのは何といっても温室効果ガス・CO2。国土交通省が公開している交通手段ごとのCO2排出量は下記の通りです。

出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」

この表踏まえると、

・自家用車より公共交通を選ぶ
・公共交通の中では、鉄道 > バス > 航空の順に選ぶ

というのがチョイスの指針になりそうです。

※島への旅行を考える上では船舶も外せないのですが、なぜか公開されている旅客船のCO2排出原単位のデータが見つけられませんでした。公開されている「内航旅客船のCO2総排出量」と「旅客船の旅客輸送人キロ」から算出すると1,000g以上という結果が出ます。もしこれが正しければ、(直感に反して)ダントツで多いことになります。数字が直接公開されていないことを鑑みると、もしかしてこの数字が正しいのか・・・と勘ぐってしまいます。詳しい方や関係者の方、ぜひ実際の数字を公開していただけるとありがたいです。
※自家用車のうち、再エネで充電しているEVを利用すれば、走行中のCO2排出量はゼロカウントになります。ただ製造時からのライフサイクルで考えるとEVが必ずしもCO2排出が少ないと言い切れない、という主張もあるので、あえて指針には取り上げませんでした。

②滞在中のインパクトをポジティブに近づける

滞在中のインパクトについては、旅の要素ごとにチョイスを挙げてみたいと思います。

宿泊

【マイナスを減らす】
・立地や建築物が環境を圧迫していない
・電熱に再エネを利用している
・省エネ性能の高い電気機器を導入している(空調、LED電気、自動オンオフ照明、etc.)
・廃棄物を減らす努力をしている(生ごみのたい肥化など)
・リサイクル用のゴミ箱がある
・ペットボトル飲料を提供していない
・水のリフィルサービスがある
・水の消費量を減らす努力をしている
・排水を適切に処理している
・リネン類の交換頻度を選ぶことができる
・アメニティの利用を選ぶことができる
・在来種を植生に使用している

【ポジティブを増やす】
・地産地消に積極的に取り組んでいる
・建具・調度品などに地元製品を取り入れている
・地元の自然保護活動を支援している

島のエネルギーがほぼ水力発電で賄われている屋久島のエコビレッジは理想的な滞在先かも

アクティビティ

【マイナスを減らす】
・自然利用に関して守るべきルールやガイドラインが定められている
・地元の自然・文化への理解が認定された地元ガイドと同行する
・環境容量を超えるピーク時を避けて参加する

【ポジティブを増やす】
・環境保全活動に加わる
・環境保全活動に従事・支援するガイド・事業者を利用する
・地場産業を理解し、製品を購入する、広めるなどで支援する

奄美大島ではクロウサキを観察に行くナイトツアーにつき使用する林道の通行制限のルールが定められました

移動

【マイナスを減らす】
・環境負荷の低い交通手段を選ぶ。具体的には、徒歩・自転車 > eバイク > 公共交通機関 > ライドシェア > 個別車両の順
・環境的に脆弱な通行路を利用しない
・動物の活動を阻害する移動を避ける
・生息する生き物の生態をよく知る地元ガイドと移動する

③帰宅後のよりよい行動変容

これは項目として掲げたものの、具体策に落とし込むのがかなり難しいですね・・・
仮説としては、

・頭での理解と身体での体感両方をする
・帰ってからも取り入れられる具体策を体験する
・一人でなく共同で取り組めるコミュニティがある

などなのかな…と考えています。

1回の旅の影響をネット・ポジティブに持っていくのがなかなか難しい中、帰宅後も含めた効果を視野に入れることはとても大事だと思います。

一緒に取り組んで下さる事業者さん、個人の方がいらっしゃいましたらぜひ協働できると嬉しいです。

まとめ

さて、すっかり長くなってしまったので、もう一度よりよいチョイスをまとめておきたいと思います。

①移動のネガティブ・インパクトを小さくする
・近くに行く
・公共交通を選ぶ
・公共交通の中では、鉄道 > バス > 航空の順に選ぶ

②滞在中のインパクトをポジティブに近づける
【宿泊】
・立地や建築物が環境を圧迫していない
・電熱に再エネを利用している
・省エネ性能の高い電気機器を導入している(空調、LED電気、自動オンオフ照明、etc.)
・廃棄物を減らす努力をしている(生ごみのたい肥化など)
・リサイクル用のゴミ箱がある
・ペットボトル飲料を提供していない
・水のリフィルサービスがある
・水の消費量を減らす努力をしている
・排水を適切に処理している
・リネン類の交換頻度を選ぶことができる
・アメニティの利用を選ぶことができる
・在来種を植生に使用している
・地産地消に積極的に取り組んでいる
・建具・調度品などに地元製品を取り入れている
・地元の自然保護活動を支援している
【アクティビティ】
・自然利用に関して守るべきルールやガイドラインが定められている
・地元の自然・文化への理解が認定された地元ガイドと同行する
・環境容量を超えるピーク時を避けて参加する
・環境保全活動に加わる
・環境保全活動に従事・支援するガイド・事業者を利用する
・地場産業を理解し、製品を購入する、広めるなどで支援する
【移動】
・環境負荷の低い交通手段を選ぶ。具体的には、徒歩・自転車 > eバイク > 公共交通機関 > ライドシェア > 個別車両の順
・環境的に脆弱な通行路を利用しない
・動物の活動を阻害する移動を避ける
・生息する生き物の生態をよく知る地元ガイドと移動する

③帰宅後のよりよい行動変容
・頭での理解と身体での体感両方をする
・帰ってからも取り入れられる具体策を体験する
・一人でなく共同で取り組めるコミュニティがある

思いつくままにずらずら並べてしまいました・・・
でも、これでもまだMECEに網羅できてはいないと思います。
例えば一回ごとの旅という枠を超えて考えれば、一回旅に出たらなるべくロングステイして代わりに回数を減らす、というのも環境負荷を減らす有効なアプローチかもしれません。

「この辺も大事じゃない?」というご意見・コメントあればぜひお寄せいただければと思います。
ブラッシュアップしてもっといいチョイスを揃えて行ければと考えています。

何はともあれ、まずは自社の個別のツアーの中でバッジ表示のような形で整理・参照できるようにしていくとともに、なるべくよりよいチョイスが多いツアーを増やしていこうと思います。


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