書く理由 2

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1人で話し続けるという異様な行動を身体と心にどうやって慣れさせるのか。私が採用した改善策はメモを事前につくることでした。扱う話題をいくつか並べておき、話の順序や展開も事前に大体組み立てておく。そういう構成メモを目の前に置くことで無音になることが防げるのです。話の流れまで事前に決めてしまうなんてラジオの自由さやダイナミックさが失われてしまうだろ、と思われるかもしれませんが、私にはこの手段しかなかったのです。そもそも中学からのラジオリスナーなので、ラジオの魅力や生放送の醍醐味についてはそこそこ理解しているつもりです。にもかかわらず、こうするしかなかった。私は根本的にはラジオの話し手に向いていないんだと思います。そんな諦めの思いを感じながら、『内山昂輝の1クール!』は最初の1クールを乗り越えました。

すると、次の問題が出てきました。メモのネタをどうやって生み出し続けるのか、です。メモを作るにも内容が必要で、1クールを超えた先まで番組を続けるにはそのソースが次々と湧いてこなければなりません。ここで役立ったのが自分の趣味でした。私の趣味は映画や海外サッカーを観ること、あとは少々の読書(大半は雑誌)や音楽鑑賞です。コロナ以前は友人たちと脱出ゲームやアナログゲームをやるのも大好きでした。これらについて感想を話したり、それを発展させて分析めいたことを話したり、あるいはその分野周辺の最新情報やそれにまつわる雑感を語ることで尺が稼げたのです。

映画に関しては、ダルデンヌ兄弟の『サンドラの週末』(2014)について語った回を配給会社の方が聞いてくれて、2017年に新作『午後8時の訪問者』(2016)のプロモーションで監督たちが来日なさった際にお話を伺う機会をいただきました。


また、毎年恒例になった企画「内山映画ランキング」では、Netflixのドラマシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』(スコット・フランク、2020年)をドラマにもかかわらず2020年の1位に選んだところ、Netflixのオフィシャルnoteを制作なさっているネトフリ編集部の方々と作品について語り合う座談会に誘っていただきました。

番組で自分の趣味について語っていたら、好きな監督とお話しできたり、好きな作品のプロモーションに協力できたり、棚からぼた餅の幸運でした。

失礼な会話作法を続けながら、自分の趣味で尺を稼ぐ。

この両輪でなんとか走り出した番組は1クールという期間限定のつもりが、年単位で続き、さまざまな投稿コーナーも誕生し、そこではリスナーの方々のメール投稿に支えられました。いろいろな年齢や職業、立場の方々からの創意工夫に溢れたお便りがくるようになったのです。最近は頂いたメールをただ読むだけで、私が何も付け加えなくても既に興味深く面白い内容になっていて、多少自分なりのコメントを足すと、あっという間に30分が終わってしまうことも多く、たくさんのメールを紹介できないという贅沢な悩みを抱えるほどです。


いわゆるアニラジとはちょっと違う方向性、自分の声優としての仕事を全く知らない・興味のない人にも響くような内容、これら当初の狙いはリスナーの方々のおかげで、ある程度達成できたと思います。しかし5周年を迎える頃、この番組において「チャレンジ」がなくなってきたと感じました。1人でなんとなく話すことはできる、約30分の尺は埋まる、コーナーも増えて、ありがたいことにお便りもいただける。次のステップとしてそれぞれの質を向上させることはもちろん重要ですが、そうではなく、いままで不可能だった・難しかった何か新しいことをやってみる「チャレンジ」が消えたのです。そして、これは次の理由とも関連してきます。

 (続く)

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